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第23話 連合の祖母

第23話 連合の祖母


「彼女が島さんを島さんにしてくれたんだね、

そんで、俺たちと引き合わせてくれたんだね…ありがとう」


小さな身体を丸めた甲斐さんがそう言うのを聞いて、

俺たちも続いて、手を合わせた。


「亡くなった島さんは、いわゆる『連合の母』になるね」

「ケイさんそれ違くね? 生きてる方の島さんが設立者で『連合の親』だから、

亡くなった方の島さんは『連合の祖母』だよ」


ケイさんと都さんが祈りながら、そんな言い合いを始めると、

おばさんが本当だと言って笑い出した。

俺も笑って言い返した。


「…いや、サーニャ的には『連合の山中』だろうな。賭けてもいい」

「そんなサーニャとらめーんさんは来ないの?」


サーニャと聞いて、甲斐さんが顔を上げた。


「ふたりとも仕事が忙しいんだ。ぼろぼろのサーニャはロシア出張中、

『サーニャ』のくせして、ロシア語はあんまり出来ないらしい。

らめーんさんはこないだ、長靴返しにうちの店来て、

『天珠黄龍』に全然行けてない、『ねぎらめーん』とか言って大泣きしてた」

「あぇるぅすさんは? 確かあの人も都内住みだったはず」


おばさんが嫌な名前を挙げた。


「あれはもうセクハラ激し過ぎるから誘わなかったよ。

来たら全員餌食にされてしまう」



そんなあぇるぅすさんこと、名波さんはその翌日、

仕事から帰って来たら部屋にいて、あのケミカルな猫と戦っていた。


「で、何勝手に他人の部屋で戦ってる訳?」

「てっちゃん、あのケミカルな猫なんとかしてよ、超むかつく!

おやつあげようとしたら、顔面にキック炸裂とか!」


あのケミカルな猫から受けたダメージなのか、それとも興奮からなのか、

あぇるぅすさんはぷんすか怒って怒鳴りながら、つーっと鼻血を垂らした。


「やめろ、あれは恩を仇で返す猫だ。

だからこそ俺に押し付けたんだろ、まともに相手するな」

「ご心配なく、私もうすぐここ出て行くから」

「何だと…? 俺は名波さんにまで先を越されるのか? てかマジ?」


あぇるぅすさんこと名波さんは、俺の着ている黒いTシャツの裾をめくると、

それで鼻血をごしごしとこすって拭いた。


「うちのモズ…一番新しい子ね、のお腹に赤ちゃんがいるの、

それでここじゃもう狭くなるから、もうちょっと広いところに移ろうかなと。

…てっちゃんも一緒に来るう?」

「断る、なんであんたなんかと」


鼻血をこすって血みどろになった彼女は、粒の揃った白い歯を見せてにかりと笑った。


「だよね、そう来ると思ってた。

だっててっちゃんに色仕掛けとか、全然通じないんだもん…」


名波さんは唇で自分の言葉と、俺の言葉の両方を塞いだ。


「でも絶対落とす、あのゲームも終わったし遠慮なく行くよ。

落として、てっちゃんの中にいる島さんを全部、残らず自分のものにしてみせる」

「ほう、それはムダな努力だな」


俺はふふんと鼻で笑った。

だって名波さんことあぇるぅすさんは、あんたの死を知らない。

わずか数枚の写真の中だけでも、あんたが彼女を愛した事も知らないだろう。

あんたの事だから、彼女の前からも突然いなくなったんだろう。


いつかは連合の誰かしらから、聞かされるかもしれない。

それまでは内緒、俺だけの秘密。

話してしまったら、あんたが俺の中からいなくなってしまうような気がするから。

それはなんだかとても悔しいから。


名波さんはそれからちょうど1ヶ月きっかりで引っ越して行った。

最後の日、彼女は俺の部屋にやって来て、

ベッドの上で枕を背もたれに、おっさん座りをして、

うとうとしているあのケミカルな猫を、ぎろりと睨みつけて俺に言った。


「そうだてっちゃん、忘れてたけどあのケミカルな猫も一応メスだから、

早めに避妊手術させてよね、あれの子猫とかぞっとする」


確かにそうだ、そこはすごく同意出来る。

あの嫌な猫にもいちおう若い頃はあって、子猫だって産んだ事もあっただろうが、

確かにこれ以上増やされても困る。

あれの凶暴性を引き継ぎ、なおかつ体力も余命もたっぷりの子猫などぞっとする。

もうばあさん猫だが、可能性もゼロとは言い切れないし、

身体も大きく筋肉バキバキだから、手術にも耐えられるだろう。


そう思って、覚悟を決めてあのケミカルな猫と戦い、

近くの動物病院へと連行する事に、なんとか成功した。

ところが、そこで困った事が起こった。


「問診票にご記入お願いします」


受付で手渡された問診票を見て、俺はぎょっとした。

それはあのケミカルな猫の名前である。


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