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中島みゆき

作者: 小林桜美

英才教育で育ったわけではないが、音楽大学を卒業し、演奏する事を仕事として給料をもらい、家族を養っている。

僕が小さい頃、父親は高山厳という演歌歌手が好きで、母親は流行っている曲を聴いたりしていた。特別に優れた音楽教育はなかった。

中学時代に市立図書館にある全てのCDを聴いてみようと思いつき、片っ端から借りて何百枚も聴いた。いやもう一桁多かったかもしれない。

高校生になって、音楽大学を受験すると決めてからは、とにかくクラシック一筋。たくさんのCDを買い込み、大学に入ると、今度は学内の図書館に籠り、同じ作品でも違う演奏者や録音された時代によって、個性がある事を知った。

大学を卒業した後の就職先はジャズの団体であった。ラテンもやるし、ポップスもやる。

専門家になったにもかかわらず、知識が全くないというのは不快だった。

そこで、給料が入ると毎月1万円は新しい音楽を聴くためにCDを購入して、聴いていく事にした。それは自分の小さなプライドだった。

ジャズ、ロック、ラテン、ファンク、タンゴ、ボサノバ、サンバ、マンボ、アイリッシュ、アフリカなどの民族音楽、東欧のコーラス、フュージョン。ゴスペルやトルコ辺りの民族音楽、インド音楽も聴いた。

しばらくすると、自分の部屋がCD屋かと思うほどになってしまった。さすがに心地よかった。

さて、そんな音楽遍歴のある僕は、ちょっとズレた物が好きだ。ズレたと言ってもテンポが遅れているとか、早すぎるとか、音程が合っていなくて音痴だ、とかいう話ではなく、常識からほんのすこしはみ出た演奏という方が感覚的には近いかもしれない。

例えば、イントロの始まり方であったり、間奏のアドリブソロであったり、転調のパターンであったり。そういうはみ出した音楽に出会うと『おっ!』となる。大抵は口に出して言ってしまう。

そしてある時、中島みゆきの音楽に出会った。

33歳の僕にとっては、中島みゆきといえばテレビドラマ『家なき子』の主題歌であった『空と君との間には』や、Dr.コトー診療所の主題歌だった『銀の龍の背に乗って』しか馴染みがなかったし、中学時代に図書館で借りたCDの中にも聴いていた事はほぼ間違いないが、あまり印象に残っていない。

テレビの歌番組にも出てこなかったし、両親の影響でフォークギターが家庭にあるわけでもなかったので、中島みゆきは、ほぼ馴染みのないミュージシャンだった。

僕が感銘を受けたきっかけは、よく出入りしていたライブハウスの飛び入り演奏で若いミュージシャンがこぞって弾き語りをする『ファイト』という曲。そして、動画サイトで中学生達が卒業式に合唱している『誕生』という曲。さらに、友人の結婚式に参列した時、花嫁がピアノを弾きながら歌っていた『糸』という曲。

つまり、中島みゆき本人の歌ではなく、別な人(そのほとんどがプロではなくアマチュアの演奏)が歌っているものに感銘を受けたのである。

そして、なぜここまで引き込まれるのだろうと思うと、歌詞が良いのだ。古くさい言葉ではなく、かといって身近にある言葉で構成されている。

中島みゆきは、70年代・80年代・90年代・2000年代と随分長い事世間に支持されている。

その時々で、流行り廃れていった歌詞になり得る言葉なんていうのもたくさんあったはずで、もちろんそれを使ってきた他のミュージシャン達を否定しているわけではないが、ストレートに心に響いていく歌詞は、やはりどんな時代でも使われ得る馴染みやすい言葉なのだ。

正直、20年近く分析的に音楽を聴いてきた自分に対して、頭も耳も疲れていた。

そんな時、中島みゆきの音楽に出会い、『歌詞を聴く』という楽しみを知った。

おそらく僕以外の大多数の人は、音楽=歌詞という方が多いように思うが、これまでの僕にはそういう音楽との付き合い方は無縁の世界だった。

一度ハマると片っ端から聴いていってしまう癖は治らない。

CDショップ、図書館、レンタルショップ、古本屋などを回り中島みゆきの新旧の歌を集めに集め、聴き続けた。

中島みゆきは、特に声量の迫力があるでもなく、特別なほど音域が広いわけでもない。

だが、曲やその時々の曲調で声色こわいろが絶妙に変化している。それがたまらなくいい。最近の歌手に多い一辺倒な歌い方でも、大御所的な歌手の押し付けがましいような歌い回しでもない。声色を変えて歌っているだけである。『ミルク32』の冒頭の声は、背筋がぶるぶると震えてしまうほど色っぽい。

そして、曲に関してもコード進行は比較的シンプルであり、たまにオシャレなコードを選んでいる時が出てくる。そのバランスも素晴らしく心地よく『おっ!』となるのである。

一時は、もう今後自主的に聴く音楽は中島みゆきのものだけでもいいなと思うほど、中島みゆきばかり聴いていた。

70年代は、実験的に色々と試みている曲もあり、それはそれで好きだ。例えば『世情』『悪女』の始まり方などがそれに当たる。

また、同じ曲の中で同じ歌詞を繰り返す(サビとして同じ事をしているわけではなく)『ホームにて』。

また、中島みゆき自身が歳を重ねて、音楽も声質も落ち着いてきた90年代以降も、それもまた素晴らしい。力強い中島みゆきを聴くことが出来る『アンテナの街』、何度聴いても新しく聴くことが出来る『空と君との間には』。

最近、僕は、趣味で始めたギターが少しずつ上手くコントロール出来るようになった。もちろんそうなると中島みゆきを歌いたい。目指すは、少しはみ出した中島みゆき。モノマネではなく、自分なりの解釈や声色で中島みゆきを歌いたいと思う今日この頃である。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 初めまして。 私は全然中島みゆきさんの世代ではありませんが、よく聞きます。なぜ聞くのか、聞きたいかとなるとやはり「歌詞が良い」からです。日本語が綺麗で、そのセンスや使い方が尋常じゃないなぁ…
2018/02/18 20:44 退会済み
管理
[一言] 愛のあるいいエッセイだなぁ、と思いました。 >そんな時、中島みゆきの音楽に出会い、『歌詞を聴く』という楽しみを知った。 ⇒すごく分かる。 >おそらく僕以外の大多数の人は、音楽=歌詞とい…
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