38話 『大熊』vs『毒蛇』(3)
◆二階堂薫◆
「ハァハァ……」
俺も、石動も消耗しきっていた。
地面に血が混じった唾を吐き捨てる。
俺の左腕は石動に幾度も刺され、ぼろ雑巾のようになっていた。
痛覚は消え、ろくに動かない。
そのせいで、大剣を片手で振るうはめになり攻撃の速度は落ちた。
しかし、『追跡する大熊の爪牙』による斬撃は石動の身体の至るところに切り傷を作り、始めに見せた俊敏さはもうない。
決着の兆しは見え始めたが決め手が両者欠けていた。
「……そろそろ、……死ねよ」
「……やなこったぁ。 てめぇがくたばれ」
大剣の握りを強く。
もう少しで、もう少しで石動を殺せる。
ゴールはすぐそこだ。
石動も息を整えたのか、ナイフを逆手に持ち、重心を低く構えた。
にらみ合い、隙を探す。
頭を回して、決め手を探す。
心臓の音がうるさい。
沈黙のまま時は過ぎていく。
俺も、石動も次に掛けている。
これ以上の長期戦は引き分けを意味する。
何度も切り合い、身体は限界なのだ。
ここから長引けば相手を殺したとしても自分も長くは持たない。
これは復讐だ。
アイツに俺の命をやる気は毛頭ない。
息を吸い込んで、止める。
「「死ね」」
両者が動──
「お父さん……?」
剣を振り上げた瞬間。
空き地の入口から声がした。
小学生に見える少女。
石動の両目は大きく開かれ。
「……ゆ、唯……?」
頭に浮かぶ石動との会話。
『娘もいるんだぜ』。
『娘』。
俺はそこで最善と思われる方法を取った。
ここでの最善とは石動を殺すことだ。
「……ッ! てめぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
俺の放つ斬撃に石動は瞬間移動し飛び込んだ。
斬撃は標的の石動の娘に当たる前に石動が受けた。
「ガハッ……」
石動は血を吐いた。
これは致命傷だ。
胸をばっさりと斬られたのだから。
「……お父……さん?」
「に、逃げ──」
石動は後ろにいた娘に話しかけようとしたが、俺が襟を掴み投げ飛ばしたことで言葉は途中までしか出なかった。
「あがぁっ!」
ブロック塀に衝突した石動は呻き声を漏らす。
「……り、回避──」
瞬間移動しようとしたところに、剣撃を放ち口を塞いだ。
それから石動の元へ行き、切り裂き続けた。
一心不乱に。
ただただ、剣を降ろし続ける。
もう斬撃を飛ばす必要も、追尾させる必要もない。
ひたすらに。
がむしゃらに。
振り下ろす。
「薫。 もう……、死んだわ」
「ハァハァ……」
サーニャに言われ、手を止めた。
「な、なんで……? お……お父さん……」
『武装』を消し、へたり込む少女とすれ違い空き地をでる。
「薫……」
もう日が暮れ始めていた。




