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鵺の娘  作者: 水無月
17/24

第十六夜




『じゃあ、自己紹介から始めようか。

 俺は酒呑童子。

 鵺とは旧知の中でね』


われは鵺。

 基本的に人型にはならぬ。

 ・・・灯の、父だ』


『わしはぬらりひょん。

 妖怪の総大将なんぞと呼ばれておるがな。

 今は灯の婿候補じゃ』


『『潰すぞ、ぬらりひょん』』



「はいはーい!

 あたしは東理々子です!

 灯の親友です!」


「私は牧村陽子です。

 理々子の保護者です」


「なんで!?」


わいわいと居間で騒ぐ皆の姿に、灯は嬉しくて仕方が無かった。

本当は、ずっとこうしたかった。

ずっと、ずっと。


「私、なにか作ってくるね。

 簡単なものだけど・・・」


『おお!

 そうじゃ!

 前に置いて行った酒あるじゃろう!

 折角じゃから飲もう!』


『お、いいね!

 ぬらりひょんが持ってきた酒であれば間違いはない!』


『おい、未成年がいるのだから自重せんか』


「わー!

 灯の料理!」


「灯、何か手伝う?」


「ううん!大丈夫!

 折角だし話してていいよ!」


灯はそう言うと、そのまま台所へと足を進めた。






****




「で、聞きたいことがあるのだけど」


陽子は、灯の姿が見えなくなってからそう切り出した。


『・・・なんだ』


「灯は、どうして貴方の娘に?」


それは、ずっと気になっていた事だった。

灯の手前、ああ言ったが、妖怪なんていまや夢物語だ。

そんな存在を親に持っていたら、妖怪と言う存在は今でも信じられていただろう。


『・・・』


なかなか話そうとしない鵺に、既に飲み始めたぬらりひょんが話をした。


『・・・灯はのぅ、捨てられておったんじゃよ。

 この山に』


「「!!」」


『そうだったのか?』


恭一も初めて知る事実に驚く。

いや、ある程度は予想していた。


『今でも、覚えている。

 あの子が、吾の山にいた日の事を。

 あの子は、人間の身勝手な理由で吾がいると曰くのあるこの山に置き去りにされた。

 それを拾って育てたのが吾を含む妖怪たちだ』


『懐かしいのぅ。

 あんなに小さかったと言うのに・・・、

 もうあのように大きくなってしもうた』


しんみりとしながら飲むぬらりひょんと鵺に、理々子と陽子も言葉を失いそうになる。

それでも。


「でも、灯はずっと鵺パパの事、自慢してたよ」


『・・・吾を?』


「そうです。

 灯は、ずっと、お父さんは強くて大きくて優しいって。

 誰に何を言われても嬉しそうに話していましたよ」


『・・・確かにな。

 灯は、何をするでもお前の事を一番に気にしてるよ』


その言葉に、鵺は黙ったまま桝に入った酒を飲みほした。


「それで、灯は大丈夫なんですか?」


『何かじゃ?』


陽子の問いに、ぬらりひょんははてと考える。


「―――前にも、似たようなことがありました。

 一緒にアイスを食べた日、灯は今日みたいに顔を強張らせて走って逃げていたんです。

 ・・・灯は、大丈夫なんですか?」


陽子の言葉に、ぬらりひょんは内心でほうと感心する。

灯と同い年と聞いているが、なかなかに観察眼が鋭い。


『大丈夫、と言いたいところじゃがな』


「!なにかあるの!?」


身を乗り出さんばかりの理々子を、陽子が止める。


『―――灯は、妖怪界では鵺の娘、と呼ばれておる。

 長年一緒におるからのぅ、灯には鵺の妖気が染みついておるのじゃ。

 ・・・お嬢さんたち、妖怪はの、良いやつばかりではない。

 人間と同じで。

 妖怪の世界に、人間がいる事を好まん奴らもいるのじゃ』


ぬらりひょんはそう一気にいうと、盃を仰ぐ。

ふぅ、と一息入れ、そして続ける。


『灯の存在は、今や妖怪界の中じゃ有名になりすぎたのじゃ。

 そして、それを排除しようとする輩も出てきておる』


「!!それじゃ、灯は危ないんじゃ!!」


『じゃから、わしらも迷うておるのじゃ。

 灯も、もう大人になってしまう。

 ヒトの世界か、妖怪の世界か。

 それを選ばんとわしらも何もできん』


「・・・それは、つまり・・・」


理々子がぬらりひょんの言いたい事を理解してしまったのか、少し顔色が悪くなっている。


『・・・ヒトの世界を選んだとき、灯は鵺との記憶をなくす』


「そんな!!!!」


理々子の悲鳴がでる。

そんなことが、あっていいのか。

あんなに、あんなにも、お父さん大好きと言っているのに。


『もし、灯が妖怪の世界を選んだとしたら、人の世界から灯の情報は消えるだろうな』


恭一が酒を手酌しながら続ける。


「・・・それは、会えなくなるっていう事?」


『そうじゃない。

 が、君たちの記憶から夜鳥灯と言う存在はかなり薄れる事になる』


「やだ!!」


理々子が泣きそうな声で叫ぶ。


「そんな、そんなのないよ!

 灯は、どっちを選んでも何かを捨てなきゃならないって事じゃん!」


悲痛な言葉は、正論だった。

捨てられた灯は、今度は捨てなければならない。


『まだ、時間はある。

 わしらには一瞬でも、人間にとってはそこそこに長い時間じゃ。

 お嬢さんたち、くれぐれも、灯には言うてはならんぞ。

 これは、父親である鵺の仕事じゃからの』


ぬらりひょんはそう締めくくった。


その隣で鵺は、一言も発しないまま酒を飲み続けた。




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