21話 宣戦布告
◆桐川 絶◆
自分の家から電車で10分いったところにあった住宅街。
特に、ここに思い入れがあったわけでもない。
ただ家の回りで騒ぎを起こしたくなかったため場所を変えた。
そして、だれが住んでいるとも知らない2階建ての一軒家に敷地の外から殴りかかった。
「爆発」
家を守るはずの門は『獅子』によって引き起こされた爆発によって家に襲いかかり、窓ガラスは割れ、玄関のドアも爆風によって破壊された。
その隣に建つ6階建てのマンション。
まず監視カメラを投石によって粉々にし、エントランスへ入り自動ドアを叩き割った。
「爆発」
『獅子』の爆発の能力を用い、片端から家を破壊していった。
流石に建物を倒壊させることは不可能だったが爆発により火事になっていたりした。
1分もしないうちに爆発音を聞きつけ人がでてくるだろう。
顔を見られては厄介なので、マンションを後にする。
「絶。 これはストレス発散か?」
後方からガルバの声がした。
「いや、これ自体は何も楽しくない。 しかし、ここで暴れまわれば、察しの良い契約者は現れるだろう」
「そこまでして、戦いを望むか?」
「あぁ、悪魔と同じように自分のしたいことをするまでだ」
「なるほど。 わかりやすい」
「だろう」
マンションを出ようとしたとき、40代であろう主婦とすれ違った。
──殺した。
契約者に追われるのは構わないことであるし、願ったり叶ったりだが、警察に追われるのはごめんだ。
ただの人間ではつまらない。
目撃者は生かしておかない方が良い。
人生で初めて人を殺める行為をしたが、心は痛まなかった。
元々他人に興味がなかったのだから当たり前といえば当たり前だ。
もし、今の殺人で、人を殺すことが楽しいと感じてしまっていたら俺は殺し合いではなく殺すことが目的ということになる。
案の定、何も感じなかった。
やはり、俺は闘いを望んでいる。
他人に追い詰められる事を。
その先に勝利がなかったとしても構わない。
過程が欲しい。
◆小早川 誠◆
「これ……」
「契約者じゃない? フツーに考えて人間にこれは無理でしょ」
ニュース番組で速報が伝えた。
死者20人。
被害を受けた建物が全部で10軒あり、半壊した建物3軒、全壊が2軒。
なにか爆発したような痕跡があり、テロではないかと議論されている。
そして、でている死者の中で建物の爆発とは無関係な死因で亡くなっている人も少なくないらしい。
曰く何かが衝突したような、車に轢かれたようなケガ。
――契約者の身体能力をもってすれば、人を思い切り殴るだけでそれに近しい怪我をさせることができるのではないか?
一番起こって欲しくないことが起きた。
これはメッセージだ。
俺はここにいるから早くやって来い、という他の契約者への大規模な宣戦布告。
こうした事が起きないようできるだけコンタクトを取ろうと動き回っていたのに。
「どうするの?」
「決まってる! 犯人を止める」
距離としてはさほど遠くはない。
今から行けば、30分で着くだろう。
「誠。 今日外にでてない理由は? ケガしてるからでしょ。 行ってもムダ死にするだけ」
「そうかもしれないけど……!」
「そうかもじゃなくて、そう。 あんたが行かなくても誰かしら行く」
先日のエクソシストとの戦闘のケガが治っていなかった。
右腕の深い傷は完治とはいかない。
「あんたは大人しくしときなさい」
「……だ」
「?」
「イヤだ。 俺にはこれを放っておくことはできない」
「良い? この被害を見るにかなり高威力の『武装』を持ってる。 万全ならともか──」
「行く」
「……『武装』は出さない」
「構わない。 それでも俺は行く」
「クソバカ」
◆二階堂薫◆
「とんでもないやつもいたもんね」
「そうだな」
「で、薫は行くのかしら?」
「あぁ。 契約者を探す手間が省けた。 もし乱戦になっても俺の『大熊』なら対処できる」
「クレバーね」
今は、契約者を探すため家を出ていた。
昼になり近くの店で昼食を取っていたところでこのニュースをみた。
ここから現場まで約2時間ほどかかるが行く価値はある。
◆日野 秋奈◆
「この爆発こないだの契約者かもね」
「……」
「いやぁ、酷いやつもいたもんねぇ。 自分のために他人に迷惑かけて。 ね♪」
「死ね」
私は今日も契約者を探そうと思い学校をさぼり家にいた。
あの派手な爆発を建物に撃てば確かにこんな被害を出せる気はする。
シェロの言う通り本当にこないだの契約者なのかもしれない。
これはメッセージだろう。
「俺はここにいるから、来れば相手してやる」といった感じか。
「来ないのであれば、ここの住人を皆殺しにする」という脅しも含まれているかもしれない。
まあ、いきなり笑い出す頭のおかしいやつだったし、ここまで派手なことをしてもおかしくない。
さあ、私はどうするか。
住人がどうなろうが知ったことではないが、契約者を探すてまが省けるのは願ったり叶ったりだ。
が、今回の場合、集まるのが私だけとは限らなず、最悪のケース乱戦になりかねない。
1対1ならともかく乱戦で勝ち残る自信はない。
ならば、そこへ向かおうとする契約者を殺すため現場から少し離れた所へ向かう。
◆石動 通◆
「……俺と同じ契約者だぁ?」
「だろうよぉ。 おいおい、通。 殺した人数負けちまったなぁ」
「そんなこと気にしちゃいねぇが、まずい」
「どうしたぁ?」
「……娘がこの辺に住んでんだよ」
「優しいパパだなぁ! おい!」
安否が心配であるし、契約者が敵であれば、俺が守ってやることもできる。
今、死ぬほど警察がいるとは思うがまぁ絡まれたら混乱に乗じてぶっ殺せば良い。
――ここからざっと2時間ってとこか。
◆カノ◆
「……わ、割と近所だわ。 物騒ねぇ」
「そうだね」
暗子はテレビを見ながらそうつぶやいた。
良かった。
暗子はこれが契約者によって引き起こされていると気づいていないらしい。
実は先ほどからレーダーにギリギリ一人の契約者が入っている。
場所からしてこの事件を起こしている契約者であろう。
相手から気づかれる距離ではないにしろまずい。
暗子は初めから一貫して強い『想い』がない。
当然、『武装』も強いはずがない。
私がみつけた以上、契約者の才はある。
しかし、身体能力が高くても、振り回す武器も、戦闘経験もないのであればこの能力をいかせるとは到底思えない。
今、契約者のもとに行けば、確実に殺される。
そして、ここは事件の場所と近いため下手をすると、そこへ向かっている――犯人目当ての――他の契約者が暗子を狙ってくる可能性すらある。
――ここが潮時なのかもしれない。
私は王には興味がない。
儀式に参加すれば面倒くさい事情もなく人間がいる世界で遊べると聞いて始めただけ。
友人である、暗子を死地に赴かせてまで欲しいものではない。
「ねぇ、暗――」
「カ、カノ今日はどこへ行くのかしら」
「あ……」
「? カノ?」
「ねぇ、暗子。 もう契約を切ろう」
「! ど、どうして?!」
暗子はほとんど感情が表にはでないし、声も荒げたりしない。
暗子は本気で動揺していた。
「もうレーダーに一人入ってるんだ。 それにね、これから多くの契約者がここへやってくる。 リタイアするなら今しかない」
「……」
「暗子。 悪いけど、勝ちっこないし、戦いになったら降参を聞き入れてもらえるかわからない。 今なんだ」
「……わかったわ。 契約を切る」
「うん」
「で、でも、今すぐは嫌よ」
「えっ?」
「もう会えなくなるかもしれないでしょう? ならもうちょっとだけ遊んでからで良いじゃない」
魔界とここでは時間の流れ方が違ったりする。
次会いに来た時に暗子が生きているとも限らないし、見つけ出せる自信もない。
つまり、これが暗子との最後になるかもしれないということだ。
そうだ。
少し、遊んでから……
「ダメ! 本当に危険なの!! 暗子に死んでほしくない……」
「カノ……」
私は今自分のしたいことに逆らっている。
遊びたい。
もっとカノと。
でも。
「わがまま言わないでよ! 私だって……!」
「……カノ。 あなたは私のたった一人の友人なのよ。 今ここで『はいお別れ』だなんて死んでも死にきれないわ」
「……」
「……」
沈黙が流れる。
……。
「……半日」
暗子。
静かで、気が弱そうで、すぐ流されるような感じなのに。
ここぞという時は意志が強いし、恐れを知らない。
本当……。
「半日だけ! それだけ遊んだら絶対リタイヤして」
「えぇ。 約束するわ。 カノはやっぱりノリがいいのね」




