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Sabbat・Servant(サバト・サーヴァント)  作者: ゆにろく
6月10日 日曜日
53/61

44話 カノ

◆カノ◆


「暗子ッ! ……暗子ッ!!!」


暗子は首から血を大量に流していた。

暗子の顔からは血の気は引き、目に光は消え、体温も冷たくなり始める。

そして、秋奈を縛っている糸は緩み始め、彼女は立ち上がった。


「……痛っ。 ペッ」


秋奈は血が混ざった唾を吐き捨て、舌をベーっと出していた。

あの口から吐いた血は舌を噛んで、吐血を装っただけか。


多分、縛られる時みせた小さな抵抗。

あれは鎌で小さな残像を残すためにやっていたのだ。

それに気づかず、暗子は近寄り、見えない刃は深く深く彼女に突き刺さった。


暗子は元々、秋奈を殺すつもりなんてなかった。

それなのに……。


「そこまでして……ッ! そこまでやって勝ちたい──」


「うん。 勝ちたい」


秋奈はただただ、私と暗子を見下ろしそう言い放った。


「その契約者はあなたにとっては大切かも知れないけど、私にはとっては死のうが生きようがどうでも良い」


「ふざけんなッ!」


「私も大切な人のために戦ってるの。 この気持ちはわかるでしょ? じゃ」


秋奈は私達に背を向けた。


ふざけんな。

暗子は頑張った。

私のために怒ってくれて、血を見るのすら苦手なのに、運動も苦手なのに、必死に頑張って。

それで、最後にかけた優しさが暗子の負けに繋がった。

なんだよ。

暗子が悪いのか?

優しさを闘いに持ち込んだ暗子が悪いって?

おかしい。

暗子はなんにも悪くない。


人間も悪魔も関係ない。

これは間違ってる。


「いやだよ……こんなの……」


止めるべきだったのか。

最初から。

元はと言えば私が誘ったのが。


やめろ。

後悔してる場合じゃない。

後悔するのは全部終わったあとで良い。

まだ契約が生きているし、魔力はまだ彼女の元に流れている。

まだ暗子は生きてる。


止血。

いや首の止血ってどうやる?

わかんない、わかんない、わかんない。


諦めるな。

私は暗子と一緒にいるって約束した。

最後まで付き合うって決めた。

こんなお別れは論外だ。


暗子の血は地面を赤く染め、バックに染みだ──。


「バック……!」


暗子のバックを開けると、少しだけ血に染まった魔術書が入っていた。

魔術。

魔術は悪魔には使えない。

でも、これしか、もう普通の方法では助けることはできない。

ページを捲る。

傷を治す魔術『治癒ヒール』。


「天の光よ、傷を癒したまえ『治癒ヒール』ッ!!!」


何も起きない。


「シェロ。 あれほっといていいやつ?」


「……悪魔に魔術は使えないのよ。 大丈夫よ。 それより」


うるさい。


悪魔と人間は根本的にわかりあえなくて。

それで、人間の魔法である魔術は使えない。


うるさい。


暗子と私はわかりあえた。

人間と分かりあえないとか、勝手に決めつけるな。


「天の光よ、傷を癒したまえ『治癒ヒール』ッ!!!!」


……。


「天の光よ、傷を癒したまえ『治癒ヒール』ッ!!!!!」


……。


無理なのはわかってる。

でも、暗子はあの希薄な『想い』を私の事を大切に思うことで、強大な、他の契約者と戦える『武装イスティント』を出すまでにした。

私にだって。


「天の光よ、傷を癒したまえ『治癒ヒール』ッ!!!!!!」


暗子を大切に思ってる。


「天の光よ、傷を癒したまえ『治癒ヒール』ッ!!!!!!!」


負けないくらい。


「天の光よ、傷を癒したまえ『治癒ヒール』ッ!!!!!!!!」


他の契約者にだって負けないくらい想ってる。


「天の光よ、傷を癒したまえ『治癒ヒール』ッ!!!!!!!!!」



大好きなんだ。



「天の光よ、傷を癒したまえ『治癒ヒール』ッ!!!!!!!!!!!」






パッと手元が明るく光った。

その光は暗子の首にまとわりつき、傷が塞がっていく。


「やった……。 やったっ!!!」


「……うっ」


暗子は苦しそうに喘いだ。

これで、一命はとりとめた……はずだ。

大量の出血だったが、思ったより顔は白くなく、少し赤みを取り戻している。

傷を塞ぐだけでなく、血も増えているみたいだ。


「暗子ぉ……。 良かった……、良かったよぉ」


まだ目を覚まさないようだが、死ぬことはないだろう。

暗子を強く強く抱き締める。

心臓の鼓動が聞こえる。

生きてるんだ。


「秋奈、警戒して」


声にハッとして振り返る。


「使えないんじゃなかったの?」


「使えないわよ!! つまり、こっちも一芝居打たれたのよ。 あの契約者が生きてる」


「チッ……。 しぶといなぁ。 首はねれば流石に死ぬよね?」


秋奈とシェロはまだどこかに行ったわけじゃない。


「違うって! ホントに私が魔術を使えたんだ!!!」


マズイ、マズイ、マズイ。

奇跡が起きたのに。

ここで、また暗子が怪我したらなんにもならない。

そんなの嫌だ。

暗子に覆い被さり、秋奈から暗子を守る。


「ねぇ……お願い……。 見逃してよ……」


「嫌」


鎌を振りかぶる秋奈。

こんな、こんなのって……!!


次の瞬間、地下駐車場に銃声が響き渡った。


「?!」


秋奈は手を止め、入り口の方を振り返る。


「動くな」


そこにはボロボロの男が二人立っていた。

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