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冒険者たちの英雄譚  作者: 桜の灯籠
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第三階層 白壁の渓谷

 「報告します! 『魔導要塞』が陥落しました!」

 ドーンバルド城、謁見の間にて。深手を負った斥候が声高々に叫ぶ。

 魔導要塞……そこは、暗黒の森とドーンバルドの間に築かれた守りの要である。そこが陥落したという斥候の報せは、その場に居る者たちを戦慄させたのだ。

 間もなく、霧の軍勢がこの国を攻めにやって来る!

 敵は、得体の知れない勢力であり、彼らに関する情報は、あまりにも少なすぎる。ただ、一つだけハッキリとしているのは、彼らの目的は、略奪や版図拡大といったものではなく、国そのものを歴史や地図上から消し去ってしまうことだ。それは、その国がこれまで築き上げてきた全てのものを滅ぼすことを意味する。そして、それを可能にしてしまう程に霧の軍勢は、強大な勢力なのだ。

 この国にかつてない程の脅威が迫っている。謁見の間に緊張が漂い始める。

 「我が国の有史以来、一度も落とされたことのない鉄壁の砦が、こうも容易く落とされようとは、信じられん! 一体、どうなっているというのだ!?」

 国の守りを一任されている将軍は、この不本意な結果に対して苛立っていた。

 「霧の軍勢への恐怖心からか、民の中では不安が広がっており、一部の者たちは、暴徒と化する始末……このような状況で攻め込まれては、ひとたまりもありませんぞ」

 気弱そうな執政官は、どうしたものかとオロオロし始める。

 その場には、カタリナの姿もあったが、このもどかしい状況に対して、拳を握り締めるしかなかった。彼女と騎士団の団員たちは、霧の軍勢の襲撃に備えて、いつでも戦えるように準備をしていたのだが、女王から出撃の許可が得られなかったのだ。

 陛下の命とはいえ、私は、ただ、ここで待っているだけでよかったのだろうか?

 暁の聖剣が霧の軍勢を打ち滅ぼす唯一の力なのであれば、このような場所でじっとしているよりは、騎士団を率いて前線に向かうべきではなかったのだろうか? カタリナは、アンネの命に少なからず疑問を抱いていたのだ。

 「陛下……我々には、どれ程の猶予が残されているのでしょうか?」

 執政官が恐る恐るそう尋ねると、皆がアンネに注目する。すると、アンネは、何も言わずにゆっくりと目を閉じると、目に見えない何かに触れるかのように手を動かし始める……アンネは、未来を見通すために、マナの流れを読み取ろうとしているのだ。マナは、万物を形成する元素であり、世界の理そのものと提唱する学者もいるのだ。すなわち、マナの法則を読み取ることで、将来に起こり得る出来事を知ることが出来るのだ。

 しばらくして、予知を終えたアンネは、皆にこう告げた。

 「彼らは、マナの法則から外れた存在……よって、私の力でも正確な動きを捉えることが出来ません。しかし……」

 アンネは、目を開くと、こう続けた。

 「今より七日後、ドーンバルドの空は、暗雲に閉ざされ、町は、火の海に包まれているのが見えます」

 城内にどよめきの声が上がる。アンネの予言によれば、ドーンバルドの崩壊がすぐそこまで迫っているというのだ。猶予は、たったの七日間しかない。気弱な執政官は、神に祈るように天を仰ぎ、勇敢な将軍ですら、絶望のあまりに手で顔を覆ってしまったのだ。

 しかし、そんな中でも女王は冷静そのものであった。彼女は、皆に向かってこう語り掛けたのだ。

 「皆の者、我々には、あまり時間が残されていません。ですが、希望の光は、僅かに残されています。この光が消えてしまわないように、今は、各々がなすべき使命を果たすのです」

 アンネは、玉座から立ち上がると、すぐさま家臣に指示を出す。

 「執政官、まずは民の安全を確保しなければなりません。すぐにこの城を避難所として開放しなさい」

 「で、ですが、陛下。今の彼らを城の中に招き入れるのは、危険すぎます」

 執政官は、暴徒たちのことを懸念しているようだが、女王は、こう返したのだ。

 「では、民を見捨てろと? そうおっしゃるのですね?」

 「い、いえ、そのようなことは……分かりました、すぐに手配いたします」

 執政官は、一礼すると、すぐさま仕事に取り掛かる。

 「将軍、兵は、どれ程集まっていますか?」

 「千を超える兵たちが、陛下に命を捧げる覚悟を決めておりますぞ」

 「それは頼もしいですね。それでは、迎撃の準備に取り掛かってください。それから、皆の者には、指揮は、私自らが執り行うとお伝えください」

 「おお、陛下自らが陣頭に立たれるとなれば、兵たちの士気も高まりましょうぞ。お任せください! 早速、準備に掛かります!」

 将軍は、傍で待機していた士官たちに指示を出していった。

 「それから、騎士団長……」

 アンネは、カタリナの方を向く。いよいよ自分の番だ。

 暁の騎士団は、霧の軍勢に対抗するために組織された。つまり、カタリナは、この戦いの為に日々、団員たちと共に技を磨き、鍛錬を積んできたのだ。己の宿命と対峙する時がやって来た。カタリナは、身を引き締めて命令を待つが……

 「あなたは、ここに残りなさい」

 「え?」

 女王からの命令は、意外なものだった。カタリナは、アンネにとって実の娘でもある。今更になって我が娘のことが愛おしくなったとでもいうのだろうか?

 「陛下、それは、どういう意味ですか?」

 その問いに対して、アンネは、カタリナの腰に差した暁の聖剣に目を向け、こう答える。

 「その剣は、未だに真の力に目覚めてはいません。今、霧の軍勢と戦ったとしても、あなたに勝ち目はないでしょう」

 「ですが、戦うことは出来ます! 覚悟だって出来ています!」

 カタリナは、そう抗議するが、アンネは、首を横に振る。その決意は固く、決して娘に対する温情などではないと知った。

 つまり、女王陛下は、剣の力を引き出せなかったカタリナに失望しているのだ。

 「そんな……では、私は、何のために……」

 カタリナは、絶望のあまりに膝から崩れ落ちる。まるで、己の全てを否定されたような感覚に襲われたのだ。そんなカタリナに対して、アンネは、淡々とした口調でこう声を掛ける。

 「敵の狙いは、あなたの持つ暁の聖剣でしょう。それは、この国を守るための剣である一方、全てを滅ぼす程の力を秘めています。彼らは、その力を持ってして『大いなる門』を開くつもりでしょう」

 大いなる門? それは、一体? カタリナは、顔を上げて、そのことについて尋ねようとするが……その前にアンネが近づいて来る。

 「聖剣を敵の手に渡すわけにはいきません。ですから……」

 アンネは、カタリナの顔の前に手の平を向ける。その手には、魔力が宿っていた。

 「へ、陛下? 何をなされるおつもりで?」

 「眠りなさい」

 冷たく言い放った次の瞬間、カタリナの体に異変が起きる。体から力が抜けていき、次第に意識も薄れていくのだ。これは、神経を麻痺させる強力な魔法だ。アンネは、魔法の達人でもある。さすがの騎士団長といえども、抗うことは、出来なかったのだ。

 「どうして……へい……か……」

 魔法に屈したカタリナは、そのまま地面に伏せてしまった。


 この国はもう……

 封印の神殿への道を開くのです。民たちを……

 それから、彼女は……


 ぼんやりとした意識の中、途切れ途切れにそんな声が聞こえた気がした。



 『第三階層 白壁の渓谷』



 アルベルトは、カタリナを連れて、いつものようにセーブポイントに通う。もっとも、昨晩かなり飲んだ影響もあってか、カタリナは、頭を押さえながら、フラフラとした足取りで歩いていた。

 「昨晩の記憶がまるで無いのだが……アル、そなたは、何か覚えておらぬか?」

 アルベルトは、昨晩の出来事を思い出すが……すぐさま、記憶から消し去るように、頭をブルブルと振る。

 「い、いや、僕もよく覚えてないんだ。お互い、飲み過ぎたみたいだね、は、ははは」

 そう言って笑って誤魔化した。

 「そうか……うう、頭が痛い……」

 「辛そうだね。シャーロットに二日酔いに良く効く飲み物を出して貰おう」

 二人が店を尋ねてみると、早速、シャーロットが出迎えてくれた。

 「おはようございます! ローガンさん、それから姫様も!」

 「おはよう、シャーロット。急ですまないんだけど、姫さんの面倒を見てやってくれないかい?」

 そう言われてシャーロットは、カタリナの方に目を向ける。カタリナの容態は、かなりマズイ状態にあるらしく、今にも吐きそうな様子であった。

 「はわわわ!? さっき掃除したばっかりなのに……じゃなくて、姫様! 今すぐ気分が良くなる飲み物を作りますので、それまで耐えてくださぁーい!」

 などと叫びながら、大慌てでキッチンへと直行する。

 「とりあえず、座って休んでいなよ」

 「うむ、そうさせて貰お……うっぷ」

 カタリナは、近くにあったテーブル席に座ると、だらしなく机に伏せてしまった。髪もボサボサのままで、気品の欠片もない。

 「さてと……」

 シャーロットが姫さんの面倒を見てくれている間に、ジェームズと話でもしていよう、そう思ったアルベルトは、カウンター席に座る。ちなみに、テーブルの上では、ブリちゃんが気持ちよさそうに寝ていた。

 「おはようございます、ローガンさん。今日もダンジョンの情報を仕入れに来られたのですか?」

 「うん、そんなところだ。何か面白い情報はあるかい?」

 「それがですね……」

 ジェームズは、やや勿体ぶった後、こう続ける。

 「あなたが休暇を楽しんでいる間に、第二階層も突破されたようですよ」

 「な、ウソだろ?」

 アルベルトは、信じられないと言わんばかりに声を上げる。

 「第二階層が発見されてからそんなに日は経ってないはずだよ。なのに、もう第三階層が見つかったってこと?」

 「そのようです。しかも、突破したのは、またしてもアーチボルト社らしいですよ」

 「あいつら……くそっ、また出し抜かれたのかよ」

 アルベルトは、少し悔しそうにしていたが、やがて口元を緩める。その表情は、どこかこの状況を楽しんでいるようにも見えた。

 「でも、こうも順調に進まれると、第一階層の苦戦ぶりがウソみたいだね」

 そう言ってアルベルトは、第一階層を死守し続けた張本人に目を向ける。今は、ただのマスコットでしかないが、コイツの強さは本当に……この時、アルベルトの中で一つの疑問が生まれる。

 第一階層が一ヶ月もの間、突破されなかった理由は、本当にそれだけだったのか?

 数多くの冒険者が挑んだ中、本当に誰一人としてこのミノタウロスに敵わなかったのだろうか? あるいは、出会わずに済んだ幸運な冒険者は、いなかったというのだろうか? そう考えると、どうも他に理由があったように思えてきたのだ。

 「マスター、仮に魔装召喚が出来るミノタウロスがいたとしても、そいつ一体だけで第一階層を守り抜くなんてこと、出来ると思うかい?」

 アルベルトのそんな疑問に対して、ジェームズは、こう答える。

 「実は、そのことなのですが、以前、あなたに提供した第一階層の情報について、一つ、訂正しなければならなくなりました」

 思い当たる節があるらしい。彼は、こう続けた。

 「これは、知り合いの医者から聞いた話なのですが、彼の務めている病院にも、亡国の遺跡群に挑み、第一階層で重症を負った冒険者たちが運ばれてきたそうです。それで、最近、治療を終えて話が出来るようになったそうですが、彼らの話によると……」

 ジェームズは、メガネをかけ直すと、こう続ける。

 「どうやら、ミノタウロス以外の魔物にやられたそうなんです。殆どの冒険者がね」

 アルベルトは、少し驚く。ミノタウロス以外に障害となった魔物がいた上、そいつは、更に多くの負傷者を出している。かなり危険な存在であることは、言うまでもない。

 「つまり、コイツ以上に相当ヤバい魔物がいたってことだよね?」

 「正確には、一体ではなく、集団だったそうです。それに、魔物と言っても見た目だけなら人の姿をしていたそうですよ。剣を携え、鎧を身に纏っていた、という証言もありますね」

 「つまり、何処かの国の兵か?」

 アルベルトがそんなことを口にした時のことであった。

 「ジェームズ殿、その者たちについて、詳しく話を聞かせて貰えまいか?」

 二人の会話にカタリナが割り入る。二日酔いから無事に回復したらしく、今は、背筋もピンとしていたし、髪型も綺麗に整っていた。

 「詳しく、と言われましても、あまり話せるようなことは……」

 「些細な事でも良い。聞かせてくれ」

 「分かりました。他に分かっていることと言えば、話が通じず、いきなり襲われたということと……ああ、そうでした。彼らの目は『真っ赤』だったそうですよ」

 真っ赤な目……その特徴を聞いた時、アルベルトの頭の中に、真っ先に彼らのことが思い浮かぶ。

 「姫さん。もしかして、森の賢者がおかしかった時の状態と同じなんじゃ? それに、かつてのコイツも同じ症状だった」

 そう言ってアルベルトは、ブリちゃんを指差す。確かに、暴走状態の彼らは、禍々しい程に真っ赤な目をしていたのだ。

 「うむ、気のせいではないだろうな。それに……」

 カタリナは、何か話そうとしたものの、急に口をつぐんでしまう。何か思い当たることがあるようだが……

 「アル……」

 やがてカタリナは、何かを決心したらしく、アルベルトと向き合ってこう言い出した。

 「彼らについて確かめたいことがある。なので、私をダンジョンに連れて行っては、貰えないだろうか?」

 そう願い出るカタリナの表情は、かつてない程に真剣なものだった。普段、自分からダンジョンに行きたいだなんて言わないだけに、アルベルトは、戸惑ってしまうが……とは言え、元からそのつもりだったので、答えは決まっているようなものだ。

 「もちろんだよ。でも、これから向かうのは、そいつらの居るかもしれない第一階層じゃなくて、第三階層になるけど、それでもいいかい?」

 「うむ。どちらにせよ、あの者たちとは、いずれ相見えることになるだろうからな……」

 そう口にするカタリナは、冒険者たちを襲った謎の集団について何か知っている様子だったが……まあ、その時が来れば話してくれるだろう。そう思ってアルベルトは、何も聞かなかった。

 「それじゃあ、決まりだね。それで、急で悪いけど、今すぐに出発するよ。その怪しい連中のことも気になるけど、これ以上、アーチボルト社の連中に後れを取りたくないしね」

 「うむ、分かった」

 二人は、セーブポイントを後にし、ダンジョンに旅立っていった。

 その場に残された兄弟は、客が出て行った後の扉を見つめつつ、こんな話を始めた。

 「あらら、何も食べずに行っちゃいましたね。せっかく、何か作ってあげようと思ってたのにぃ」

 シャーロットは、自慢の料理を振る舞えなかったことを少し残念そうにしていた。

 「はは、ダンジョン一筋のローガンさんらしいな」

 「それにしても、あの二人、なんだかんだ言いつつも仲良くやってますよね」

 「そうだな。あのコンビならきっと何か凄いことを成し遂げてくれる、俺は、そんな気がしてるんだ」

 「応援したくなっちゃいますよね」

 「それによ……」

 「それに?」

 「うちの常連がダンジョンを攻略したら、この店の宣伝になると思わねぇか? だから、今のうちに、アイツらには、恩を売っておかねぇとな」

 そんなことを言い出すジェームズのメガネが怪しく光る。

 「え? ちょっと、兄さん?」

 さすがの妹も若干引き気味である。

 「なんてな、冗談だよ。ハハハ」

 などと言って茶化すが、腹黒い兄のことだ。何処まで本気で冗談なのか、妹ですら判断に困ってしまった。


 第三階層、白壁の渓谷……暗黒の森を抜けた先には、背の高い山脈が連なっており、その山間には、深い谷がある。ここは、周囲が白い岩肌に囲まれていることから、白壁の渓谷と呼ばれているそうだ。

 そして、この谷を抜けた先に、ドーンバルドがあるとされているのだ。

 二人は、転送装置で第三階層に到達するが、白い岩肌が照り返す、陽の光があまりにも眩しかったので、思わず目を覆ってしまう。ダンジョンの中であっても太陽は存在するらしい。

 「眩しいな。前の階層が薄暗かったから余計にそう感じるよ……それで、姫さん、ここに見覚えは?」

 アルベルトがそう尋ねると、この辺りの事情に詳しいカタリナは、こう答える。

 「ここは、白壁の渓谷だろうな。陸路においては、この谷がドーンバルドへと至る唯一の道なのだ。だが、この先には、『魔導要塞』と呼ばれる我が国の守りの要がある。ドーンバルドに入るためには、そこを通らなければならないのだ」

 「唯一? 他に道はないってこと?」

 「あるとしても、この険しい山々を超えるか、海を渡るしかないからな」

 「なるほど。つまり、仮に隣国から攻めて来られても、要塞さえ守り切れば、凌げるってわけだね」

 「うむ、如何なる大軍を引き連れて来ようとも、我が国の鉄壁の要塞を攻略することは、叶わない……はずだったのだがな」

 そう口にするカタリナは、神妙な表情を浮かべていた。

 「はずだった?」

 アルベルトがそう尋ねるものの、カタリナは……

 「あの時、あそこで何があったのか、この目で確かめねば……」

 と、独り言を呟きながら先に行ってしまった。

 「姫さん?」

 一体どうしたんだろう? さっきから、どうにも様子がおかしいな。そう思いつつ、アルベルトは、カタリナの後に続く。

 二人は、長い長い渓谷の道を歩き続ける。それは、延々と続くのではないかと思われる程の長さであり、その距離を歩くだけでも疲労が蓄積されていくというのに、眩いばかりの陽の光が二人の体力を更に奪っていくのだ。

 「うう、辛い……この道、一体どこまで続くんだよ」

 さすがのアルベルトも音を上げ始めるが、一方のカタリナは、弱音など一切吐かずに、黙々と歩き続ける。王女様と言えばもう少しデリケートなものだと思っていたが、元騎士団長である彼女は、体力的にもタフなようだ。

 「この辺りで少し休憩でも……」

 アルベルトがそう言いながら一歩踏み出した時のことであった。

 「ん?」

 ある所を境に、辺りが急に暗くなったのだ。空を見上げてみると、先程までギラギラと輝いていた太陽が消えており、空は、星一つ見当たらない程に真っ黒である。しかも、薄っすらと霧が漂い始める。

 「これは、黒マナか? このくらいなら何とか進めそうだけど……なんか、明らかにマズい場所に足を踏み入れたって感じだね」

 アルベルトは、辺りを見渡しながらそう口にする。

 「うむ。それに、見よ」

 カタリナは、前方の方を指差す。

 二人の前に、渓谷の道を塞ぐように建てられた巨大な要塞が立ちはだかる。

 四角に削り取った巨岩を積んで出来たそれは、遠くにあるはずなのに、まるで、すぐそこにあるかのように錯覚してしまう程の大きさであり、見る者を圧倒する。また、要塞の中央にある鉄門は、今まで一度も開かれたことが無かったかのように重く閉ざされており、更に魔法陣によって封印が施されていたのだ。敵兵を迎撃するための砲台も取り付けられているが、アレは、圧縮されたマナを砲弾として射出する、『魔導砲』と呼ばれる兵器に違いない、とアルベルトは考察する。

 「あれが姫さんの言う魔導要塞か。なるほどね、アレを突破するには、並みの軍隊じゃあビクともしないだろうな」

 アルベルトは、要塞を見上げながらそう口にするが、この時、カタリナは、顎に手を当てながら難しそうな顔をしていた。

 「どうかしたのかい?」

 「いや、妙だと思ってな。門が開かれていないどころか、封印すら解けていないのだ」

 「それの何処が妙なんだい?」

 「それは……」

 カタリナは、そこから先を話すべきか迷っているようだったが、やがて、何かに納得した様に頷くと、こう続ける。

 「そなたになら話しても問題はなかろう……これは、私が眠りにつく直前に起きた出来事なのだが、実は、魔導要塞が陥落したとの報告を受けていてな。それならば、あの鉄門は、破られているはずなのだが……あれは、誤報だったのだろうか?」

 「見た所、攻撃を受けた跡もなさそうだしね」

 少なくとも、ここで戦闘が行われたのであれば、砲弾の跡が残っていてもおかしくないわけだが、地面は平らなままである。

 「中を調べてみよう」

 カタリナは、そう提案するものの、そもそも、こちら側からあの要塞にどうやって潜入するのか、アルベルトには、見当もつかなかったのである。

 「姫さん、調べるにしても、どうやって中に入るんだい? 門は開いていないし、封印までされているんだよ? 見た所、高度な魔法陣が使われてるみたいだし、僕の魔法でも突破は無理だろうね。中に入るためには、大砲でも持ってこないと」

 すると、カタリナは、得意気にフフンと鼻を鳴らし、こう言ったのだ。

 「確かに、大軍相手であれば難攻不落の要塞だが、人一人や二人くらいなら簡単に入れる道があるのだ」

 「へえ、そんなに都合の良いものがあるんだ? 早速、そこに連れて行ってくれよ」

 「もちろんだ。付いて参れ」

 そう言ってカタリナは、アルベルトを何処かへ連れて行こうとするが……


 「ねえ、姫さん……」

 「うん?」

 「ここって、その……下水、だよね」

 アルベルトは、鼻をつまみながらそう言う。要塞の中へ入るための道、それは、地下に通る下水道であった。水路には、濁った汚水が流れ続けており、チーズが腐ったような酷い臭いが通路全体に充満している。しかも、人一人がやっと通れるような狭さであったため、窮屈な思いをしながら進まなくてはならなかったのだ。アルベルトは、一刻も早くここから抜け出したいと言わんばかりの渋い顔をしていたが、一方のカタリナは……

 「それがどうかしたかの?」

 まるで気にしていない様子である。

 「いや、いいんだ。中に入れるなら何処通ったって……」

 この人、本当にお姫様なのだろうか? カタリナは、体力だけでなく精神的にもタフなようである。

 アルベルトは、カタリナの案内で下水の奥へと進んでいくが、この鼻に纏わり付く酷い悪臭には、どうしても慣れることが出来ずにいた。しかも道が複雑に入り組んでいたため、要塞へは、容易に辿り着けそうにない。アルベルトが心底ウンザリしかけた時……

 「ん? これは……」

 彼は、あるものを見つけたのだ。

 「待ってくれ。これを見てよ」

 アルベルトは、壁に付着した血痕を指差す。しかも、それは、壁にべっとりと染み付いていたのである。

 「ふむ、血の跡のようだが、色がまだ真っ赤だな」

 「うん。つまり、つい最近付いたものなんじゃないかな」

 「他の冒険者がここを訪れた、ということか」

 カタリナが結論を口にすると、アルベルトは、間違いないと頷く。

 「しかも、この出血量だとかなり危ない状態だ。間に合うといいけど……」

 そう言ってアルベルトは、地面の方へと目を向ける。そこには、血痕がポツンポツンと残されていたが、この跡を辿れば負傷者が見つかるに違いない。

 「あっちに行ったみたいだね。よし、急ごう」

 「うむ」

 二人は、血痕を追い始めるが……その道中、あろうことか、黒マナが薄っすらと漂い始めたのだ。何だか嫌な予感がする、アルベルトがそう思い始めた時、近くの物陰で何かが動いたことに気が付く。血痕は、そこまで続いてるようだが……例の負傷者かもしれない。そう考えたアルベルトは、声を掛けてみる。

 「ねえ、そこに誰かいるのかい?」

 返事は、ない。かなりマズイ状況に違いない。アルベルトは、急いで駆けつけるが……

 「!?」

 足をピタリと止める。強い殺気を感じ取ったのだ。前に目を向けてみると、自分が弓矢を向けられていることに気付く。矢尻は、頭を狙っている!

 一歩でも動けば射殺される!

 あまりの気迫に、アルベルトは、その場から一歩も動けなかった。

 「あら、あなたは……」

 ところが、相手は、こちらの正体を知った途端、弓矢を下ろしてくれた。この時、アルベルトは、ようやくこの人物の正体を知る。

 血痕の主は、メルセデス・アーチボルトだったのだ。

 彼女は、足を負傷して動けない状態のようだが、血を流し過ぎたせいか、顔は、真っ青になっている。

 「お、おい、あんた、平気なのか?」

 アルベルトが心配そうにそう声を掛けると、メルセデスは、苦笑いしながらこう答えた。

 「見ての通りよ。どうやらリサーチ不足だったみたい。無様よね……」

 もっとも、そんな彼女の様子を見て、アルベルトは、笑ったりしなかった。

 「待ってな、今すぐ治してやるよ」

 アルベルトは、杖を握って何やら魔法を唱え始める。どうやら傷を治そうとしているようだが、メルセデスにとって、そんなアルベルトの行動は、意外に思えたらしい。

 「どうして? この前は、私たちを見捨てたのに……」

 「いいから黙ってなよ。集中出来ないから」

 アルベルトは、周囲のマナを集め、それをメルセデスの足の傷口に送り込んでいく。蓄積されたマナは、治癒能力を飛躍的に高め、やがてその傷口を塞いでいったのだ。

 「ありがとう、まさか、あなたに助けられるなんてね……」

 そう言ってメルセデスは、自らの足が動くようになったことを確かめていた。顔色も幾分かよくなったようだ。

 「礼なんて要らないよ。それよりも、あんたの部下は?」

 「皆、先に逃がしたわ……彼らに会わなかった?」

 「いや。でも、死体は見なかったし、きっと無事に脱出できたんじゃないかな?」

 「そう……よかった」

 メルセデスは、安堵した様に溜め息をつく。どうやら、彼女は、部下たちを逃がすためにここに残っていたようだ。

 それにしても、第一階層、第二階層と順調に突破してきたメルセデスたちをこんな目に遭わせるとは、相当厄介な敵がいるもんだ。この先に進むのなら話を聞いておくべきだろう。アルベルトは、そう考えた。

 「それで、あんたらの身に何があったのか、教えてくれないかい?」

 「ええ……実は、得体の知れない連中に襲われてね。真っ赤な目をした不気味な奴らよ。あいつらは、何もない所から突然現れて、私たちを襲ったのよ」

 「それって……」

 アルベルトは、カタリナの方に顔を向けるが、彼女も同じことを考えていたらしく、コクリと頷く。

 間違いない、ジェームズの話に出てきた謎の兵士たちのことだ。

 「奴らは、第一階層にも現れたそうね。だから、十分に警戒していたし、装備も整えていたつもりだったんだけど……ご覧の通り、黒マナが発生してね」

 メルセデスは、周りを見渡しながらそう言った。

 黒マナは、マナを相殺する性質を持っているため、魔法はもちろん、魔装の効果までも弱めてしまうのだ。これらに戦力の多くを依存している冒険者にとっては、黒マナが発生しているエリアでの戦闘は、リスクが高いと言える。

 しかし、彼女たちがやられたのは、それだけの理由ではなかったようだ。

 「それに……これは、未だに信じられないことなんだけど、アイツらには、私たちの攻撃が一切通じなかったのよ。何一つとして、有効な手立てはなかったわ」

 「あんたの持っている、その弓も効かなかったのかい?」

 アルベルトがそう尋ねると、メルセデスは頷き、こう続けた。

 「まるで、幽霊を相手にしているかのようだったわ。だって、私の放った矢がアイツらに当たる前に、『消えてしまう』のよ。あんなの、どうしようもないじゃない……」

 そう語るメルセデスの顔は、得体の知れない敵に対して絶望しているように見えた。

 矢が消えてしまう? 敵は、実態がない存在だったのだろうか? それとも……いずれにせよ、メルセデスにここまでの手傷を負わせる程の連中だ。それに、攻撃が一切効かないとなれば、仮に見かけたとしても、交戦は避けるべきだろう。アルベルトは、そう考えた。

 「アーチボルトさん、何とか立てるかい?」

 「心配いらないわ。少し休憩したら、ここから脱出するつもりよ……あなたたちは?」

 その問いに対しては、カタリナが答える。

 「私は、先に進まねばならん。そなたたちを襲った連中の正体も気になるしな」

 「そう……先を越されるのは悔しいけど、そうは言ってられないわね。この先に階段があるわ。そこから要塞へと入れるはず。だから……気を付けてね」

 メルセデスは、そう言うと、力尽きたように、ゆっくりと目を閉じる……

 「アーチボルトさん?」

 まさか? 不安になったアルベルトは、心配そうに声を掛けるが……しばらくすると、スース―という寝息が聞こえてくる。どうやら、話をしていて少し疲れただけのようだ。

 「なんだい、眠っただけか……」

 アルベルトは、ほっと一息ついて安堵すると、その場から立ち上がる。

 「それじゃあ、行こうか」

 二人は、メルセデスをその場に残し、先へと進む。


 メルセデスの言った通り、近くには階段があり、そこを上がって行くと、要塞の中へと潜入することが出来た。中は、思ったよりも明るかったが、どうやら壁に埋め込まれた照明が辺りを照らしているようだ。

 「これは、マナの力で光っているのかい?」

 アルベルトは、壁の照明に触れながらそう尋ねる。

 「そうだ。それに、これは明かりとして機能しているだけでなく、要塞の各所にマナを伝達する導線としての役割もある。この要塞には、『マナの心臓』と呼ばれるマナを生成する魔導機関が備わっていてな。そこが供給源となっているのだ」

 「へぇ、じゃあもしかして、表の魔法陣や魔導砲も、そこからマナを供給しているってことかい?」

 「うむ、そういうことだな。要塞はまだ生きているとなると、少なくとも、心臓は止まっていないと考えられるが……奥の方も調べてみよう」

 「うん、分かった」

 二人は、要塞の奥へと進んでいった。

 要塞内部には、障壁を張り巡らせるゲートや小型の魔導砲など、侵入者を阻むための仕掛けが備わっていた。いずれも機能しているようだが、カタリナの目には、それがかえって不自然に見えたらしい。

 「おかしい。もし、要塞が内部から落とされたのであれば、防衛機能が破壊されていてもおかしくはないはずだが……待て、あれは?」

 この時、カタリナは、何か見つけたらしく、壁に近付いて調べ始めるが……

 「アル、こっちに来てくれ」

 カタリナに呼ばれたので、アルベルトもそっちに向かった。

 そこには、刀剣による傷跡や魔導砲による弾痕があちこちに残っていたのだ。それに血の跡も残っているようだが、黒ずんでいることから相当な時間が経過しているように見える。

 「間違いない。争った形跡だ。彼らは、ここで何かと戦ったのだろう」

 つまり、カタリナが聞いた要塞が陥落したという報せは、正しかったのだろう。しかし、この事実は、余計に謎を深めたのである。

 「しかし、敵は、何処からこの要塞に侵入した? どうやって仕掛けを潜り抜けた?」

 「僕たちと同じように、下水道を通って中に入った可能性は?」

 「いや、あり得んだろう。あの道を知るのは、我が国の軍隊の中でも、将校以上の階級の者のみ。それに、もし、仮に見つけられたとしても、この砦には、千もの兵が駐屯していた。それも、精鋭揃いだ。少数の手勢で落とせるとは思えん」

 「大軍を率いて通れるような広さじゃなかったしね。じゃあ、敵は、何処から?」

 「ううむ……分からないことばかりだ」

 そう言ってカタリナは、頭を抱えだす。

 謎の答えを知るためには、過去の記憶を頼るしかない。アルベルトは、そう考えた。

 「ここで何があったのか、確かめてみるかい?」

 「確かめるとは、どうやって?」

 「僕の魔法なら、この場に残された残留思念をマナの力を使って視覚化することが出来るんだ。それで、何があったのか知ることが出来るはずだよ」

 「そんなことが……では、頼む」

 アルベルトは、コクリと頷くと、杖を地面に突き立て、呪文を唱え始める。

 すると、淡く光る何かがボンヤリと浮かび上がり、やがて、それらは、人の形となり、動き出したのだ。鎧を纏った彼らは、剣と盾を手に持ち、何かと戦っているようだが……

 「敵襲、敵襲だァーッ!」

 「くそっ、奴ら何処から来やがった?」

 「障壁をすり抜けてきたのか? それに、魔導砲が作動していないだと? 一体、どうなってやがる!」

 駐屯していた兵士たちは、大声で叫びながら右往左往していた。突然の襲撃に要塞内は、混乱を極めていたようだ。

 「おい、こっちにも来やがったぞ。迎え撃て!」

 兵士たちの元にも敵がやって来たようだ。残念ながら、アルベルトの魔法では、その姿を確認することが出来なかったが、彼らは、敵に向かって斬り掛かっていく。兵たちは、かなり鍛錬を積んでいるらしく、見事な剣術で次々と敵を討ち取っているようだ。しかし……

 「な、なんなんだよ。こいつら、霧の中からドンドン湧いてきやがるぜ」

 敵は、大挙して部屋に雪崩れ込んできたのだろうか? 兵士たちの顔が恐怖のあまりに真っ青になっていく。

 「ああ、反対側からも……もうおしまいだァ……」

 「諦めるな! ここを落とされたら俺たちの家族はどうなるんだ?」

 「隊長、応援が来たみたいですよ!」

 「おお、助かったか……いや、待て。お、おい、お前ら、一体どうしたんだ? な!? なんで俺たちに剣を……うわあああぁぁぁッ!」

 映像は、そこで掻き消えてしまった。

 兵士たちは、敵の大群に囲まれ、絶望的な状況に追い込まれたようだが……その後、彼らの身に一体何が起こったのか? 応援が来たと言っていたが、彼らが到着する前にやられてしまったのだろうか? 謎は、更に深まるばかりだ。

 「妙だな。敵に攻め入られたにもかかわらず、仕掛けが作動しなかったというのか? どういうことだ……」

 カタリナは、腑に落ちないと言わんばかりに顔をしかめていた。

 「何か気になることでも?」

 アルベルトがそう尋ねると、カタリナは、こう答えた。

 「うむ。この要塞の仕掛けについてなのだが、実は、我が軍の兵たちには、作動しないようになっているのだ。それをすり抜けたとなれば……」

 そこまで言われた時、アルベルトは、一つの結論に達する。

 「裏切り者がいたってことかい?」

 カタリナは頷くと、こう続ける。

 「もし本当にその通りであるなら、あの者たちは、応援だと思っていた味方に斬り殺されたことになるな」

 そう口にするカタリナの表情は、信じたくないと言わんばかりである。

 要塞内で仲間割れがあった可能性は高いだろう。それなら仕掛けが破壊された痕跡や、表の鉄門が破られた跡がないことにも説明がつく。しかし、これが真相の全てなのだろうか? 真実に辿り着いたとするには、まだ解けていない謎が一つ残っているのに。それは、ここで戦闘があったことを知った時から気になっていたことであった。そう……

 遺体は、何処に消えた?

 戦闘の形跡や血痕が残っているにもかかわらず、敵味方問わず、亡骸が全く見当たらないのである。アルベルトは、その疑問をカタリナに話してみることにした。

 「ねえ、姫さん……亡骸が一体も残っていないのは、どういうことだと思う?」

 カタリナは、ハッとした様に目を見開く。

 「言われてみれば、確かに……」

 そう言って顎に手を当て、考え事を始めるが……その時のことであった。

 「待て、何かおかしいぞ?」

 カタリナが何かに気が付いた時、要塞内部で異変が起き始める。何処からともなく漂ってきた黒い霧が、辺りに充満し始めたのである。

 黒マナだ!

 しかも以前よりも濃いもので、少し息苦しさを感じる程だ。この時、二人は、メルセデスの話を思い出す。確か彼らが要塞を探索している際にも、黒マナが発生したらしいが……となれば、次に起こり得る出来事は……

 次の瞬間、霧の中から鈍い光が放たれる!

 「危ないッ!」

 二人は、分かれるように飛び退くが、霧の中から飛び出してきたソレは、ガーンという金属を打ち付ける音を響かせながら、地面を砕いてしまったのだ。

 「不意を突くとは、卑怯な……姿を現わしてはどうだ?」

 カタリナが霧の向こう側に向かって叫ぶと、それに応えるように、霧の中から黒き甲冑を纏った騎士が姿を現わす。バイザーの奥に赤く光る目が浮かび上がる。

 相手はたったの一人だが、間違いない。コイツこそが、第一階層で多くの冒険者たちに大怪我を負わせた例の兵士なのだ。

 「はは、ようやくお出ましか。よし迎え撃つぞ!」

 そう言ってアルベルトは、魔装して戦闘に備えるが……一方、カタリナは、兵士の姿を見て信じられないと言わんばかりに首を横に振っていた。

 「そんな……あの鎧は、紛れもなく我が国の兵のもの……つまり、彼らは、霧の軍勢に取り込まれてしまったというのか? そんなことがあり得るのか?」

 霧の軍勢? 取り込まれた? 一体何のことだ? アルベルトは、そのことを尋ねようとしたが、そんな場合ではなかった。

 黒き騎士がガシャンガシャンと金属音を鳴らしながら迫って来たのだ!

 そして、重量感のある鋼鉄の剣を片手で振り上げ、重装備に似合わぬ機敏な動きで間合いを詰め、アルベルトを叩き潰そうと襲い掛かって来る。

 アルベルトは、振り下ろされる剣の動きに合わせて横に跳び、続けて返しの一撃が飛んで来たので後ろに跳んで躱す。そうやって次々と攻撃を避けていくが、そうしているうちに壁際まで追い込まれていたことに気が付く。岩さえも粉砕しかねない凶刃が胸元目掛けて迫って来るが、アルベルトは、咄嗟にしゃがむことで何とか躱した。だが……

 その一撃は、要塞の壁に深く突き刺さると、粉々に砕いてしまったのだ!

 「う、うそだろ?」

 甲冑の中身が同じ人間とは思えない程の凄まじい怪力である。アルベルトは、ゾッとするが同時に反撃するための好機でもあった。すかさず杖に魔力を溜め始める。

 「これでも食らいな!」

 杖の先端から炎の魔法が放たれる。流石の騎士でも、この間合いでは避けようがないと思われたが……信じられないことが起きたのだ。なんと、爆炎が騎士の鎧に触れた途端、フッと掻き消えてしまったのだ。まるで、湖面に向かって炎を放ったような反応である。

 「魔法が効かない? な、なるほどね、こういうことだったのか」

 アルベルトは、メルセデスの言葉を思い出す。彼女の言った通り、まるで幽霊を相手にしているかのようだ。

 しかし、感心している場合ではなかった。黒き騎士が再びアルベルトの方に赤い瞳を向けた時、彼は、本能的に恐怖してしまった。

 「や、やるのか? よーし、かかって来なよ」

 怯えている自分を否定するように、アルベルトは、杖を構えるが……そんな彼の前に魔装したカタリナが飛び出す。

 「そなたは下がっておれ。ここは私に任せろ」

 そう言ってカタリナは、勇ましい掛け声と共に、黒き騎士に向かって斬り掛かる。魔法が通じないのであれば、剣ならどうだ? アルベルトは、勝負の行方を見守る。

 黒き騎士が迎撃しようと剣を突き出してくるが、カタリナは、体を捻って華麗に躱しつつ間合いを詰め、続けて体を回転させながら剣を振るう。聖剣の刃が黒き騎士に触れた時、辺りに金属が擦れる音が響き渡るが、同時に思いがけない反応が起きたのだ。

 「うあぁっ……!?」

 「姫さん!?」

 なんと、攻撃を仕掛けた側であるカタリナの方が押し返されたのだ。しかも彼女は、その場で膝を着く。アルベルトは、慌てて彼女の元に駆け寄るが……

 「大丈夫だ。これしきのことで……」

 カタリナは、心配を掛けまいとそう言うが、苦痛で僅かに歪んだ表情を浮かべながら、剣を手放すまいと右手の甲を押さえていた。

 斬ったのは姫さんの方だよね? あの騎士は、何もしていない。なのに何故、姫さんの方が負けたんだ? あの鎧には、受けた衝撃をそのまま返す力でも備わっているのか?

 「魔法も剣も一切効かないなんて、あんなの反則だろ……?」

 この世の法則から外れた得体の知れない化け物を目の当たりにして、アルベルトは、思わずそんな弱音を口にする。しかし、黒き騎士は、無慈悲にも近づいて来るのだ。一方、カタリナは、未だに立てずにいる。彼女を置いて逃げるわけにはいかないが、今の自分に迫りくる騎士を返り討ちにする術は、ない。

 黒き騎士が大剣を振り上げ、赤く光る不気味な目がカタリナを捉えた!

 僕が姫さんを守らないと! カタリナの身に危険が迫った時、アルベルトの中でそんな強い感情が沸き上がる。黒き騎士に魔法は通じない。それでも……

 「やるしかないじゃないかッ!」

 そう叫ぶアルベルトは、杖の先端にありったけの魔力を溜め始めるが……この時、杖がガタガタと震え出し、やがて……

 「うわっ!?」

 杖の先端で爆発が巻き起こり、アルベルトは、思わず尻餅をついてしまった。杖に溜まった魔力を上手く制御できず、暴発してしまったのだ。どうやら周囲に漂う黒マナまで取り込んでしまったらしく、溜めていたマナが暴走してしまったらしい。

 しかし、この時放たれた魔法が思わぬ結果を招く。それが黒き騎士に直撃した途端、騎士は大きく仰け反ったのだ。

 しかも、騎士の胴体には、風穴が開いている!

 暴走した魔法は、剣も魔法も通じないあの鎧を貫通するどころか、勢い余って穴を開けてしまったようだ。

 「え、えっと……やりすぎちゃった……かな?」

 アルベルトは、気まずそうにしていたが……

 「アル、そいつから離れろ!」

 カタリナがそう叫んだ次の瞬間、信じられないことが起きたのだ。なんと、黒き騎士は、再びアルベルトたちの方に向かって来たのだ。しかも、どういうわけか、体の風穴が徐々に塞がれていく!

 「再生している? ど、どうなってるんだ? あいつ、一体なんなんだよ!」

 「アル、ここは一旦、退いた方が良さそうだぞ」

 カタリナは、何とか立ち上がりながらそう提案する。少なくとも、敵の弱点が分からないまま戦うのは分が悪すぎる。そう考えたアルベルトは、その提案に同意する。

 「そ、そうだね。よくよく考えたら、わざわざ相手してやる必要もなかったんだ。こういう時は、逃げるのが得策だね」

 二人は、黒き騎士に背中を向けて、元来た道に戻ろうとした。しかし、そう易々と見逃してくれるほど相手は甘くなかったのだ。なんと、二人の逃げ道を塞ぐように黒き霧が発生したかと思うと、そこからもう一体の騎士が姿を現わしたのだ。

 一体ですら、どうにもならなかったというのに、奴には仲間がいたのだ!

 「なっ、マジかよ……」

 「アル、こっちだ!」

 カタリナは、動揺するアルベルトの手を引き、その場から急いで離れる。それから彼女は、何処かに向かって走り出すが、その後を黒き騎士たちが、三人、四人と数を増やしながら、ズンズンと追い掛けてくるのだ。

 「うわああ、増えてるじゃないか! あいつら、スライムかなんかじゃないのか!?」

 「振り返っている余裕などないぞ! とにかく、走れ!」

 「分かってるよ!」

 立ち止まればたちまち奴らに八つ裂きにされるだろう。死にたくなければ、足を動かすしかない。二人は、前だけを見て走った。もっとも、追手は、鎧を着こんでいる分、速く移動できないようだ。これなら全力で走れば逃げ切れそうだ。ところが、そんな彼らの行く手にはゲートが……そこには、侵入者を阻むための障壁が張られていたのだ。

 「行き止まりだって? 姫さん、他に道は?」

 「ここ以外に道はない」

 「つまり、破壊するしかないってことか」

 アルベルトは、杖の先端に炎を纏わせると、障壁に向かって炎槌を打ち付けるが……

 ガキンッ!

 金属音が辺りに鳴り響くと同時に弾かれてしまったのだ。しかも、障壁には傷一つ付いていない。そう容易く突破出来るようなものではないようだ。

 「ダメだ。何処かにスイッチは……」

 「ゲートは内側からしか解除できない仕組みだ」

 「じゃあ、どうすればいいんだよ?」

 何か方法はないのか? アルベルトがゲートの前で思案していると、金属が擦れる音が聞こえてくる。追手は、すぐそこまで迫っているのだ。

 「こうなったら立ち向かうしか……ああ、でも魔法が効かないんだったな。障壁は破れないし、他に道はないし、ああ、もう、鎧の音がガチャガチャ煩いなぁッ!」

 アルベルトは、焦り出すものの、一方のカタリナは、何故か冷静そのものであり、ゲートを前にして目を閉じていたのだ。

 「姫さん?」

 遂に諦めてしまったのだろうか? 心配したアルベルトは、声を掛けるものの……

 「私が何とかしよう」

 そう言ってカタリナは、目を見開く。その目は、真っ直ぐであり、何らかの覚悟を決めた様子にも見えたが……カタリナは、暁の聖剣を鞘から引き抜くと、柄をギュッと握り締める。すると、右手から黒い煙のようなものが噴き出したのである。

 あれは、黒マナ? でも何故、姫さんの右腕から?

 アルベルトが疑問を抱いていると、やがて聖剣の刃が赤い光を放つ。それは、禍々しくも美しいものであった。

 カタリナは、左手を前に出し、剣を握るその手を後ろに引いていく……

 「赤き月の刃よ……滅せよ」

 そして、静かにそう言い放つと、素早く剣を突き出す! すると、剣先から一閃の光が放たれたかと思うと、次の瞬間、障壁がガラスのように派手に割れたのだ。自分が傷一つすら付けられなかった壁をたったの一撃で破壊してしまうとは……アルベルトは、口を開けたまま呆然としていた。

 「さあ、道は開けた。ゆくぞ!」

 カタリナは、鞘に剣を収めると、先に行ってしまった。この時、ガシャン、ガシャンという鎧の音で我に返ったアルベルトは、慌てて彼女の後を追うが……

 「うっ……」

 カタリナの身に何があったのか、彼女は、急に膝を着いてしまったのだ。しかも、右手の甲が痛むのか、そこを押さえている。

 「おい、姫さん、大丈夫かい? その右手が痛むのなら、僕が治してあげるよ」

 黒き騎士に攻撃を弾かれた際、その時の反動で右手を痛めてしまったのだろうか? それとも、さっきの技は、体に負担の掛かるものだったのか? アルベルトは、心配そうにカタリナの元に駆けつけるが、彼女は、すぐに立ち上がり、こう言った。

 「……この先には、要塞の動力室がある。そこを抜ければ、要塞から外に出ることが出来るはずだ。アル、まだ走れるな?」

 「う、うん……」

 「よし、ではゆこうか」

 そう言ってカタリナは先に行ってしまったが……何か誤魔化したように見えたのは、気のせいだろうか? アルベルトは、そんな風に思いつつ、彼女の後を追う。


 二人は、要塞の動力室へと向かって走るが、そこに辿り着いた頃には、追手の姿は既に無かった。どうやら、上手く逃げ切ることが出来たようだ。一安心したアルベルトは、ホッと一息つくと、こんなことを言い出した。

 「何とか逃げ切ったけど……これまでで一番ヤバかったかもしれないな」

 さすがのアルベルトでも、この状況を楽しめる程の余裕はなかったようだ。

 「それで、ここが動力室、か……」

 息が整ってきた所で、アルベルトは、部屋の中を見渡してみる。そこは、要塞内でも特に広い空間であったが、部屋の中央には、何らかの有機体で出来た人工物が設置されていた。その中心部には、淡い光を放つマナの液体が貯蔵されているが……恐らく、あれがマナの心臓なのだろう。ここで生成されたマナが、要塞の各所へと送り込まれるわけだ。まるで、樹木で出来た機械のようではあるが、これが魔導機関というものなのだろう。

 興味を持ったアルベルトは、マナの心臓に近づいてみるが……この時、この魔導機関の近くに封印の神殿で見たものと似たような操作盤があることに気が付く。アルベルトが触れてみると、操作盤に文字が浮かび上がるが……

 「ふーん、これでマナの心臓を制御しているんだね。ふむふむ……こいつは、使えるかもしれないな……」

 などと独り言を口にしながら、あれこれと弄り始めた。

 「さて、追手はいつやって来るとも分からん。そろそろ、ここを出るとしようか」

 そう言ってカタリナは、先へと進もうとするが……

 「ねえ、ちょっと待ってくれよ」

 アルベルトは、まだ用があると言わんばかりにカタリナを呼び止める。

 「アル、話なら後で……」

 「いや、そうじゃなくてさ。あいつらに仕返ししてやりたい、なんて思ってさ」

 「仕返し? 何をする気だ?」

 すると、アルベルトは、こんなことを言い出したのだ。

 「ここを爆破するのは、どうかな?」

 しばらく間が開く。

 「な、何を言っておるのだ! そなた、正気か?」

 突拍子もない提案に対して、カタリナは、慌てふためく。しかし、アルベルトは、策の内容はともかくとして、決して思い付きで言ったわけではなかったのだ。

 「あの連中の危険性は、身をもって知っただろう? それに、多くの冒険者たちが、あいつらにやられたんだ。だったら、これ以上被害が出る前に、まとめて吹き飛ばしてしまった方がいいと思うんだ」

 そう説得するアルベルトの顔は、珍しく真剣なものであった。いつもは、己の名声のためにしか動かない彼であったが、多くの冒険者たちが被害に遭った今回の件については、彼なりに思う所があるのかもしれない。そんなアルベルトの思いを汲み取ったのか、カタリナは、一考し始めるが……

 「あまり良い考えだとは思わんが、確かに、放っておくわけにもいかんな……分かった。そなたの策に付き合おう」

 「ありがとう」

 そう言ってアルベルトは、表情を緩める。

 「しかし、爆破すると言っても、どうするつもりなのだ? この要塞は、火薬などで吹き飛ぶものではないぞ?」

 「分かってるよ。ここで生成されたマナは、要塞の至る所に流れているんだよね? マナの液体は、デリケートだからね。そこに、ちょっとした刺激を与えてやれば……」

 そう言ってアルベルトは、操作盤を弄り始めた。すると、マナの心臓に負担が掛かり始め、僅かに震え始めたのだ。

 「さあ、出口まで案内してくれよ。早くしないと、僕らも巻き添えを食らうからね」

 「う、うむ……」

 カタリナは、不安そうな表情を浮かべつつ、要塞の出口に向かって先導するが……

 二人がしばらく先に進んだところで、遠くの方で轟音が鳴り響く!

 とうとう、負荷に耐え切れなくなったマナの心臓が爆発したようだ。その影響は、周囲にも現れ始め、要塞内部のあちこちから火が噴き出し始める。

 「何だか嫌な予感がするのだが……」

 カタリナは、心配そうに辺りを見渡すが、アルベルトは……

 「困ったな。思った以上に崩壊が速いみたいだね」

 などと言い出したのだ。どうやら、想定外だったようだ。

 「あ、アル!? それは、どういう意味なのだ?」

 「とにかく……走れぇッ!」

 二人は、全力で走り出す!

 すると、背後で大きな爆発が起こり、頑丈な壁を派手に吹き飛ばし、大きく開けられた穴から炎が勢いよく噴き出したのだ。要塞内部では、あちこちで爆発が巻き起こり、業火の炎が広がっていく。そして、炎は、まるで飢えた魔物のように、二人を飲み込もうと襲い掛かって来たのだ。

 背後で何が起こったとしても、振り返っている余裕などない。二人は、ただ只管に走り続けるが……この時、彼らの目の前に一筋の光が差したのだ。

 出口だ!

 しかし、彼らのすぐ近くで大きな爆発が巻き起こる!

 「とべえぇッ!」

 アルベルトが叫ぶ。爆風が背後から迫ってくるが、二人は、要塞から飛び出すように大きく跳躍したのだ。しかし、爆風にあおられてしまい、思いっきり吹っ飛ばされてしまう。しかも飛び出したのは、地上から数十メートル以上も離れた高所……目下には、海や湖といった都合の良いものがあるはずもなく、待っているのは、人の足によって踏み固められた地面だ。

 「うぁわぁあああぁぁぁッッッ!!!」

 二人の悲鳴が渓谷内に響き渡る。そして……そのまま地面に激突した。


 陽の光が照り付ける、灼熱の荒野のど真ん中、そこに二つの影があった……そのうち一つが僅かに動き出す。

 「う、ううう……」

 アルベルトだ! なんと、彼は、あの状況から生還したのである。どうやら、魔装が生身の体への衝撃を肩代わりしてくれたらしく、おかげで助かったようだ。

 「ぼ、僕は、生きている……のか?」

 アルベルトは、仰向けのまま、生きているのがにわかには信じがたいと言わんばかりに手を眺めていたが……この時、ハッとする。姫さんは、無事だろうか? 彼は、転がってうつ伏せの姿勢になると、隣で倒れているカタリナの元に這い寄る。

 「お、おい、姫さん、無事かい?」

 アルベルトが呼びかけてみると……カタリナは、うーん、と唸りながらその身を起こす。どうやら彼女も無事だったようだ。

 「ああ、なんて眩しいんだ……ここは、天国なのかの?……なあ、アル、私は、死んでしまったのか?」

 「残念ながら、生きているよ……ははは」

 そう言ってアルベルトは、口元を緩める。

 「そうか……私たちは、死に損なったわけだ、フフフ」

 つられてカタリナも笑う。二人は、無事に生き延びられたことを喜んでいるようだ。

 もっとも、命拾いした代償として、魔装が解けてしまったようである。消費したマナは、自然と回復していくものだが、魔装が再び使用できるようになるまでは、半日以上は掛かる。身を守る術を失くした今の状態では、これ以上の探索は、危険すぎる。アルベルトは、そう判断した。

 「今日の探索は、ここまでのようだね。一旦、戻ろうか」

 「うむ」

 アルベルトは、ダンジョンから脱出するべく、帰還用の携帯ポータルを取り出すが……この時、それを邪魔するかのように、辺りに怪しげな霧が発生し始めたのだ。

 またしても黒マナだ!

 しかも、要塞内よりも更に濃度の高い黒マナであり、まるで石を背負わされているような重圧を感じる程だ。

 「黒き霧だと? どうやら、『彼ら』は、私たちを逃がしては、くれないようだな」

 カタリナは、周囲を見渡しながらそう口にする。彼ら、とは一体、誰のことを指して言っているのか? 気になるものの、それよりも今は、ここから脱出するべきだ。何かまた悪い事が起こる前に。アルベルトは、携帯ポータルを使ったが……

 「え? これは……」

 何故か、ポータルを作り出すことが出来なかったのだ。まさか、故障してしまったのだろうか? いや、そうではなかった。ポータルを生成するためには、マナが必要である。つまり、この高濃度の黒マナがポータルの生成を妨害しているのだ。これでは、ダンジョンから脱出することが出来ない!

 「くそっ、霧が掛かっていない所まで引き返すしかないな……」

 二人は、要塞の方へと戻ろうとするが……

 「アル!」

 カタリナが叫ぶ。

 「あそこに誰かいるようだぞ」

 彼女が指差した方向には、黒き霧が漂っているが、その中に、何者かの影が薄っすらと浮かび上がる。その者は、こっちに向かって歩いて来るが、やがて、その正体を見せたのだ。

 「アイツは?」

 アルベルトは、目を凝らしながら、その者の正体を見極めようとした。

 それは、人の姿をしていながらも、見る者に畏怖の念を与える者……すなわち、二本の角を持つ雄山羊の頭蓋を被り、常闇のように黒いローブを纏った者……死神とも呼ぶべきその恐ろしい者の姿であった。

 あれが何者であるのかは分からない。人ですらないのかもしれない。しかし、一つだけハッキリしていることがあるとすれば、それは……

 これまで戦ってきたどんな魔物よりも恐ろしいということだ。

 その証拠に、これだけ離れているにもかかわらず、邪悪な魔力がヒシヒシと伝わってくるのだ。

 「ようやく真打の登場ってわけかい。は、ははは……面白くなってきたね」

 などと言うが、内心、あまり余裕はない。

 「今の僕たちで勝てる相手じゃない。姫さん、悔しいけど逃げよう」

 ここは、素直に退くしかない。アルベルトは、そう考えたものの、何故かカタリナは、逃げようとせず、ただ、あの死神をじーっと見つめていたのだ。

 あいつのことが気になってるみたいだけど……今は、それどころじゃない。

 「姫さん!」

 アルベルトが叫ぶような声で呼びかけると、ようやく我に返る。

 「うん? どうかしたか?」

 「どうかしたかじゃないよ。早く逃げよう! この距離ならアイツも追いつけないさ」

 「そ、そうだな」

 二人は、その場から離れ始めるが、それでもカタリナは、死神のことが気になるらしく、時折、振り返ったりしていたのだ。

 あの死神がヤバい奴であることは、間違いない。それでも、あいつとの距離は、随分と離れている。これなら十分に逃げ切れる。アルベルトは、そう考えていたが……

 「あ、アル! まずいぞ!」

 カタリナが異変に気が付く。死神は、腰に取り付けてあった角笛を手に持つと、それを吹き始めたのだ。ボオォという重低音が渓谷内で響き渡るが、この時、騎士の背後にあった黒き霧がうごめき始める。すると……黒き霧から何かが飛び出したのだ!

 馬に乗った騎士たちだ!

 騎馬兵は、霧の中から次々と飛び出し、二人を目掛けて突進してきたのだ。馬の蹄が大地を蹴る音は、騎馬兵の数が増えるにつれて、やがて大きな地揺れとなる。

 騎馬兵の数は、多い、で言い済ませられるレベルではない。迫り来るのは、他国を攻め落とせる程の大軍だ! 死神は、たった二人を始末するために、これ程の軍勢を差し向けてきたのだ!

 二人は、圧倒的な軍勢を前にして釘付けにされてしまったが、このままでは、蟻のように意図も容易く踏み潰されてしまうことをアルベルトは悟る。

 「うわああぁ!? と、とにかく、走るんだっ!」

 二人は、要塞の方へと向かって死ぬ気で走り出す!

 相手は、時速四十キロをも超える猛スピードで押し寄せてくるが、一方、生身の人間であるアルベルトたちが全力で走ったところで逃げ切れるはずもない。もはや、助かる見込みは何処にもない。それでも、生き残りたければ、走り続けるしかないのだ。

 「アル、このままでは、追いつかれてしまうぞ!」

 「分かってるよ! 黙っててくれ!」

 騎馬兵は、すぐそこまで迫って来ていた! ところが……

 ブオオオン!

 猛牛の唸り声のようなエンジン音が聞こえてきたかと思うと、半壊した要塞の中から何かが飛び出したのである。それは、アルベルトたちの頭上を飛び越えていくと、彼らと騎馬兵との間に華麗に着地した。それは、『スピーダー』と呼ばれるバイク型のビークルだったが、搭乗者は、バイザーで目元を覆っていたため、その正体は、伺えない。

 「間に合ったようね。ここは、私に任せて」

 何処かで聞き覚えのある女の声だった。

 謎の助っ人は、スピーダーに跨ったまま弓矢を取り出し、迫りくる大軍に狙いを定め、矢を引き絞る。矢尻には、何かの機械が取り付けられていたが……

 「これは、さっきのお返しよ」

 放たれた矢は、騎馬隊の目の前に落ちる。そして、次の瞬間、そこから強い閃光が放たれたのだ。光に驚いた馬たちが大きく仰け反ったため、騎士たちは、次々と落馬していく。

 しかし、さすがに一本の矢では、軍隊の侵攻を止めることなど出来なかった。後ろを走っていた騎士たちは、落馬した騎士たちを踏み潰してでもこっちに向かって来たのだ。もっとも、足止めとしては、それで十分だった。

 女は、弓を背中にしまい、スピーダーをUターンさせると、アルベルトたちの傍に寄って来るが……

 「早速、さっきの借りを返す時が来たようね」

 そう言って目元を覆っていたバイザーを上げる。猫のような目つきにエメラルドグリーンの瞳……女の正体を知った時、アルベルトは、こう叫んだ。

 「アーチボルトさん!? どうしてあんたがここに?」

 助けに来てくれたのは、なんと、メルセデスだったのだ。どうやら怪我が治ったらしく、さっきのお礼と言わんばかりに、二人の元に駆けつけてくれたのだ。

 「さあ、二人とも、乗ってちょうだい」

 メルセデスは、そう言って後部座席に乗るように促してくる。一方、騎馬兵たちは、すぐそこまで迫っている。ここは、彼女の助けを借りるしかない。

 「それじゃあお言葉に甘えて。恩に着るよ」

 アルベルトは、カタリナと一緒にスピーダーに乗り込む。

 「しっかり掴まって!」

 メルセデスは、スロットルを全開にし、スピーダーを発進させる。それは、大量の蒸気を吐きながらグングンと加速していき、あっという間に百キロ以上の速度を叩き出す。後部座席に座る二人は、振り落とされないよう、必死にしがみ付かなくてはならなかったが、おかげで追手の騎馬隊をかなり引き離すことが出来たのだ。

 「おお、馬でも追いつけぬとは、凄い乗り物だな」

 カタリナは、感心していたが、一方、アルベルトは、不安そうな表情を浮かべる。

 「確かに凄いけど……でもこの先って……」

 何とか騎馬隊を振り切った三人であったが、そんな彼らの前に次の問題が立ち塞がる。それは、渓谷の道を固く閉ざしている巨大な鋼鉄の門である。どうやら、要塞内で爆発が巻き起こった時でさえビクともしなかったようだ。

 しかし、一方で背後からは、騎馬隊が迫って来ている。今、ここでスピーダーのスピードを緩めてしまえば、たちまち奴らに追いつかれてしまうだろう。

 どうしたらいいんだ? アルベルトが次の手を考えている時、メルセデスがこんなことを言い出したのだ。

 「このまま突っ切るわよ」

 アルベルトは、耳を疑う。今、なんて言った?

 このまま時速百キロを超える速度で鋼鉄の門に衝突すれば、スピーダー諸共スクラップにされるだけだ。しかも、要塞から脱出する際と違って、今は、魔装状態ではない。奇跡でも起こらない限り、生身の体が耐えられるはずがないのだ。

 「ちょ、ちょっと待ってくれよ! このまま突っ切るって、冗談だよね!?」

 それに対するメルセデスの答えは、こうだった。

 「何? よく聞こえないわ!」

 一瞬、間が開く。

 「はあああぁぁぁッッッ!!!???」

 アルベルトとカタリナは、二人揃って声を上げる。

 目の前に、鋼鉄の門が迫ってくる。後部座席に乗る二人は、止めてくれと言わんばかりに絶叫する。門との距離は、百メールにも満たない。もうダメだ。そう思った二人は、思わず目を閉じるが……

 この時、前方に小さな穴が開いていたのだが、それは、スピーダーが接近するにつれて徐々に拡大していく。ダンジョンから脱出するためのポータルだ。どうやら、このスピーダーは、最高速度に達した時、異空間への入り口を強引にこじ開ける力を持っていたようだ。

 スピーダーは、そのまま大きく開かれたポータルの中へと突入していき、三人は、ダンジョンから脱出したのであった。


 一方、アルベルトたちを逃してしまった死神は、独り、こんなことを呟く。

 「逃がしたか……しかし、あれは紛れもなく、聖剣に選ばれし者。ようやく見つけたぞ。今回は、それで良しとせねばな……」

 そう言って踵を返すと、霧の中へと消えていった。


 「うわあああっ!」

 ダンジョンから脱出したアルベルトは、何もない空間に開かれたポータルから放り出される形で元の世界に到着する。その際に全身を強打してしまい、痛みを堪えつつその身を起こそうとするが……

 「きゃあっ!」

 後からやって来たカタリナとぶつかり、そのまま尻に敷かれてしまう。アルベルトは、思わず短い悲鳴を上げてしまい……

 「お、重い……」

 などと言ってしまったのだ。

 「す、すまぬ……おいしいものを食べ過ぎて、少し、太ったのかもしれんな」

 カタリナは、顔を真っ赤にしながら慌てて立ち上がる。

 「で、ここは……」

 アルベルトは、ゆっくりとその身を起こしながら辺りを見渡してみる。アルベルトたちを取り囲む鉄製の建物、ビークルのエンジン音や歩道を鳴らす靴の音……そこは、メイズシティの都会のど真ん中だったのだ。

 「僕たち生きている、よね? へ、へへへ……」

 アルベルトは、思わず笑みをこぼす。緊張の連続だったので、気が緩んでしまったのかもしれない。

 「あの状況で三人とも助かったのは、奇跡よね」

 メルセデスの声がしたので振り向いてみると、彼女は、スピーダーを背に腕組をして立っていた。ちなみに、今は、いつものビジネススーツ姿であった。

 「でも、これ以上、探索を続けるとなると、さすがに厳しいかもね……」

 メルセデスは、深刻な表情を浮かべながらそんな弱音を吐く。無理もない。第四階層へ向かうためには、死神が率いる、あの軍隊をどうにかしなくては、ならなかったからだ。

 「確かに。あいつらをどうにかする気なら、戦争するくらいの準備は必要だろうな……」

 アルベルトは、騎馬兵のことを思い出しながらそう口にするが……

 そう言えば、姫さんは、あの兵士たちのことで何か言ってなかったっけ? 確か、我が国の兵だとか何とか言ってたな。それに、彼らは、霧の軍勢に取り込まれた、なんてことも言ってたけど。

 霧の軍勢……確か、この前、ギルドの記章について話している時にも口にしてたけど、それが何を意味するのか、今こそ聞き出すべきだろう。アルベルトは、そう考える。

 「ねえ、姫さん……」

 アルベルトは、カタリナの方を向いてこう尋ねる。

 「一つ気になっていたことがあってさ。あんたがよく口にしている、霧の軍勢とやらについて、そろそろ話してくれてもいいよね?」

 「それは……」

 カタリナは、俯き気味になって目を逸らす。話すことを躊躇っているようだが、アルベルトは、構うことなくこう続ける。

 「多分、あの黒き騎士たちのことを指して言ってるんだと思うけど、連中について何か知っているんだったら、教えてよ」

 「あら、それ、私も知りたいわ」

 その話には、興味があると言わんばかりにメルセデスもカタリナの方を向く。カタリナは、観念したように一つ溜め息をつくと、こう言った。

 「そなたたちには、関係の無い話だと思っていたが、巻き込まれてしまった以上、最早、そうも言っていられないか……」

 カタリナは、自分を納得させるように頷くと、こう続ける。

 「分かった。私の知っている限りのことを話そう」

 そう言って霧の軍勢にまつわる話を始めた。


 黒き霧と共に現れる不死の軍隊、すなわち、霧の軍勢と呼ばれる者たちは、目的や出自も不明な勢力であり、そもそも、闇に囚われた彼らは、既に人ですらない。

 彼らは、前触れもなく国家を襲撃しては、兵だけでなく、民をも皆殺しにした挙句、その国を地図の中から消し去ってしまうのだ。

 そして、滅ぼされた国は、黒き霧で覆われ、そこから新たな軍勢が生まれるのだ。そうやって彼らは、その勢力を徐々に拡大していくが、いずれは、この世界そのものを喰らう災厄となるであろう。


 カタリナが話し終えた時、その場には、しばらくの間、沈黙の時が流れるが、まずは、メルセデスが口を開く。

 「まずい事態になったわね」

 それからこう続けた。

 「だって、あいつらは、いずれダンジョンから這い出て来て、私たちの住むこの町、いえ、この世界を滅ぼしにやって来るかもしれないってことでしょ?」

 メルセデスがそんな懸念を口にすると、カタリナは、「そういうことになるな」と頷く。

 国家を滅ぼし続ける、まさに災害の如き存在が亡国の遺跡群にいる。しかも、彼らは、既に第一階層にも姿を現している。これは、冒険者であるアルベルトやメルセデスだけでなく、メイズシティに住む一般人にとっても決して他人事ではない話であった。そう、奴らはすぐそこまで来ている。つまり……

 間もなくして、霧の軍勢がこの街にやって来るのだ!

 さすがのアルベルトもこの事態に対して、深刻な表情を浮かべつつこう口にする。

 「奴らには、剣も魔法も通用しない。あんな連中がこの街にやって来たら、それこそお仕舞だよ。何もかもが……」

 続けてカタリナがこんな話をする。

 「それに、今回の件ではっきりしたが、奴らは、何処にでも現れるだけでなく、殺めた者たちを自らの支配下に置くことが出来るようだ。そうやって、我が国の兵たちも霧の軍勢へと加えられていき、あの要塞も陥落したのだろうな……」

 そう言われた時、アルベルトは、ハッとする。あの要塞で出会った騎士たちは、魔物などではなく、元は、ドーンバルドの兵士なのではないか? そのことに気が付いたのだ。

 「姫さん、その……僕は、あの要塞を爆破してしまったわけだけど、もしかして、あそこで出会ったあの騎士たちは……」

 あの要塞での出来事を振り返って、アルベルトが気まずそうにしていると、カタリナは、察してくれたらしく、こう言ってくれた。

 「そなたが気にすることではない。あの者たちの脅威を考えれば、ああするしかなかったのだから。それに、どの道あの様子では、既に手遅れだろう。それよりも、彼らの魂が黒き霧より解き放たれ、安らかであることを願おう」

 「……そうだね。ありがとう」

 仕方がなかったとは言え、アルベルトは、自らの行いを反省しつつ、そのことを咎めないでくれたカタリナに感謝する。しかし、それでもカタリナの表情は、何処か浮かない様子であった。

 あの要塞は、突如として現れた霧の軍勢の襲撃を受け、そこを守っていた兵士たちは、皆殺しにされた挙句、軍勢に取り込まれてしまったのだろう。仲間同士で争いが起こったり、亡骸が一切残っていなかったりしたのは、そういう理由だったのだ。

 だとしたら、カタリナの心中は、かつての仲間を失ったことへの悲しさ、そして、仲間を奪った霧の軍勢に対する怒りでいっぱいなのかもしれない。ならば、せめて彼らが黒き霧から解き放たれ、安らかであるように……アルベルトもそう願った。

 「ねえ、ちょっといいかしら?」

 メルセデスが質問をする。

 「霧の軍勢は、遥か昔から存在していて、今までずっと勢力を拡大し続けていたってことなのかしら?」

 その疑問に対して、カタリナは、こう答える。

 「いや、そうではない。完全に滅ぼすまでは至っていないものの、我々人類は、幾度か彼らを退けていると聞く。『太陽の聖印』を持つ者の手によってな」

 太陽の聖印を持つ者……アルベルトには、その者に覚えがあった。そう、かつてメイズシティを救った英雄、アイザック・ヴァンガードである。彼は、かつて魔物たちを退け、ダンジョンを封印してみせたのだが、いつの時代にも、彼のような英雄が存在し、霧の軍勢を退けていたのだ。

 「希望は、まだあるわけだ」

 アルベルトは、そう考えたものの、一方、メルセデスは、違ったようだ。

 「あまり楽観視は、出来ないんじゃなくて? だって、まずは、その太陽の聖印を持つ者を探さなくちゃならないわけじゃない。そう簡単に見つかるかしら?」

 ごもっともな指摘だ。そもそも、現代においてそのような人物が都合よく存在するとも限らないわけだが……この時、アルベルトは、カタリナの右手の甲にあったあざを思い出す。彼女のソレは、まさに太陽の聖印に酷似していたわけだが、黄金色ではなく、ドス黒い色をしている上、不吉な予言まで付き纏うものだ。このことは、カタリナから詳細を聞き出すまでは、話すべきではないだろう。本人が隠しているのなら、尚更だ。そう考えたアルベルトは、それ以上、何も言わなかった。

 「打つ手なし、ね……」

 メルセデスが結論を出すと、その場には、再び沈黙が流れるが……結局、解決策が出ることはなかった。

 「それじゃあ私は、そろそろ本社に戻らせて貰うわ。今回の件は、上層部にも話してみるつもりよ。何か良い案を出してくれると、いいんだけどね」

 そう言ってメルセデスは、スピーダーに跨り、行ってしまった。

 ここに居てもしょうがないな。ジェームズが何か新しい情報を手に入れているかもしれないし、一旦、セーブポイントに戻ろう。そう考えたアルベルトは、カタリナに声を掛ける。

 「そろそろ僕たちも戻ろうか。お腹も空いたしね」

 返事がない。カタリナは、張り詰めた表情を浮かべていたが……

 「姫さん?」

 もう一度声を掛けると、ようやく我に返ったようだ。

 「ん? ああ、すまない。少し、疲れたみたいだ……」

 彼女は、一つ深呼吸をすると、アルベルトの方を見てこう言った。

 「それにしても、今日は、いつも以上に疲れたな。マナを使い果たした後は、シャーロット殿の料理が恋しくなるものだ」

 「うん……」

 アルベルトが気のない返事をすると……いきなりカタリナが顔を近づけてきたのだ。

 「うわ! なんだよ?」

 「そなた、まだダンジョンのことを考えておるのではなかろうな?」

 「え? いや、そういうわけじゃあ……」

 「考え事は、後回しだ。今やるべきことは、おいしいものでも食べて、英気を養うことではないのか?」

 そう言われてアルベルトは、戸惑ってしまうが……しばらくしてから、こう答えた。

 「そ、そうだね。気持ちを切り替えないとね」

 「うむ、それでよい。それでは、我々も帰るとするか」

 そう言ってカタリナは、にっこりと笑ってみせると、セーブポイントに向けて歩き出す。アルベルトは、そんな彼女の後姿を見ていたが、いつもは、ピンと張っている背筋も、少し曲がっているように見えたのだ。

 「姫さん……」

 何でもないように装ってるけど、本当に辛いのは、あんたの方だろう? アルベルトは、カタリナの小さな背中を見ながら、そんなことを思った。

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