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鵺の娘  作者: 水無月
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第十九夜





『・・・灯よ、その鳥はいつまでおるのだ』


「藍錆のこと?

 天にぃが呼べば来るって言ってたから、基本的に一緒にいないと思ってたんだけど・・・」


灯は戸惑いながらそう零す。

それもそのはず。

天自身、自分の送った烏がそのような行動に出ているなど夢にも思っていない。


藍錆と名付けられた烏は、ずっと灯の側にいた。

本当に、ずっとだ。


話した(?)感じからクールな感じなのかと思いきや、藍錆は常に灯の側に居たがった。

洗濯物を干すのを手伝い、料理中はおとなしくその傍で見守る。

お風呂ではなぜか一緒に湯船につかり、眠る時ですら近くで丸くなっているのだ。


鵺は、絶対にこいつは鳥ではないと思った。

この世界のどこに、学校ですら付いていく鳥がいる?

灯の周りをうろちょろうろちょろして・・・。


「そういえば、恭一君たちにも不思議がられたなぁ」


一度学校の休憩時間に一緒にいる所を見られたのだ。

ご飯を手ずからあげていると、何故か恭一が面白そうにやってきたのだ。



———「・・・ん?

   かすかだが、天の妖気が感じられる。

   でも、天とは全く違う妖気の持ち主だな・・・、

   うん、面白いね」


一人でうんうん頷き、勝手に納得して行ってしまった。

灯は状況を説明して欲しかったのに。



「まぁ、害はないし可愛いからいいんじゃないの?」


『むぅ・・・』


鵺からすれば、天と言う存在自体が害のようなものだ。

確かに、妖怪の中でもかなりの上位種だが、天は灯を娶りたいと節々で言っている。

父である鵺からすれば、貴様にはやらんと言ったところだろうか。


本音を言えば、灯にはずっと自分の傍にいて欲しいと考えている。

鵺にとっては可愛い可愛い愛娘だ。

そんじょそこらの何者にもやりたくない。

もし、自分から灯を奪うのであれば屍を超えていけと本気で考えている。


ぬらりひょんは、確実にダメだ。

あれはふらふらしているし、お光との関係もある。

酒呑童子もダメだ。

あれは酒を飲み過ぎる。

天もダメだ。

烏天狗の頭の妻になんてなったら、灯がどれだけの苦労をするか。


結局、鵺は誰のもとにも灯をやりたくないのだ。


「———お父さん?」


考え込んでいると、灯が声を掛けてくる。

どうやら何度か声をかけていたらしい。


「どうしたの、お父さん?

 何か悩み事?」


『む、いや、少しぼうっとしていたようだ。

 あとで、川にでもいくか』


「!

 わぁい!」


鵺の山には大きくはないが綺麗な川が流れている。

そこには河童や水辺に棲む小妖怪がいるのだ。

彼らは灯にとても好意的で、行くと一緒に遊んでくれる。


喜ぶ灯を見て、鵺もその相貌を笑みに崩した。





****




ばさり、と聞きなれた羽音が鵺の耳に届いた。

灯は既に夢の中だ。

久々に小妖怪と遊んで、疲れ切ったのだろう。


『―――来たか』


鵺は、視線だけを窓の外に向ける。

そこには。


『―――来たぞ、鵺』


天は大きな翼を一度はためかせながら鵺を見据えた。




『―――アレは、何だ』


鵺は酒を飲みながら言葉少なに天に問いかけた。


『・・・あれとは?』


『貴様の寄越した鳥だ』


『あぁ、灯にもしものことがあった際に守れるように送ったのだが・・・、

 何かあったのか?』


天の言葉に、鵺はあの鳥のしている行動を天が知らない事を知った。

全くもって、忌々しい。


『貴様の寄越した鳥は、四六時中灯の傍にいる。

 そのようにしたのか?』


『なんだと・・・?

 私はそのように命令はしていない。

 灯が呼んだ時に直ぐに行けるよう傍に待機していろとは言ったが』


『ふん、

 貴様のあの鳥は、起きても寝ても、風呂ですら灯と共におるぞ』


『何!?』


天のその驚きように、鵺は少しだけ留飲を下げた。

しかし驚くという事は、あの鳥は自発的にあのような行動をしている事になる。


『私はそのようにしろなどと、言った覚えはないのだがな。

 そもそも、私が来ている事に気付いているにも関わらず、顔を見せにすら来ないとは・・・』


ぎり、と歯ぎしりする間にも、あの鳥は灯の傍で眠っているのだろう。


『そもそも、アレは何だ。

 吾にも怯えぬ鳥など、見たことが無い』


『・・・あれは、普通の烏に私の妖力を込めたものだ。

 しかし、そこまで懐くとは・・・』


種明かしをすれば、烏と灯には一度だけ接点があった。

腹を空かし、ふらふらとしていた烏に灯が餌をやったことがあったのだ。

当の本人ですら忘れている事だが。


それに対して恩義を感じていた烏は、灯の状況と立ち位置を知る。

そして自ら天のもとに赴き、自身に妖力を込めるようにして貰ったのだ。


『・・・まぁ、灯は懐いているアレを可愛がっておる。

 今のところは害も無い故、赦すがな・・・』


『・・・全く、なんでそこまで懐いたか』


知らぬ二人は、ため息をつく。

きっと烏は灯を一目で気に入ったのだろうと考えて。



当の藍錆は、灯を守る術を手に入れ、満足しながら夢の中を飛んでいた。


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