43話 『蜘蛛』vs『蟷螂』
◆黒木 暗子◆
「『武装』が出たくらいで勝てると思ったら……」
秋奈は鎌を振りかぶる。
「大間違いだっての!!」
鎌をぶん投げてくる。
私の『蜘蛛』に何ができて、どう使うのかは直感で理解している。
今まではあの鎌は避けなければいけない武器であったが、今回は。
「このっ!!」
指先には糸と繋がる指輪がはめられている。
両手を振り、糸を前方に投げるようにして鎌へ向かわせる。
鎌は回転して飛んできていたので直ぐに糸に絡まり、勢いを失くし地面に落ちた。
私の糸は切れない。
「チッ……。 シェロ一回『蟷螂』消して」
「わかってるわよ」
鎌は消え、もう一度秋奈の手元に戻る。
そして、手元で鎌を回し、前方には残像で出来た盾が生まれた。
盾に向かい糸を走らせる。
しかし、パンッと弾かれてしまった。
実体のある鎌に対して糸は干渉できるが、そこに実体のない鎌の残像に糸を干渉させることはできないようだ。
「暗子ッ! 来るよ!」
カノの声が聞こえて直ぐに、鎌が盾の後ろから飛んで来た。
盾に弾かれた糸をこちらに戻す形で鎌にぶつけ、そのまま絡める。
絡めた次の瞬間には鎌は消える。
「なるほどね。 相手は盾の後ろから鎌を投げては、回収を繰り返す戦法らしい」
「……なんだか、口振りの割に小賢しいわね」
ゲームでいう、『はめ技』のような戦い方だ。
あの盾にこちらの糸を防がれる以上、攻撃しようがない。
とはいえ、投擲された鎌は簡単に止めることができるため、どちらも決め手に欠けている。
ならば。
「これはどうかしら?」
残っている『炎塊』4発を撃ち込む。
右からと左から二発ずつだ。
ボンッと弾ける音がしたが、それは新たに生まれた残像の盾に阻まれたことを現していた。
しかし、あの盾は無敵ではない。
先ほど消えるのを目にしている。
つまり、あちらはこの火の玉を防ぐために何度も盾を展開せねばならない。
ずっと大きな鎌を振り回し続けるのは体力的にも無理がある。
一方こっちは投げてくる鎌を糸に絡ませれば良いだけ。
持久戦になればこちらが有利なのは間違いない。
そして、隙を見せればこの『蜘蛛』で身動きを取れなくして、降参を余儀なくさせる。
私だけなら荷が重いが、カノと二人なら頑張れる。
やるんだ。
「燃えよ、地を焦がせ。 燃えよ、風──」
『炎塊』を増やすため詠唱を始めた直後、秋奈は動いた。
あちらもこの持久戦が不利と踏んだのだろう。
前方で鎌を回転させながら突っ込んできた。
「……ッ!」
不意を取られ動くのが遅れた。
「死ねッッ!」
鎌の間合いに入るやいなや、鎌は私を捕らえようと鋭い刃を走らせる。
「暗子ッ!!!」
「大丈夫……!」
鎌が私の体に到達する前に、糸を絡ませることで動きを止めた。
「甘いってのッ!!」
「なっ……!」
鎌を思い切り後方に引いたらしい。
絡み付く糸も鎌と共に後方に引き付けられ、糸を操る右手、そして、身体までも持っていかれそうになる。
目の前には今振るわれたばかりの鎌で生まれた残像が残っている。
ここに身体が倒れ込めば真っ二つに──。
「あっ……ぶない、わね!!!!」
糸が付いているのは右手だけでない。
左手の糸を近くにあった柱に絡み付けることでバランスを保つ。
反撃っ!
次は逆にこっちが引っ張り込む。
右手を思い切り引き込み、鎌もろとも秋奈を盾の前へ引っ張り出す。
「だから甘いって」
腹部に鋭い痛み。
引っ張られた力を利用して繰り出された前蹴りを諸に受けた。
「ぐっ……」
吹っ飛ばされる──ものかッ……!!
左手、柱に絡まっている糸を使ってふんばる。
そして、右手をもう一度引っ張り込む。
「ッ……こっの!!」
次は秋奈がバランスを崩した。
今だッ!
すでに、秋奈の前に展開されていた盾は消えている。
糸を柱から離し、秋奈へと巻き付けようと左手を思い切り振るう。
しかし、一瞬速く秋奈は対応して見せた。
鎌から手を放し、片手でバク転してその場から距離をとる。
「大きく踏みこめ」
糸を絡ませることは不発に終わったが、この隙を逃さずに詠唱を開始する。
「震え、ざわめき、ひび割れろ!」
これなら鎌で防げない。
「『震脚』」
思い切り地面に足裏を叩きつける。
地面に触れた瞬間、私を中心にコンクリは少しひび割れて、地震が起きた。
決して大きくはないが、回避した直後のバランスを崩すには充分だ。
「うわっ……!」
思惑通り秋奈はバランスを崩す。
次はこっちから距離を詰める!
秋奈の元へ走り込み、右手を振るおうとした時、ふと違和感を感じた。
──鎌が手元にない。
さっき手放した鎌は……。
「シェロ、今」
こちらが距離を詰めた瞬間に鎌を右手に発現させ、態勢を崩した状態から強引に鎌を振るった。
スラインディングで滑り込み鎌を間一髪で躱す。
そのまま、秋奈の足に糸を絡ませるべく、左手を振るう。
「……ッぶない!!」
糸が足に辿りつくより一瞬早くジャンプすることで躱された。
となると、不味いのは私の方。
秋奈は空中で、鎌を振りかぶっている。
右手の糸を柱に絡ませる。
糸の長さはこちらで操作できる。
糸を短くすることで、柱に向かって身体は勢いよく飛び出す。
「痛ッ!!」
柱に身体を叩きつけられ、身体に痛みが走るがあのままであれば身体は2つに引き裂かれていた。
それよりは遥かにマシ。
「ちょこまかと……」
秋奈はそんなセリフと共に唾を吐き捨てた。
「どっちが……」
私も立ち上がり、糸を走らせる準備をする。
距離は開いたが、布石は打った。
「燃えよ、地を焦──」
詠唱を開始する。
「させないって……!」
秋奈は鎌を振りかぶりながら、距離を詰めてくる。
本人の動きを止めるため糸を投げた。
が、秋奈は大きくジャンプして糸をかわし、柱を蹴って上空から私に向かい、鎌を投げた。
「させないっ……!」
鎌を糸で止める。
「あっ……」
目線を上に上げていたせいで、潜り込むように接近してきた秋奈に気づかなかった。
足払いを掛けられ、身体一瞬宙に浮く。
すでに、秋奈は足を振り上げていた。
踵落とし……?!
両腕の間に糸を張って、踵を止める。
そして、そのままこの糸を足に絡めてやれば……。
しかし、それよりも速く横合いから鎌の鋭い刃が身体を狙って走っていた。
秋奈の鎌はもう空中にはなく、手元に戻している。
「……痛ッ」
「暗子ッ!」
横に転がり致命傷は逃れたが、横腹が擦った。
想像通り、刃物に切られるのはやっぱり痛い。
でも、挫けない。
カノとの事を考えれば、やる気は依然として沸いてくる。
立ち上がろうした瞬間に秋奈は私を蹴り上げた。
身体がまたも宙に投げ出され、すかさず鎌が迫る。
糸を使って逃げるのでは間に合わない。
「もらった……!」
腕が鎌の刃に当たる。
「なっ……」
鎌は腕に弾かれた。
そう、一瞬速く腕に糸を巻き付け難を逃れた。
ここだ。
右手の人差し指を引く。
「……ッ!!」
秋奈はバランスを崩す。
さっきの魔術で入った地面のヒビの隙間に糸を一本だけ潜伏させていた。
そして、秋奈いる場所はヒビの真上。
糸は足元から出現し秋奈に向けて足払いをかけた。
左手を振るい倒れる先に糸を向かわせる。
秋奈は糸に倒れこんだ。
「いつのまに……ッ!」
「秋奈っ!!」
もうこっちのものだ。
糸を操り、彼女の身体を糸で縛り上げる。
秋奈は一瞬抵抗したような素振りを見せたが、直ぐに動くのをやめた。
「暗子! ナイスっ!!!」
「……降参しなさい」
もう動けない彼女に対して降参を促す。
彼女は身体を糸でぐるぐる巻きにされているため身動きはもう取れないだろう。
「……わかったわ。 シェロ、『蟷螂』しまって」
縛り付けられた彼女は素直に応じ、地面に落ちていた鎌が消えた。
「じゃ、じゃあ、契約を破棄する儀──」
「うっ!!」
秋奈は血を吐いた。
「秋奈ッ!!!」
秋奈の悪魔が声をあげる。
「この糸……ッ、どんどん締め付けがっ!! 強くッ!!」
「えっ! そんなはずっ!!」
秋奈の異変に私はしゃがみ、糸の異変を近──
「ダメだ、暗子ッ!! 近づく──」
カノの声に反応する前に、生暖かい何かが首を伝った。
眼下の秋奈を赤い液体が濡らしていく。
「……え?」
「バーカ」
これは。
私の血か。
喉から血が吹き出ているのがわかる。
小さいが、深くまで切り込まれている。
視界がぼやけ、急に力が抜けた。
あぁ。
もうダメか。
最後に
カノが私を呼ぶ声だけが耳に木霊した。
──楽しかったよ、カノ。




