40話 アークマイン
◆アークマイン◆
死。
悪魔の俺にとってよくわからないものだった。
相棒だった石動通は殺人鬼だった。
通は世への復讐だと言って人間を殺していた。
その光景を見て俺は愉快だと感じた。
ナイフが突き刺さる度、人間は悲鳴をあげる。
壊れた玩具を見ているようで面白かった。
そして、そこで生まれた『死』にはなんの関心もなかった。
通という人間はなんとなく俺と気があった。
何事にも冷たく。
しかし、時には過激。
魔界で気の許せる奴なんかいなかった。
でも、通と居たときは楽しかった。
通は幾度となく切り裂かれた。
契約者は石動を恨んでいたらしい。
執拗に何度も、何度も、何度も通は切り裂いた。
ああ。
あれはもう助からない。
そう思った。
助からない。
つまり
死。
通はもう目を覚まさない。
通とはもう話すこともできない。
通と人を殺すこともない。
『死』はいくつも踏み越えたはずだった。
通と何人もの死体を見た。
この街に来たとき、救急車で運ばれていく死体を見た。
通は死んだ。
その『死』は俺をなんだか不思議な気持ちにした。
胸が痛むような。
苦しむような。
これが本来の『死』なのだ。
通は妻が死んだことが殺人を始めた理由と言っていたが、聞いたときは意味がわからなかった。
今はなんとなくわかる。
通だった、赤い肉塊を見下ろし思った。
悲しい、と。
通を殺した契約者はもうここにはいない。
「……ひっ……ひっく」
しかし、涙を流している通の娘がいた。
「おい……」
「……ひっ……」
「お前が、……通の娘かァ」
通はたまに娘のことを話していた。
人を殺すとき、娘がいるから少しの罪悪感を覚えると。
「ぐずっ……うん」
「そォか」
「……」
「お前の父ちゃん。 殺されちまったぞ」
通の娘はより一層大声をあげ、泣いた。
俺は契約者である通が死んだことで、儀式から敗退した。
儀式中の再契約許されていない。
だから、もう帰るだけだ。
魔界に。
最初は王になれなかった時は適当な人間に憑依して、暴れて帰ろう等と考えていた。
今はそんな気力はなかった。
もやもやとした気持ちがあるだけだ。
ゲートを開く。
死んだ通を見た。
そして、泣きじゃくる通の娘を見た。
「……くやしいか?」
「……っく。 ……えっ?」
◆◆◆
俺は魔界へ帰還した。




