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Sabbat・Servant(サバト・サーヴァント)  作者: ゆにろく
6月8日 金曜日
19/61

14話 回りだす歯車(1)

◆黒木 暗子◆


「成功……したわ」


なんと火が出たのだ。

火の玉。

ファンタジーチックなそれが私の手の上で燃えていた。


「凄い暗子!!!」


「こ、これが魔術なのね」


真っ暗な部屋に悪魔と私に、浮く火の玉。

雰囲気もばっちりでとてもうれしい。


「うん。 凄いけどさ、なんで暗子は魔術を使ってみたかったの?」


「あぁ。 い、言ってなかったわね」


「あ、わかった。 学校の奴らをぶっ飛ばしたかったんだ!」


「……その発想はなかったわね」


「えぇ…… じゃあ何がしたかったのさ?」


「それはね……」


それは3年前にさかのぼる。

私はおばあちゃん子だった。

父も母もあまりかまってくれない中、私を大切にかわいがってくれたのは母方の祖母だけ。

自分の感情を表現したり、他人とコミュニケーションをとるのが苦手だった私の唯一心を許している相手。

しかし、時は残酷で、三年前、私が中2の時祖母は息を引き取った。

とても悲しかった。

2日くらい泣き続けていた気がする。

気持ちが落ち着いてから、祖母の遺品の整理を手伝った。

私の母はドライでかなり適当に整理をやっていた。

私としては大好きだった祖母との本当のお別れというような気持ちだったので、熱心に捨てるものだとか、捨てるべきでないものを分けた。

そして、祖母の家の物置小屋で作業をしていた時、それ(・・)に出会った。


――魔術書である。


中には魔法陣の書き方やら、生贄が何やら、詠唱がどうだのと様々なことが書かれていた。

今思えば、優しそうな顔をしている割に「ひっひっひ」と笑っていたので魔女と言われれば魔女っぽいかもしれない。

死んだ祖母とのつながり、形見のような気持ちと時期が時期――いわゆる中2病――であり魔術という謎の学問(・・・・)に強く惹かれた私は魔術書をこっそりと持ち帰り、今に至る……


「えっ。 そんだけ?」


「えっ」


「いや、魔術で何かしたいとかさ、そういうのはないの?」


「……な、ないわね」


「おばあちゃんを生き返らせたいとか」


「おばあちゃんが亡くなったのは悲しいわ。 でもね、悲しいからといって『死』は私の都合で勝手に覆してはいけないのよ」


「そういうもん?」


「私はそう思うわ」


「……でも、なんか暗子らしいっちゃあ暗子らしいかも」


「? そ、そうかしら」


まあ、結局魔術に関しては「面白そうなものがでてきたからやってみよう」という軽い気持ちがもとになっている。

おばあちゃんの家から出た来た手芸の本は古本屋に売ったわけだし、美談風に言えば、おばあちゃんの意志を継ぐみたいな感じになるが、正直に言えば好奇心の一言で片が付く。

だから、血が苦手という理由でずっと生贄を使い渋っていたわけであるし。



「と、というか結局生贄使わなくてもできたわね。 魔術」


「あんま詳しくは知らないけど、生贄って魔力をこっちに持ってくるのに必要なんでしょ?」


「えぇ。魔法陣をゲート、生贄で座標を合わせて魔力を人間世界に移動させるらしいわ。 そこで詠唱を行えば魔術が成功するのよ」


「今の暗子は私と契約してるから半永久的に魔力を得てるのさ。 だから、エイショウさえできれば魔術はできんじゃない?」


「そうなのね」


「てか、ちゃんと生贄の役割を知ってるのに、生贄を使わないでいたんだ……」


「えぇ。 い、生贄は血がでているのが多いから嫌なのよ…… まあ、悪魔の召喚はできたから良いのだけれど」


「いや、だから私は召喚されてないってば」


真っ暗な部屋には二人の笑い声だけが響いていた。


◆リザ◆


「いやぁ。 ありがとうねぇ」


「いえいえ。 お気をつけて」


老婆はのんびりとした足取りで駅へ向かって行った。


「何が楽しいわけ?」


私はそろそろ聞くことにした。


「何が?」


「何がって、無関係の人間を助けて楽しいのかなーって? なんかもらえるわけでもないし」


「困ってる人がいたら助けるのが当然だろう」


「わかんない」


「ことわざには『情けは人のためならず』ってのがあってね。 良いことをすれば回り回っていつか返ってくるのさ」


「どうだか」


今日も契約者探しに街をうろうろしてるわけだが、前回ほどあっさりとは引っかからないようだ。

そして、何か困っている人――大荷物を持った老人、困っている外国人などなど――をみつければ誠は声をかけている。

焦ってはいないが、時々じれったくはなるものだ。


ふと足元に目をやると空き缶が落ちていた。

人の役に立つこと。

とりあえず拾ってごみ箱に捨ててみる。

……やっぱ楽しくはない

やはり、誠は謎である。


「誠はそんなんだから女ができないんだ」


「女の子なら今はリザがいるじゃん」


ほら、すぐわけわかんない事言うし。


「それに、俺の『想い』ってのはこういう人助けとかに依存しているんだろ?」


それを言われるとぐうの音もでない。

誠の根本的な『想い』は「人を助けたい」だ。


「ぐう……」


「ちゃんと人の多いところへ向かってるし大丈夫だって…… おっと……」


いきなり誠がよろけた。


「なーにやってんの」


頼れるんだか、頼りがいがないんだか。


◆ロック◆


「あ、反応ありますね」


「ほんとだねぇ。 行ってみようか」


エクソシストの必需品として悪魔を探す方位磁針のような見た目をした魔力探知機がある。

だいたい半径10km内であればおおざっぱに悪魔のいる方角がわかる。

それを頼りに一人一人契約者を探すわけだ。


ハーデンバルトさんは杖で地面をカツカツと突き、歩いていく。

歩幅は大きく、歩く姿には安定感しかない。

絶対杖なんかいらないだろう。

そう、この人の杖は歩くための補助ではない。

つまり――対悪魔用の武器である。

俺はというと、武器の日本刀を持っているが普通に帯刀していると捕まるので背中に背負った袋に入れていた。


「この探知機に目標との距離が正確に分かる機能が付いてるといいんですけどね」


「確かにそうだね。 わかってるとは思うが、今回の契約者は上位の悪魔と契約している。 こちらが目視するより早く私達の魔力に気づくだろう。 この探知機に反応があった以上もう警戒区域だ」


「了解です」


悪魔は魔力を探知できる能力が備わっているという。

個体差はあるものの半径1~5kmほどが範囲で、こちたの探知機とは違い高精度で場所を特定できるという。

契約者にとって俺たちは戦ってもメリットのない敵。

あちらから出向いて来るというのは考えにくいが気を付けるべきだ。

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