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鵺の娘  作者: 水無月
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第二十二夜



「―――阿倍 皇です。

 よろしく」


翌日、灯の達のクラスに松田が言った通り、転校生がやってきた。

そして他のクラスにも。


阿部皇と名乗った男子は、一言でいうと冷たそう、という印象を持たせた。

真っ黒な髪はさらりとしていて、櫛を通すのが楽そうだ。

そしてシルバーフレームの眼鏡の奥の一重の目は細く、若干睨んでいるかの様にすら見える。

ニキビ一つない顔は、一体どんな洗顔を使用しているのだろうか。


「はーい、じゃ、質問タイムなー」


松田の言葉を皮切りに、すぐさまクラスのほとんどが勢いよく挙手する。


「はいはーい!!

 安陪はどっからきたの!?」


「奈良からだよ」


「はい!!

 彼女いるの!?」


「いないね」


「趣味は!?」


「どうしてここに!?」


「彼氏になって!!!!」


ヒートアップするクラスに、松田は引きながらも止めた。


「おーーーいいい!!

 そんな一気に質問したら答えられないだろ!!

 それに最後のやつは質問じゃねぇ!」


「えええ、まっちゃああん、

 一番大事な事だよー」


「お黙り!!

 すまんな、安陪。

 このクラスいっつもこんな感じなんだ」


「楽しそうでよかったです。

 これからよろしく」


笑みを浮かべながら言う皇に、クラスメイト達は思った。

見た目冷たそうだけどいいやつじゃん、と。






「灯ー、今日鬼平はどしたのー?」


HRの時間を終え、皇に沢山の人が群がる中、理々子は灯に問うた。

恭一が学校を休むなんて初めての事だったのだ。


「わかんない。

 なんか当分来れないって言ってた」


「理由は聞いてないの?」


「うん」


昨夜、恭一は灯たちの家に訪れていた。

そして当分の間、学校には行けない旨を話していったのだ。

しかし、その理由をちょっとした野暮用とだけ言って灯には教えてくれなかった。

父なら聞いているかもしれないが。


「それにしても、凄い人気ね。安陪君」


陽子は頬杖をつきながら人だかりを見やる。

嫌な顔一つしない安陪に少しだけ尊敬の意を込めて。


「そう言えば陽子、他のクラスの転校生は?」


「あぁ、女子ね。

 名前は大山おおやま 山茶花さざんか

 覚えやすい名前よね」


「可愛い名前だねー。

 お花の名前ってすごい」


三人で話していると、どうやら一元目の時間になっていたらしく、教師が教卓の前に立っていた。

皆が慌ただしく席に戻って準備をする中、皇は灯を鋭い目で見ていた。






*****





『久々じゃのう、灯』


「おじさま!!」


灯がまっすぐ家に帰ると、居間にはぬらりひょんが一人座っていた。


「あれ?お父さんは?」


『鵺のやつであれば、今頃わしの代わりに会合に出ておる。

 最近色々あったじゃろう、故に一度顔を出しに行かせたわい」


そうしてどこからともなく酒を出したぬらりひょんは一人で飲み始める。


「もう、おじさまってばー、

 飲んでばっかりじゃ体に悪いんだよ?」


灯はそう言いながら台所へと足を向けた。

なにか簡単につまみを作った方が良いだろうと判断しての事だ。


『お、何か作ってくれるのか?

 灯は良い嫁になりそうじゃのう、どうじゃ、わしの』


『黙れぬらりひょん』


嫁に、と言おうとしたぬらりひょんの頭に、天の拳が入った。


『なにをするんじゃ!?

 わしは総代表じゃぞ!?』


『黙れ耄碌ジジィ。

 灯を嫁にしようなんぞ私が許さんぞ』


「―――天にぃ!?

 久しぶりだね!!

 あ!

 藍錆ーー!

 ご主人様がきてるよーー!!」


騒々しさに灯が顔を見せると、そこにはいつからいたのか、天が立っていた。

久しぶりに見る天に、灯のテンションも上がる。


「・・・カァ」


灯の声にすぐさま飛んできた藍錆は、何故か不満そうな声を上げている。


「?藍錆?

 どうしたの、天にぃだよ?」


『・・・灯、そいつの主人は灯だ。

 私ではない』


「そうなの?」


不思議そうな表所をする灯に、天とぬらりひょんは何とも言えない表情をする。

正直、妖力を分け与えた動物がそのような行動をとること自体、非常に珍しいのだ。

なぜ藍錆がそこまで灯に懐いているのか、いまだに理由はわからない。


『それよりも灯、

 何か変な気配がくっついている』


「?変な気配?」


天はそう言って灯の肩に手を伸ばした瞬間、


―――バチィィッ


『!!』


「えっ!?嘘、なにこれ!?」


天の手に、一瞬電気が迸るようにして光った。

その様子を見ていたぬらりひょんが、真面目な表情で灯に近づく。


『―――これは』


「なに!?

 これ何なの!?」


怖がる灯に、天とぬらりひょんはなんでもないという顔を作る。


『大丈夫じゃ、物凄い静電気じゃったのだろう』


「嘘!?

 静電気!?」


『あぁ、大丈夫。

 私は何ともないから、安心しろ』


納得していない灯を宥めるようにしながら、天とぬらりひょんはひとつ頷いた。

灯から漂ってきた、変な気配。

あれは。










「―――あれが、鵺の娘か」


皇は、鵺の住む山を睨み付けながらそう零した。



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