47話 終わりへのカウントダウン
◆サーニャ◆
「もう契約者はあと一人になったわ」
そう。
薫が家につく頃には、契約者はもう薫とあと一人になっていた。
「そうか」
「……」
薫はどこか遠くをみながらそう言った。
「薫。 あなた帰ってから何も食べていないでしょう?」
「腹はへってねぇ」
「嘘付かないで。 もう昼よ。 昨日の夜から食べてないのに、お腹が空かないわけないでしょう?」
「本当に減ってないんだ……」
家に帰ってから窓の外を見つめ、動いてない。
寝てもいない。
人間は、食べて寝なければならないのにそれをしていない。
「ねぇ……どうしちゃったのよ薫」
「……」
見るからに気力はなく、そして、『想い』もが限りなく小さくなっていた。
「俺がさ、石動を殺したときよ」
「?」
「あいつに剣を突き立てたときどう思ったかわかるか?」
「願いが叶って嬉しかったんじゃないの?」
「いや」
こちらを見ながら、少し笑いながら言った。
「なんとも思わなかった」
その笑みは被虐的な物だった。
「だからよ、こんなはずないと思って何度も何度も斬り付けたんだ。 でもなんとも感じねぇんだよ。 ただ、あぁ死んだのかと思うだけで」
「でも……、でも、それがあなたの願いだったんでしょう?」
「……だったんだよ。 そのはずだ」
薫はまた窓を見た。
「アイツも、妻を失ったって言ってたな」
「そう……ね」
「アイツは結局復讐してたんだ。 この世界に。 八つ当たりだけどよ」
「そう……かもしれないわね」
「……それで、彩香は殺された」
「……」
「アイツが何人も殺してたのは、多分なんの実感も得れてなかったからだろうよ」
「……随分肩を持つのね」
「いや、そうじゃねえよ。 アイツはぶっ殺されて当然だと今でも思ってる」
「じゃあなんで?」
「アイツには娘がいた。 結局、俺も今は石動と同じ側の人間なんだよ」
「……薫」
「……わかってたのにな。 そんなの」
「もういいわ」
薫の近くに行き、肩を掴む。
「勝てば良いのよ! そうすればッ! そうすれば、あんたの大切な彩香が生き返るのよ!!!」
「……あぁ。 そうだな」
薫は立ち上がった。
「だから、そんな顔しないでよ。 願いが叶ったのに、そんな」
薫は復讐をして、願いが一つ叶ったはずだ。
私はこいつの怒りに共感し、力を貸した。
これは違う。
このばつの悪さは私の思ったものじゃない。
なんだろう。
この胸につっかえる感じ。
「……『大熊』出してみてくれよ」
薫はそういった。
「良いけど……。 ──開け」
薫の手に『武装』が現れた。
「クッ、ハハハ。 こりゃ傑作だ……」
薫の手の『大熊』は小さく小さくなっていた。
『想い』の変化によるものだ。
ここまで、ここまで小さくなるとは思わなかった。
これではまるで──
「石動のそっくりじゃねぇか」
『大熊』は大剣ではなく、ナイフに変わっていた。
◆小早川 誠◆
俺はこの戦いに参加し、誰かを助けられただろうか?
少なくとも二人は殺した。
間違っていなかったと思う。
この二人を放っておけばまだ人が死んでいただろう。
これは正しかったと思う。
俺は、殺したいと思えば身体が動いた。
しっかりと的を射ることができた。
正義をただ振り下ろすことができた。
ただ。
殺したあと、その死体をみて。
何かが重く何かのし掛かかった。
俺はしっかりと引き金を引くことができる人間だった。
しかし、やりたいことをやったからといって楽になれるわけじゃない。
かねてより、悪人は殺すとそう覚悟を決めていた。
それを実行に移すことは造作もなかった。
だが、殺したあとの責任は重く重くのし掛かっている。
この正義は、貫かなくてはならない。
少なくとも、俺が契約者という力をもつ間は。
そうでなくては殺した意味がなくなる。
俺は人を救った。
正しい光の中にいる。
そう思う。
「リザ。 あと何人だ?」
「あと、契約者は一人ね」
「わかった」
これは勘だが、二階堂薫だろう。
あいつからは始めてあったときから強い意思を感じていた。
であれば、行き先は一つ。
始まりの公園。
あそこで待てば奴は来るだろう。
もう一度、俺は正義を振りかざすのだ。
身勝手で、自分勝手な、他人思いの歪んだ正義を。




