48話 復讐の末路
◆二階堂 薫◆
歩いていた。
「本当に来るのかしら?」
「わからねぇ。 これは勘だ」
多分残る一人は小早川誠だ。
アイツは善人面してムカつく野郎だが、何か勝ち上がるだろう強さを感じた。
それに、今はアイツと戦いたかった。
「だから、あの公園へいくって訳?」
「あぁ。あそこで待てば、アイツが生きてれば必ず来る」
電車に乗り、ガタンゴトンと揺られ、目的の駅で降りる。
「……いるわね。 公園に」
「やっぱりな」
これで、終わる。
俺が勝てば彩香とまた会える。
負ければ、この苦しみから解放されるのかもしれない。
少なくとも何かが変わる。
駅の階段を降り、大きな道路にでる。
「これが最後の戦いよ」
「……わかってる」
信号は赤から青に変わり、道路を渡るが、平日の昼間だけあり、人はあまり多くはない。
前を見ているつもりだったが、あまり意識がはっきりとしていなかった。
そのせいで人とぶつかってしまった。
だが、ぶつかった人間は背丈が小さく、気づかないのも仕方なかったかもしれない。
身長から多分小学生だと思われ──
「ぐっ……」
腹に熱と激痛を覚えた。
これ……は?
「薫ッ!!!」
腹に深々とナイフが刺さっていた。
ただのナイフじゃ刺さるはずがない。
これは、『武装』だ。
忘れしない、石動通のナイフだった。
「お父さんを……お父さんをよくもッ!!!!」
顔を見て思い出した。
たった今ぶつかり、腹にナイフを深々とぶっ刺したのは石動通の娘、確かに唯だ。
「……よく、見つけられたな。 俺を」
「……悪魔がくれた。 お前を見つける道具を」
ポケットから方位磁針のような物が見えていた。
「そして、お前を殺す道具もくれたッ……!」
更に深く、ナイフが刺しこまれる。
「薫ッ! 何やってんのよ! 抵抗しな──」
駆け寄るサーニャを手で静止させた。
「悪魔は……こう言った! お前の父親はこれで殺せるって!! お前の好きなようにしろって!!」
なるほどな。
あのクソ悪魔が唆したってわけか。
皮肉なもんだ。
復讐して、復讐されて死ぬ。
彩香には会えなかったが、それも悪くねぇ。
俺みたいなバカにはちょうどいい、みっともねぇ死にかたじゃねぇか。
石動は復讐した。
それを俺は殺して、復讐した。
その復讐を今、身に受ける
復讐の連鎖。
でも、復讐ってのは決して心の晴れるものじゃない。
元々わかってはいたし、それを踏まえてしたつもりだった。
復讐なんかしても、誰も喜ばない。
何も帰ってこない。
ただ、人の命が一つ消えるだけ。
そうだ。
──復讐なんてのは無意味だ
俺は石動唯を蹴り飛ばした。
「キャッ?!」
「……てめぇの親父は……。 俺の恋人を殺した」
「えっ……?」
「知らなかったのか? 殺したんだよお前の親父は。 人を」
「そ、そんな……! 嘘、嘘、嘘!! お父さんはそんな人じゃない!!!!」
「……そして、俺は、てめぇの親父を殺した」
「そ、そんな……」
カランとナイフを落とす。
「そうだ、復讐だ。 今、お前がやってることと同じ事をしたんだよ。 俺もお前の親父も」
「……うそ」
「嘘じゃねぇよ……。 グハッ……。ハァハァ」
俺は契約者だ。
腹を刺されただけじゃまだ死なない。
「ククク、わかったか? てめぇのしたこと」
「……ああああああ。 私は、なんてことを……」
小学生のガキには頭がパンクするような話だろう。
善悪の区別がいまいちついてねぇ。
お父さんが悪人で、それを殺した人は悪くない?
いや殺したから悪人?
私は悪くない人を手にかけた?
てな感じで思考はしっちゃかめっちゃかだろう。
「……まぁ、だがお前の復讐は未遂で終わる」
「えっ……?」
「俺は、お前のナイフなんかじゃ死なねぇし、お前は今から俺に殺されるからだ。 だからお前の復讐は失敗に終わる」
世の中も知らないような子供が。
こんなガキに復讐なんかできない。
「殺せると思ったか? バカが。 てめぇの親父にも俺は殺せてないんだぜ? 正義のヒーローでもねぇ限り俺は殺せねぇよ」
崩れ落ち放心状態になった石動唯を強引に立たせる。
「まあ、とはいえ。 俺はお前の親父を殺したことには間違いねぇ。 おまえもぶっ殺してやる」
「……い、嫌……嫌ッ!」
「嫌じゃねぇよ……。お前は人の命を奪おうとしたんだ。 当然だろ?」
「わ、私は……! 私は……」
「……わかったか? これが復讐ってやつなんだ。 胸糞悪ぃ、くそったれだ」
俺は石動唯を腹の横で抱える。
「は、離してッ!!!!」
「あぁ、後でな」
そのまま歩く。
人気が少ない通りとはいえ、腹から血を流した俺を見て何も思わない人はいない。
悲鳴が聞こえてきた。
石動唯はポカポカと俺を殴る。
気にせずにただ向かう。
「薫……あなた……」
「すまねぇな、サーニャ。最後まで俺のわがままに付き合わせた」
「……それがあなたのやりたいこと?」
「あぁ。 そうだ」
「……恋人は……いいの?」
「……そうだなぁ、会いたかったけどなぁ。 もう会えねぇかな。 ……俺は汚れすぎた」
「そんなことないわ……。あなたは必死に、必死になっただけよ」
サーニャのその言葉に俺は驚いた。
「なんだよサーニャ……。 同情してんのか?」
「わかんないわよ……でも」
「責任は感じなくて良い。 俺が望んで、俺が進んでやったことだ」
「……」
「……じゃあ最後まで見ててくれよ。 二階堂薫、最後の悪役っぷりをよ」
出血が酷い。
だが、倒れるわけにはいかない。
石動通は糞野郎だ。
それは覆らない。
だが、娘は?
こいつが俺を殺した重荷を背負う必要はない。
復讐の連鎖はここで終わりだ。
俺が石動通を殺したというところで終幕。
これ以上復讐に振り回されるのも、振り回される奴を見るのもごめんだ。
地獄に落ちるのは俺と、石動だけで良い。
「小早川ァ!!!!!!!!!!!」
「なっ……」
公園が見えると精一杯に叫んだ。
悪いけど俺の呪いはてめぇが背負え。
「今から、このガキぶっ殺す!!!!!」
「──開けッ!!!!!」
石動唯を地面にほっぽりだし、『大熊』を構える。
「なんだよ、元に戻ってんじゃねぇか」
『大熊』は大剣に戻っていた。
「……二度と道を踏み違えんじゃねぇぞ」
「え?」
ズドン、ズドンと銃声が鳴り響き、銃弾は俺の額に吸い込まれていった。
ほんと、躊躇ねぇやつ。
可愛いげのねぇ糞野郎だ、全く。
サーニャ。
最後まで付き合ってくれてありがとよ。
──彩香、俺お前に少しは顔向けできるかなぁ?




