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鵺の娘  作者: 水無月
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第二十夜




「藍錆ーー、行くよー」


「カァ」


結果的に、灯は藍錆を可愛がった。

いつも自分の後をついて回り、まるで犬や猫の様に自分に甘えてくる藍錆に愛着を覚えたのだ。

そのことを面白く思わないものはいた。


『・・・藍錆、あまり調子に乗るなよ』


『鳥・・・、何かあったら喰ろうてやるからな』


言わずもがな、天と鵺だ。


「お父さん!天にぃ!

 藍錆に酷いこと言わないで!

 こんなに可愛いのに・・・」


灯は自分の腕に止まる藍錆の小さな頭を撫でた。

今にもグルグル言いそうな藍錆に、灯は可愛いと言わんばかりに笑みを浮かべる。

そして藍錆は羨ましかろうと言わんばかりに天と鵺を見た。

二人の額にぴきりと青筋が浮く。


「それじゃ、行ってきます!」


『気を付けるのだぞ』


『いってらっしゃい』


灯はそのまま藍錆を肩に乗せると、制服のスカートをはためかせながら学校へと向かった。


『・・・本当に、何とかならぬのか』


『無理だ。

 私の妖力をどうやったのか、自分のものにしている』


そして二人はため息をついた。





****




「おはよ、理々子、陽子!」


「おはよー、灯」


「おはよう」


学校に来る途中で、藍錆とは別れている。

といっても、窓の外にはいつもいるのだが。


「あ、そういえば、あのひと、なんだっけ」


理々子がうんうん唸りながら何かを教えようとしている。


「山城さん?」


「そう!

 山城さん!

 なんか、あの後学校来なくなっちゃって、転校したらしいよ?」


「え、そうなの?」


あの日、灯が襲われそうになった次の日から、山城美紀は学校へと来なくなった。

風の噂によると、常に何かを怖がっているらしく部屋から出ていないらしい。

恭一も何も知らないと言っていたことから、きっとあの影みたいのにトラウマを受け付けられたのだろうと三人は話していた。


「そっかー、でもここじゃないほうがいいかもね」


「そうだよね、トラウマとかあるかもしれないし」


灯と理々子が話す隣で、陽子は恭一が何かしらしたのだろうと考えている。

彼は、灯にご執心だから、彼女を傷つけようとした存在に何もしないわけがないとも。


「あ、やだ!

 どーしよーー!!

 今日の数学の宿題やってくるの忘れたーー!!

 今日絶対当たるのに・・・!」


理々子が今日の時間割をみて悲鳴を上げる。


「え!?

 うわ、私もやってない・・・!!

 どうしよう!!

 数学の川村先生超怖いのに・・・!!」


そう言って、二人は陽子の顔を見る。


「・・・はぁ、

 仕方ないわね。

 ジュース一本でいいわよ」


「「やったーーー!!」」


陽子は、喜ぶ二人を見ながらまぁいいか、と考える。

恭一は、妖怪だから自分たちの普通は通じない。

でも、きっと灯が悲しむことはしないだろう。


陽子自身、淡白な人間であり、自分のみの周りの人が笑顔でいられるのであればいいと考えるタイプの人間だ。

大切な人に害が及ばないのであれば、他人なんて正直どうでもいい。

逆に、理々子は人の不幸でさえ自分の事のように感じる。

迷っている人や困っている人がいると直ぐに手を差し伸べるタイプの人間だ。


だからこそ、二人は一緒に居るのだろう。

自分にはないものを、相手が持っていることが酷くまぶしく見えるのだ。


灯はそんな二人の間をいくタイプだ。

助けを求められたら助けるが、それ以外は基本放置。

詮索もしないし、させない。

今考えれば、彼女の環境を知れば当然のことだと思うが。


三者三様。

とにかく、一緒に居て楽しい、一緒に居たいと思う事が大切なのだなと陽子は自分の考えをまとめた。


「うわあああん!!

 どうしよう、終わらないよーー!!」


「ちょっと待って、理々子、貴女どれだけやってないの!?」


「よっし、あと少し!!」






****







『―――また、しっぱいしたのか』


ぬろり、とその声は響いた。

声を掛けられた小さな影は、ッヒ、と小さく悲鳴を上げる。


―――お待ちください、次こそは・・・!


『---つぎ?』


―――ギャアッ


ぼ、と炎が何もないところから生まれた。

それは小さな影をぺろりと飲み込む。

そして残ったのは、黒い煤だけだった。


『―――つぎなど、あるはずがないだろう』


ずずず、と何かが引きずられる音がし、月明かりにその声の主は照らされた。

のっぺりとした青白い顔が、物憂げに月を見上げた。


―――蛇神


それはそう周りから呼ばれていた。

胸から下は、白い鱗がきらきらと月明かりに反射している。


『―――だれか、いないものか』


ぼんやりと呟くと、それに応える声がどこからともなく響いた。


『わっちが、いこぅかねぃ』


『―――おまえが、か』


柱の陰から現れたのは、酷く妖艶な女の姿だった。


『わっちに任せんさぃ、

 ちゃああんと、取ってきますからぁ』


妙に間延びした声は甘ったるく聞こえるが、蛇神は何とも思わないらしく、反応を示さない。

それが、どれだけ女の矜持を傷つけているか、彼は一生知る事はない。


蛇神はそうか、と一言だけ残すと、そのままずるずると尾を引きながら屋敷の暗がりへと消えて行った。


『・・・本当に、わっちのことなんか、見やしない・・・』


女はそれだけ悔しそうに言うと、自身も暗がりへとその身を寄せた。


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