本に頼るのは、ほどほどに
あの後、喫茶店を出た俺たちは、麗奈の
「まずは本屋ね!」の一言で、近くの本屋へと向かっていた。本屋に行く理由がわからない俺はそれとなく質問してみた。
「なぁなんで本屋に行くんだ?半田さんに会いに行くんだろ?」
「別に会いになんか行かないわよ。」
「会いに行かないって…今から半田さんに会って俺が麗奈の彼氏です!って宣言するんじゃないの?」
「違うわよ!」
違うって、じゃあ、どうすんだよ。会わずに俺が麗奈の彼氏だと半田さんに伝える方法…わからん。
「じゃあ、どうやって俺がお前の彼氏だって認めさせるんだよ?」
「いい?半田さんは、こう言ったの。『僕は、実際会わずにその彼氏とやらが本物かどうか確かめてやる』ってね。」
「え?それってどういうこと?」
あんた、まだわからないの?本物のバカ?といった表情で麗奈が俺を睨んでくる。
「だから、私たちがデートして、まるで付き合ってるように振る舞うのよ!」
「いや、2人で、デートしたって誰も見てないんじゃ意味…あ、まさか…」
半田さんが俺たちを監視する?本当に付き合ってるかどうか。いや、まさかな。あの半田自動車の跡取り息子が、そんなストーカーじみたことするはずが…
「やっとわかったようね!このデートは常に半田さんに監視されていると思いなさい。1つのミスも許されないのよ!わかった?」
「あ、ああ!とりあえずわかったけど、わからないこともある。何で本屋なんだ?」
多少回り道してしまったが俺は、これが聞きたかったんだ、なぜ本屋なのかということを。
「…あ、あんた…初めて……ないの?」
麗奈は、急に歩くのをやめるとうつむき、何か小さい声で呟いている。
「いや、何言ってるかわかんないだけど」
「……んた……めてじゃないの?」
またか。そんなに言いにくいことだったら、もういいや。何を言おうとしてたのかは気になるけど、無理に言わせようとしたら、ろくなことがない。
「もういい、言いにくいなら言わなくても。」
ったく麗奈が美人ってだけでも男達からの嫉妬の視線を感じるのに万が一、ここで麗奈と何かあったら間違いなく俺が悪者にされ、男どもの視線が嫉妬から殺意に変わるのは確実だ。
俺が麗奈の前を歩きだそうとしたとき急に後ろから、強い力で腕を掴まれた。振り返ると腕を掴んでいたのは、予想通り麗奈だった。その表情には、いつもの凛々しさはなく、少し、怯えるような、そんなふうに俺には見えた。
「あんた、デートとか初めてじゃないの?」
はあ?なに言ってんの?と言いそうになったがやめておいた。麗奈が深刻そうな表情をしていたからだ。俺は、おもいっきり言ってやりたかった。
小学校2年の時にこの街に引っ越してきてから約10年、今の今まで!
いや今、現在も俺はお前に振り回され続けている。結論。今までそんな暇は無かった。そういうことになる。
「いや、デートというか、俺、お前以外の女の子と2人で、出かけたことないし…」
「そ、そう。なら丁度いいわ。ほら、私もデートなんて初めてだから、本屋に行ってデートのしかたについての本なんか、買おうと思って…文句ないわよね?」
「はい…」
いつのまにか、いつもの調子を取り戻していた麗奈に睨まれ、俺は有無も言わさず同意させられていた。
本屋に着いた俺たちは、他のコーナーには目もくれず、恋愛関係の本が、置いてありそうなコーナーへと向かった。
「うーん、こんなにあるなんて…どの本にしたらいいのか迷うわね?」
「あ、ああ」
俺たちは、それらしい本が置いてあるコーナーには来たが、種類がありすぎて買う本を決められないでいた。そんなとき、俺は見てはいけない物を見てしまった。
『もしも好きでもない人に告白されて断りにくくて幼馴染みとか(男友達)に一時的に彼氏になってもらい、見せつけて断ろうと思ったけど、デートのしかたが、わかんない!そんなあなたの為の本♪』
危ない!俺はとっさにこの本を取り、背中の後ろに素早く隠した。
ふぅー…まさしく俺たちの為のにあるような本だった。
大体、あんな今、この状況にぴったり!なんて本が、あるか?いや、ない!おそらく、この本が置いてある本屋は日本、いや世界を探してもここだけだろう。
「ちょっと、まじめに探しなさいよ」
「あ、ああ」
この動揺を悟られるな、見つかったら終わりだ。俺の勘だが麗奈は、この本を見たら、これしかないわ!とか言って迷わず買いそうな気がする。少し人とは、ずれてるところがあるもんな!本人には、口が裂けても言えないけど…
「ねぇ、海斗?あんた後ろに何か隠してない?」
するどいぃぃ!!お前は、シャーロック・ホームズか?そっちが、その気なら俺は、意地でも隠し通してみせる。じっちゃんの名にかけて!
「いや、何にも隠してな…」
睨んでいる。またか、今まで何度も、この無言の圧力に負けてきたか…だが、今日の俺は、違う!じっちゃんの名にかけて!
「…………」
俺も、麗奈を睨むという反撃にでた。
「な?反抗?上等じゃない。」
反抗?って俺はペットか、負けんぞ、今回は勝ってみせる!
10秒後………
「…渡しなさい!」
「…………」
まだだ。まだ、耐えれる!
さらに10秒後…
「……よこせ!」
まだ渡さない!じっちゃんの名にかけ…るのはもうやめよう。もう限界だよ!ごめん、じっちゃん…
「はい…」
俺は、あの怪し過ぎる本を麗奈に差し出した。
「…………」
あれ?気に入らない?やった!さすがにちょっとずれているとは言え、あの本は…
「いいじゃない!この本に決まりね。まさに私たちの為のある本みたいじゃない」
だから嫌なんだよ!…無駄か…もう、あきらめよう!気に入った本を見つけ、機嫌よくレジに向かう麗奈の後ろ姿を見ながら大きなため息をついた。
「早く来なさい!この本、買うんだから!」
「今、行くよ!」
俺は、レジで会計を済ましている麗奈を見て確信した。あの本は、かならず、トラブルを呼ぶ!そうだ!今回は自信をもって言える。
じっちゃんの名にかけて!!
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