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最終話 人間界にて

◆黒木暗子◆


戦いが終わりはや一週間が経過した。

儀式は終わり、平凡な日常へ戻された。

いや、戻るというのは語弊がある。

しっかりと学校に毎日通うようになり、少しだけ他人の目を見て話すようになった。

すこしずつ、変えていこうと思う。

友達は……まだ増えていないけれど。

がんばるのだ。


そう、がんばる。

頑張ることはもう一つある。


◆◆◆


「お願いします」


「……あのなぁ」


頭を深々と下げる私に対して、たじたじしているこの男はロックさんという。


「お願いします」


「一応君は悪魔と契約をした大罪人なんだ。 見逃したのはただの気まぐれだぞ」


「……それでも、弟子にしてださい!」


カノが魔界に帰り、ひとしきり泣いたあと、小早川誠さんと話をした。

そこで、ロックさんというエクソシストの話を聞いた。

そして、すぐに駐車場を飛び出し、小早川さんの言っていた空き地の近くでロックさんと思われる人物を見つけ出した。


「……なんでエクソシストなんかに」


「私を助けてくださった、エクソシストに大変感銘をう、受けました」


大嘘である。

カノは魔界に行ってしまった。

カノ曰く魔界と人間世界では時間の流れ方が違かったり、人間界に来るのは色々と大変らしい。

ならば、私が行けば良い。

だが、独学では限界がある。

なので、取り敢えずエクソシストに取り入ろうと考えた。

が、エクソシストに悪魔に会いたいと言えば絶対に怒られてしまう。

なので、一番良い動機はこれだ。


「……君の思ってるよりエクソシストは優しい仕事じゃない。 ……人を殺すときだってある」


「えっ」


「やめときな」


「あっ……じゃあ大丈夫です」


「えっ」


「エクソシストじゃない仕事で魔界に関わる仕事を紹介してください」


「……君の目的はなんだ? 正直に」


「……悪魔に会いたいです。 そのために私は魔界へ行きたい」


言ってしまった。

ロックさんは唖然とした表情でこちらを見ていた。


「契約者ってのはどうしてこう……」


「お、お願いします」


なんとか、なんとかこの人に私を売らねばならない。

何か、アピールポイントを見せつけなければ。


「あっ、私は、その、魔術が使えます……!」


「何?!」


「燃えよ、地を焦がせ。 燃えよ、風を焼け。 『炎塊ファイヤーボール』」


まだカノと契約し、受け取っていた魔力は器に残っていた。

魔術が発言し手のひらにふわふわと火の玉が浮く。


「6発もか。 こりゃ驚いた。 かなりの腕だ……。 血筋か?」


じろじろと火の玉をロックさんはみていた。

比較対象がいないからよくわからない。


「家族に魔術関連の人間はいないか?」


「えと、おばあちゃんが……確か」


旧姓までは覚えていない。


「あっ。 これに書いてあったかも……」


バックから魔術書を引っ張り出す。

これに名前が書いてあったかもしれ──


「これ!! 櫻井華の魔術書じゃないか」


「あっ、それおばあちゃんの名前……」


「櫻井華の孫……か」


「おばあちゃんは有名なんですか……?」


「いきなり消えた、天才魔術使いの名だ」


「ま、魔術書見ただけでわかるんですね……」


「櫻井華の刻印が魔術書の表紙に付いているからな。 そうか。 櫻井華の孫……」


これはいける……?


「『dd』へ紹介状を書いてやる」


「『dd』?」


「魔界、魔術に関わる秘密組織だ。 櫻井の血を継ぐものならあっちも嫌な顔をしないだろう」


「い、良いんですか!?」


「俺も『dd』所属のエクソシストだ。 才能を腐らすのも気が引ける。 君はそれに契約者だった人間だろ? 契約者は頑固で、止めても聞かないのは嫌というほど知ってる」


「やった、……やった!」


「ただし、契約者だったこと、魔界に行きたいことは隠せ。 俺まで処罰されかねない」


「はい!」


◆◆◆


というわけで、私は魔界へ行くため高校卒業と同時に『dd』のラボへ向かう。

そして、魔界を研究し一刻も早くカノの元へ行くのだ。


待っててねカノ。

私は頑張る。

別れの挨拶は出来なかったんじゃない、する必要がなかったのよ。

すぐ会えるわ。

きっと。


◆ロック◆


「……」


「そうか……死んだかい」


険しい顔つきで白髪の女性は窓の外を見ながら、そう呟くようにして言った。

ハーデンバルトさんの妻であるユーリアさんである。


「夫は……最期になんて言ってたんだい?」


「……『何があっても自分を信じろ』と、俺の手を握ってそう言いました」


「……最後まで仕事熱心なやつだ……。 ほんとバカだねぇ」


ユーリアさんはどこか遠くを見つめて静かに言った。

そして、俺を見据えた。


「その言葉はあんたにとって役に立ったかい?」


「はい」


即答だった。


「……そうかい。 そっくりだよ」


「え?」


「アイツの若い頃に」


ユーリアさんの表情は少し柔らかくなったように見えた。


「あんた変わったね。 前みたときより強い眼だ」


「いろいろな事がありました……。 俺は……。 その中で多くを学びました」


「……あいつはいつもあんたの事を楽しそうに語ってたよ」


「……そうなんですか?」


「息子が出来たみたいだって」


目頭が熱くなる。


「もっと、詳しく教えておくれ。 アイツの最後を」


「……えぇ」


俺は椅子に腰を掛け、ハーデンバルトさんのことを話した。

そして、小早川のことも。


俺はこれからもエクソシストとして生きていく。

自分の信じる道を行く。

ただ、真っ直ぐに。


◆リザ◆


「君一人かね」


「みたいね」


私と、ハゲのおっさんがいた。


ここは、小早川誠の葬式場である。


私は、人間に見えるよう悪魔っぽい部分だけを透明化して、葬式へ来た。

誠には両親がいなかった。

天涯孤独という奴らしい。

なので、悪魔で色々と融通の利く私は憑依を使ったり、まあ色々して彼の葬式の場を設けることに成功した。

なぜ、誠の葬式をしたかったか。

動機は自分でもよくわからない。

なんとなく、気紛れだと思う。


「彼の妹なのかい?」


「いや」


「……子供かい?」


「違うわ。 そうね……」


小早川誠との関係はなんだったろうか。

主従関係?

いやいや振り回されたのは私だ。

びじねすぱーとなー?

……ピンとこない。


「友人……よ。 多分」


「……そうか」


おっさんはポクポクと木魚を叩き始めた。

欠伸を一度してから、ボーッと誠のことを考えていた。

一通りの儀式が終わると、おっさんはまた私に話しかけた。


「何か悩みごとかね?」


「……そーね」


「言ってごらん」


子供扱いされているような気がするが、おっさんは至って真面目な顔だった。

元々そういう顔つきの可能性も否定できない。

暇だし、私は話すことにした。


「こいつは、小早川誠は人助けが好きだったのよ」


人助け。

誰かを救いたい。

そのために正義を貫く。

耳にタコが出来るほど聞いた。


「で、死んだ」


「……」


「たくさんの人を救ったわ。 でも、無理して死んだ」


思えば誠は儀式の期間中ずっとどこかへ走り回っていた。


家に帰れば、布団に入るもののよく寝付けていなかったようにみえた。

そして、二人のエクソシスト会った日、あの夜は魔力の集中を物にするといって寝もしなかった。

止めたり、何か言っても彼は走り続けた。

最後まで。


「他人のために、色々頑張ったのにこの様。 葬式には私だけ」


「……」


「なんのために……死んだのかなって……」


「……ふむ」


おっさんは考え込むようにして腕を組んだ。

そして、少ししてから口を開いた。


「この世は諸行無常」


「……は?」


「つまるところ、人間はいつか死ぬということだよ」


悪魔とは違い人間は死ぬ。


「人間なんて死んでしまえば、そこで終わり。 であれば人間の価値は生き様ということになる。 死ぬまでに何をするか、何ができるか」


「……誠の最後は満足そうだったわ」


「彼にとってのやりたいことが人助けだとすれば、それをやりきったなら彼の生はけっして無駄なものじゃない」


「そういうものかしらね……」


「そして、彼に救われた人は自分達の価値を見いだすために生きる。 彼は立派だよ」


「……」


「それに助けられた人は感謝しているはずさ」


感謝。


「……私、ばかだ」


「どうしたんだい?」


「最後まで居たのに、……あいつに『ありがとう』って伝えてない」


何に対して感謝する?


王になれたこと……?

ほんとに……それだけ?


でも、『ありがとう』と伝えたい。


「そんなものさ。 人」


「……そう……ね」


「そう。 人間も君も変わらないと思うけどね。 私は」


人間も君も?


「……気付いてたの?」


「……口を滑らせてしまった。 まあ人じゃないことはみて分かったさ。 長生きしてみるもんだ」


「まあ、参考になったわ人間。 ちなみに私は悪魔の王よ」


「悪魔の王……」


「人間を滅ぼすのも私次第って訳」


「滅ぼすのかい?」


その声は恐怖といった感情はなく優しく掛けられた。


「……つまんない」


葬式に満足し外へ足を向ける。

ちなみに、火葬やら、墓を作るまでの手続きは済ませてあった。


「あ、そーだ」


「……なにかな?」


「付き合ってくれてありがとね」


◆◆◆


そこから10日ほど私は人間界を探索した。

いかんせん、人間は多く、騒がしく滅ぼしたくなることもあった。

契約者の暴れた場所を見たりもした。

ちなみに、小早川が倒れた公園の近くには一本の花が手向けられていた。

これは、小早川が殺した男へのものだろうか。


「もう帰ろうかしら」


魔界へ帰ろうとし、ふと用を思い出した。

飛び、ついた先は石の前。

その石には『小早川誠』と掘られていた。


「あんたと居たとき……その……楽しかったわよ。 そこそこ」


ここには小早川の死体があるだけで意味がないのはわかってる。


「ありがと」


そう言い、花束を足元に落とした。


「あのー」


振り返るとそこには人が立っていた。


「何?」


「あ、その私、日野静葉って言います」


「そう」


「私、小早川さんの隣のベッドで寝ていたんですけど、その奇跡的に怪我が回復しまして……」


「……それと誠がなんの関係があるのよ」


「その。 変なんですけど……。 この人に助けてもらった気がするんです」


「……変なの」


「……そうですよね」


そういうと花を墓に花を手向け、彼女は去っていった。


「良かったわね、誠」


今度こそ魔界に帰ろうとしたとき──


「すみません」


「……今度は何よ」


「えっ。 あのここは小早川さんのお墓で間違いないですよね?」


「そうよ」


「私、小早川さんのお隣に住んでる──」


この後も何人か誠の墓にやってきた。

どうも、誠が色んな人間にお節介を焼いていたらしい。

葬式にまでは出なかったが、感謝を伝えに来たそうだ。


「誠。 良かったわね」


彼の墓にはこれからも多くの人が来るのだろう。


「……あんたのしてきたこと無駄じゃなかったって」


墓に眠る彼に向けてそう呟いた。


◆◆◆


人気の少ない場所でゲートをろうと墓地を出て歩いていた。

ふと前に目をやると、大きな荷物を持った年寄りの人間が階段を降りていた。


それを見てなんとなく。


「手伝ってあげましょーか?」


「あっ、本当かい? でもこれ重いのよ」


ひょいと持ち上げ、階段を降りる。


「見かけによらず力持ちなのねぇ」


「どうも」


「ありがとうねぇ」


老人はとぼとぼと歩いていった。


「まぁ。 悪くないのかもね。 人助けも」


魔界へのゲートを開く。

私の考えは決まった。


人間を滅ぼすか否か。


私は──

ここまで読んでくださり本当に、本当にありがとうございました!!!

何か感じていただけたり、楽しんで頂けたら幸いでございます!

ではまた次回作でお会いしましょう!!!!


※もしよろしければ感想、評価などお願いします!

感想待ってます、本当励みになるので!!!!

※おふざけ短編「サバサバクエスト」書いておりますのでよろしければ!



※本編の中身に関するあとがきは活動報告に載せております

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