ナンパは、ほどほどに
俺は今、自分が65点と酷評した虹色噴水の前のベンチに座っている。
なぜか?そんなことは簡単だ。麗奈の理不尽な命令により、俺は、ここで待機するしかない。
めんどくさいから家に帰るなどという選択肢は俺の中には存在しない。なぜなら…そう、あれは中1の頃だった。
麗奈と出かけ、そして今のように理不尽な理由で1人残されていた俺は偶然、親友の隆とばったり会った。
「海斗じゃん!何してんの?買い物?」
「あ、ああ」
麗奈と一緒に来たことは、黙っておこう!その方がいい気がする。
「なら、一緒に買い物しようぜ!」
まずい。麗奈を置いて隆と合流したら、さすがに麗奈が怒るだろう。いや、あいつだって同じことをしてるんだ!後ろめたさを感じることはない。
「ああ、そうしよう」
俺は隆と買い物をすることにした。そしてその夜、我が家の食卓にて悲劇は起こった。
「母さん!俺の晩飯は?俺のハンバーグは?」
1人先に席へと着き、ハンバーグを食べている舞を指して叫んだ!
「今日は、あんたの分は無いわ!」
母さん!そりゃあないだろ!実の息子に。
「何で舞があって俺には、無いんだよ?」
「自分の胸に手を当てて今日の事を考えてみたら?」
背後から、いつもより低い声で舞に言われた。今日?………麗奈と買い物行って途中で…ばっくれたんだった!
「母さん、麗奈、何て言ってた?」
「自分で電話して聞いたら?」
「ああ、そうするよ!」
この後、急いで麗奈に電話したが、その会話の内容は、よく覚えていない。
なぜなら、4時間ぶっ続けで説教を受けた俺は次の日から、1週間インフルエンザで倒れたからだ。
今、思い出すだけでも恐ろしい。
俺は、この事件を『あんたに食わせるハンバーグは無いわ!』事件と呼んでいる。
昔の事を思い出しているとふと素朴な疑問が浮かんだ。ジュース買うためだったら少しくらい、この場所を離れてもいいよな?
でも、買いに行ってる間に麗奈が来たら…迷う。くそ!このままでは、らちがあかない。
ならば、コインの表か裏で決めるしかない!表ならジュースを買いに行く。裏なら、ここで待機と決め、俺はコインを投げた。
あ!表だ。わかった!俺は神の意思に従うんだ!という妙な納得感を得て自販機を探して走りだした。
自販機でジュースを買った俺は、まさか、たかだか10分程度では麗奈は来ていないだろうと思いながら虹色噴水に向かった。
やっぱりまだいないよな?辺りをを見ながら虹色噴水の周りを確認する。
「ヘイ!姉ちゃん!俺らと遊ばない」
いつの時代のナンパだよ?背後から聞こえてきた声につい反応しそうになっちまった。
「やめてよ!気持ち悪いんだけど!」
あれ?聞き覚えのある声だぞ!まさか…
俺は恐る恐る振り返った。麗奈だぁぁぁぁ!ナンパされてるの。本当は、行きたくないけど、元はと言えば俺がジュース買いに行ってすれ違ったのが原因だし。
「てめぇ、調子に乗りやがって!」
「だから連れが、いるって言ってるでしょ?」
「どこにいるんだよ?嘘つきやがって!」
このタイミングだ!俺は麗奈にナンパしている、2人組の男の前に飛び出した。
「わりぃ、こいつの連れ、俺なんだ」
「海斗!あんた一体どこ行ってたのよ?」
「わりぃ!あとで話すから、今は黙っててくれないかな?」
「…わ、わかったわよ」
「おい!俺たちを忘れてんじゃねぇよ!その女に馬鹿にされて頭にきてんだよ」
「ああ!俺もだぜ。」
こいつら、馬鹿そうだなぁ…よし、
「ねぇ、君たち?」
俺は、そう言い、2人の馬鹿そうな男たちの肩に手をかけ、麗奈から少し遠ざけてあいつの耳に俺の声が届かない位置まで移動した!
「なんだ!てめぇ!ケンカ売ってんのか?」
さっそく俺は、先ほどひらめいた作戦を実行へと移した。
「そんなつもりないよ。ただ彼女をナンパするにあたっての注意事項を教えようと思ってね」
「あ?注意事項だぁ?」
よし!乗ってきたな。
「彼女ね、あんなに言葉遣い悪いけど、凄い金持ちのお嬢様なんだ。」
「何だよ!好都合じゃねえかぁ!金持ちなんてよ」
「違うんだ!話は、ここからなんだ。あの人たちを見て!」
何の用で来てるか分からない黒人でスーツを着たSP?的な人をおれは指さした。
「何だよ?あいつらが何なんだよ?」
「彼女が、ここから、居なくなったらあの黒人さんたちは、きっと一緒に居なくなるだろうなぁ。この意味分かる?」
「な、なんだ?あ、あいつらが、あの女の護衛って言うのかよ!証拠は、あるのか?」
よし!だいぶ、動揺してるな!あと一息だ。
「はぁ―。なら勝手にしてくれ!だけど、その前に名前だけは教えといてくれ!遺族に連絡するから。」
俺は最高に哀れんだ目で2人を見てやった。すると男2人は、お互い顔を合わせ、何かを確認したようだった。
「何か、悪かったな!迷惑かけちまって。」
「いや、いいんだ!わかってくれれば」
「ありがとよ!おかげで家族が遺族にならなくてすんだ」
「じゃあ!俺たちは、もう行くぜ。」
「ああ、じゃあな」
男2人組が、去っていく背中を見ていると、つんつん!と背中をつつかれた。
「何て言って追い払ったの?」
俺は、正直に答えた。
「嘘に嘘を重ねたんだ」
まあ、やつらを追い払えた1番の理由は、やつらの頭の悪さだったがな完全に!
「ふーん、まあいいわ!それより何で、いなかったの?あれほど言ったのに」
ピンチ!ここでもまた得意の嘘に嘘を…重ねるのは、やめよう。
「ほんの出来心でジュース買いに行ってました!」
「そう…許せないけど許してあげる。」
いつもなら、問答無用で説教!または制裁!のはずなのにこの妥協した態度。幼馴染みとして長年一緒にいる俺の勘によれば、おそらく…
「許してあげたんだから1つ私の言うこと聞きなさい!」
やはりそうきたか、こいつが無条件で俺を許すなんてあり得ねぇもんな!多分、めちゃくちゃな事を言ってくるだろう。覚悟しないと!
「…………」
言えよ!何か言えって!何顔真っ赤にしてうつむいてるんだお前は?
「…………」
「なんだよ?はっきり言えよ!」
「…じゃあ…言うわよ!今日1日、今日1日…私の恋人になりなさい!」
「なんだ、それくらいなら任せと……えぇぇぇぇ??」
そんな…冗談だよな?あれ?でも今まで見たことないくらい麗奈の顔が真っ赤だ!ってことは…
マジかぁぁぁぁ!!!!
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