22話 ハーデンバルト
◆桐川 絶◆
「……契約者か?」
「残念ながら私たちはしがないエクソシストだよ」
俺はさんざん暴れまわり、壊れたビルの瓦礫に腰を掛けてひと息ついていた。
ガルバが「変な魔力がレーダーにかかった」と言っていたので、そこで待つこと約10分。
変な魔力とはエクソシストのことだったらしい。
曰く、悪魔と契約者の魔力は悪魔のゲートを使うためなんというか新鮮らしい。
しかし、エクソシストの魔力は魔法陣やらなにやらを使うため淀んだイメージとガルバはいっていた。
悪魔の感性は独特であるし、悪魔はそれを人間に理解させる気は毛頭ないのだとガルバと出会って5日で学んだので深くは考えない。
エクソシストは二人組であった。
片方は金髪でガタイの良い、多分50を超えているだろう老人。
もう片方は黒髪を刈り上げている20代の男。
金髪は杖、黒髪は日本刀を帯刀していた。
しかし、実力はみればわかる。
老人のほうが若いのよりも桁外れに強い。
雰囲気というかオーラというか肌でピリピリと感じる『凄み』。
――契約者ではなかったが当たりだな……。
「場所を変える。 警察が来ては厄介だろう」
「悪いね。 そうしてもらえると助かる」
俺は二人に背を向け空き地へ向かう。
徒歩5分で着く。
しかし、一瞬たりとも気を抜かない。
正直この老人を相手に背を向けるということ自体がまずいのだが、致し方ない。
エクソシストも契約者同様に──理由は違えど──俺を殺しに来る。
実力も申し分なさそうだ。
契約者ではなかったが全く問題ない。
◆ハーデンバルト◆
エクソシストとして生きてはや40年ほどだろうか。
ここまで『器』の大きい人間はみたことがない。
『器』。
つまり魔力をため込んでおける量のことだが、魔力を目に集中し彼を視ればわかる。
体中にみなぎるとてつもない量の魔力が。
彼は制服を着ていたし、その背丈から高校生程度だと予測できる。
『器』はもちろん生まれつきの才だが、あの眼。
私たちを見ているようで遠くを見ているような、すべてが満たされているような、空っぽのような、彼の瞳から感じるものはガキのそれではない。
表情や口調は固く、年頃の柔らかさが全くもって感じられない。
しかし、それは緊張によるものではなく普段通りなのであろう。
――背中を向けてるとは思えないなぁ……
彼は場所を変えると言い歩きだす。
私たちはそれに無言で付いていく。
背中を追っているが、不意打ちをかける気にはならなかった。
不意打ちをしてなし崩し的に始めればロックは戦闘についてこれないだろう。
ロックをかばって戦うなどは不可能。
彼を生きて返すためにも全身全霊を挑む。
これがエクソシストとして最後の大勝負になるだろう。
◆◆◆
私の家系は昔からエクソシストであり、その例に習いエクソシストになった。
協会や『dd』が隠蔽しているだけで魔術を悪用し人を傷つける人間は多くいるのだ。
その人間を裁くのは自分にしかできないと思い、エクソシストに誇りを持っていた。
エクソシストになり10年、当時『白銀』だった父に同行し、当時開催された儀式へ赴いた。
前回の儀式は日本ではなくアメリカだった。
――そこで私は父を失った。
私の目標であり強くいた父。
やけに簡単に殺されたものだ。
契約者との戦闘を行ったことがあるエクソシストは本当に稀で今でも私を含め5人ほどだろう。
前回の儀式に向かったのは私、父、あと『金』のエクソシスト2人ほどだったが、実際、誰も契約者との戦闘を行ったことがなかった。
前々回の儀式は100年以上もまえであったことから、儀式を経験したものもいなかった。
そして、契約者を甘く見て私と一人以外殺された。
魔術使いに対して日々訓練をしているエクソシスト。
悪魔の魔力を得ているとはいえ、所詮、素人。
そういうことを思った。
しかし、契約者は目の色が違うのだ、魔術使いとは。
『想い』は『武装』の能力を上げるのは聞いていた。
しかし、『想い』がもたらすのは『武装』への影響だけではない。
勝ちへの執着。
人間追い詰められると、必死になれば何をするかわからないもので、エクソシストは壊滅させられた。
戦闘スタイルも違う。
魔術使いは勿論、魔術を行使するわけで詠唱の時間がいる。
なので私たちエクソシストは魔術をあえて行使せず、基本身体能力のみでねじ伏せるのがセオリーだ。
しかし、契約者は身体能力に加えて、『武装』を使う。
つまり、エクソシストの戦い方の完全な上位互換。
それに、どの契約者も器の大きさが私たちと同じくらい大きい。
身体能力のアドバンテージは取れなかった。
そして、長期戦へ持ち込めば魔力切れを起こし敗北。
勝てるはずがない。
私は儀式を終えたあと、魔術を磨くことにした。
契約者には身体能力だけでは勝てない。
だから、短い詠唱のみで使える簡易魔術を極め、近接格闘と魔術による戦闘法を生み出した。
悪魔が人間世界にきて契約するパターンも稀であるし、儀式も不定期のため生きている間にこの戦闘法を生かせるとは思えなかった。
しかし、当時の私は自分の弱さを悔いていて、いてもたってもいられなかったのだ。
まさか、もう一度儀式に参加できると思わなんだ。
幸運だ。
父の無念を、前回の儀式で屠られた同志の無念を晴らして私は死んで行ける。
あの世へ行った時にあなた達の死は無駄ではなかったと言える。
そして
私にとって重要な意味を持つこの儀式でロックをパートナーにしたのは理由がある。
彼は最年少で『金』になった天才である。
彼はとても正義感が強かった。
積極的に魔術使いを討伐し、どんどん階級を上げていった。
しかし、パートナーに選んだ一番の理由はその戦闘スタイル。
彼も魔術を用いるのだ。
魔術は覚えるのが案外大変で一般的なエクソシストが覚える魔術は防御、回復の補助系のみだがロックは補助は勿論、攻撃する際も魔術を用いる。
契約者戦にぴったりではないか。
この儀式から彼を生きて返せば、ここでの経験を積めば、必ず次世代を担うエクソシストになる。
30年前の私のように。
だから、私は負けられない。




