36話 『大熊』vs『毒蛇』(1)
◆二階堂 薫◆
「──開け」
俺の右手に『大熊』が現れ、すぐに斬りかかる。
この大剣は斬撃を飛ばすことができる。
石動との間にある距離を無視した先制攻撃を仕掛けた。
「──開けェ!」
石動の悪魔もサーニャと同じタイミングで『武装』を出した。
形状は……。
ナイフ。
届かねぇよなぁ、そのリーチじゃあよ!!!
「死ねェェェェェェェ!!!!!」
斬撃は地面を抉りながら、石動の元へ向かう。
「飛ぶのかよ!! それッ!!」
対応が遅れている、『武装』にはどんな能力があるかわからない。
初撃で屠るに限る。
……いや、できれば瀕死が良い。
痛めつけてから殺してやる。
「回避ッ!!!」
「っ……?!」
斬撃が石動に当たる直前、奴が消えた。
「おらよッ!!!」
石動は俺の懐にいた。
石動のナイフは俺の脇腹に向かって突きだされた。
「チッ!」
反射的に蹴り飛ばすことができた。
「うぉっ……」
当たったが浅い。
しかし、奴のナイフも擦った程度で済んだ。
「薫。 熱くなってはダメよ。 もう止めるのは諦めたわ。 しっかり殺しなさい」
「当たり前だ」
「おい、通ゥ! なーに逃がしてんだよ!!!」
「黙って見てろよ、アークマイン! ……やるじゃねぇか、お前!! まあ、安心しろや。 すぐあの世で会わせてやるよ。 彼女によぉ」
「死ね」
石動の『武装』は瞬間移動のようだ。
こちらは斬撃を飛ばし、間合いを詰めるが、相手は自分が飛んで間合いを詰めてくるってわけだ。
ゼロ距離になれば、ナイフより大剣の方が不利だろう。
「次いくぜぇ。 回避ッ!!」
消える。
前には現れない。
「……後ろかっ!!」
大剣を地面に刺し、柄頭を掴む。
体を浮かせて後ろ蹴りを仕掛ける。
「あぶねぇ……なっ!」
上体を反らすことで蹴りを避けたらしい。
足に鋭い痛みが走る。
柄頭に乗せた手を軸に前方に一回転し、剣を挟んで石動の逆サイドに着地。
剣を引き抜くモーションでそのまま切り上げる。
「……オラッァ!!」
砂が飛び散り、剣先は石動に向かい跳ね上がる。
「回避ゥ!」
大剣は空振り、石動は少し離れた場所に現れた。
「ちょこまかと……ッ!」
瞬間移動も死ぬほど厄介だが、アイツ自身も動きが速い。
「おいおい、そんなもんかぁ? 俺を殺すんじゃなかったのかよ?」
「薫。 挑発に耳を傾けてはダメよ」
「……うるっせぇな」
切られた脇腹と右足から血が流れ、深い傷ではないが痛みは絶えず俺をイラつかせた。
俺は石動に圧されている。
『武装』の相性もすこぶる悪い。
「……薫?」
「……どいつもこいつも」
──俺はサーニャと手を組んだとき何を思ったか。
契約者の力を使って石動を一方的にぶち殺したい。
勝ち抜くことで彩香を生き返らせたい。
この2つの目的があった。
そして、あのときの俺はこの2つを同列に並べて考えていた。
──違う。
元々、サーニャが俺の『想い』は憎しみに依存していると言っていた。
あぁ、その通りだった。
彩香を生き返らせることよりもこの男を殺したい。
彩香を愛していたゆえの復讐であるのに、彼女と会うことよりも石動を殺すことを優先させる意味。
無意味。
そう頭では理解してる。
しかし、彩香が生き返れば彩香を殺された憎しみは消えるのか?
石動を許せるのか?
多分無理だ。
もう引き返せない。
そこまでに俺の憎悪は肥大化していた。
サーニャに出会い、彼女に背中を押され、遂には石動を前にし、くだらない動機を聞いた。
挙げ句の果てに俺がこいつに殺される?
プツンと理性の糸が切れた。
こいつを殺して、それで全てが0になる。
そこからだ。
これは彩香のための復讐じゃない。
俺のための復讐だ。
相性が悪いだの、後のことなんかどうでも良い。
――ただ怒りに任せればよかったんだ。
「おいおい!! 来ないならこっちから行く――」
「待て! 通ゥ、そいつ様子がおかしいぜぇ。『想い』が強くなってやがる。 下手したら『武装』まで変化してるからよぉ」
「あ? 関係ねぇよ。 俺の『毒蛇』と、この身体能力がありゃ避けられねぇ攻撃はねぇ。 回避」
石動が消える。
左側に現れ、ナイフを突き出す。
止める。
「な……」
大剣では間に合わなかった。
だから手のひらを差し出した。
左手をナイフは貫くが、ナイフは止まる。
「回避――」
瞬間移動をする前に右手の拳が石動の顔面を捕らえた。
「ガッ……」
石動は呻き声をあげぶっ飛ぶ。
ブロック塀に身体がぶつかり止まった。
「……やるじゃねぇか」
「てめぇはただ逃げ回ってれば良い。 俺が勝手に殺すからよ……」
「ククク、にしても俺たちは幸せだなぁ。 死んでも待ってる女がいるもんなぁ」
「俺とテメーはもう地獄にしか行けねぇよ」




