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鵺の娘  作者: 水無月
16/24

第十五夜




「―――で、説明してもらえるかしら、

 鬼平くん?」


陽子は毅然とした態度で恭一に向き直った。

そんな陽子に、理々子も頷く。


「さすがにこれで撮影は信じられないよねー」


『・・・もちろんだ』


恭一は姿を変えないまま言った。


「・・・どうして、ふたりとも、そんなふつうなの・・・?」


灯は呆然としたまま二人に聞いた。

それくらい、信じられない事だった。


かつて。

一度だけ、灯は自分の父が妖怪である事を話したことがある。

結果は、悲惨なものとなった。

話された相手は、ぬらりひょんの知人によって灯の記憶事失くし、灯は自分の父を否定されたことから泣き明かした。

だから、灯はどんなに仲良くなっても言えなかったのだ。


「んー。

 だって、灯を守ってくれたじゃん。

 それに灯にも何かしらあるとは思ってたからね、驚きはあるけどそんなに、かな!」


からりという理々子に、陽子も同意した。


「そうね。

 どちらかと言えば助けてくれた方だし。

 なにより灯と仲のいい鬼平くんだもの」


灯は、その言葉に泣きそうになりながら歯を食いしばった。

それほど、嬉しい言葉だった。


『・・・問題ないようであれば、鵺の家に行くよ』


恭一はそう言うと、ピィと口笛を一つ吹いた。

そして数秒待つと、窓の外に何かが羽ばたく音が聞こえた。


「・・・からすうううう!?」


叫んだ理々子は悪くない。

悪いのは、規格外なサイズの烏だろう。


『山から連れて来ていたんだ。

 さぁ、さっさと行こう』


そう言って三人を烏の背に載せ、自身は足に捕まり。

予想もしなかったお空の散歩を体験した三人であった。





****




『―――灯!

 何ともないのか!?』


灯が家に着くなり、ぬらりひょんが慌てた様子でやってきた。

そんな彼の様子は珍しく、灯はしどろもどろになりながらも恭一が助けてくれたことを話す。


『ようやった、酒呑!

 わしも気づいたんじゃがすぐに大きくなってのぅ。

 慌てて行こうと思ったら主の妖気を感じたからこっちで待って居ったんじゃが・・・』


『ぬらりひょん、話しは後でするよ。

 とりあえず、灯と灯の友人を休ませたい』


恭一の言葉に、ぬらりひょんはそうじゃな、と言って直ぐに引き戸を開いて三人を居間に連れて行った。




「・・・」

「・・・」

「・・・」


居間には、灯と理々子と、陽子の三人だけが残された。

茶を淹れてくると言ってぬらりひょんが姿を消し、それを慌てて恭一が追ってしまったのだ。


「・・・ごめん、

 私、ずっと二人に言ってないことがあるの・・・」


灯の言葉に、二人は何も返さない。

灯は決死の思いで、ずっと隠していたことを二人に言った。


「・・・、私のお父さん!!

 妖怪なの!!!!」


目をぎゅう、と瞑りながら叫ぶように言う。

しかし、それでも二人から反応が返ってこない。

灯は、恐る恐る目を開いて二人の様子をそろりと見た。


「あ、やっと見た」


「もう、馬鹿ね」


二人は、ただただ苦笑を浮かべていた。


「正直ね、

 妖怪がお父さんって聞いて気になるのは本当のお父さんかどうかなんだけど、あたし」


「それも気になるけど。

 どんな妖怪なの、灯のお父さんって」


二人が発する言葉に、灯は呆然としながら問うた。


「・・・こわく、ないの・・・?」



幼きあの日、言った事で怖がられた記憶が蘇ってくる。

こわい、きもちわるいと、言われたあの日が。


「んんー、でも、灯のパパでしょ?

 灯いつも言ってるじゃん。

 パパのこと」


「そうそう、それ聞いてたら、そこまでって感じよ」


確かに、灯は父の事を良く話していた。

優しくて、大きくて、強い、自慢の父。

それを、二人は信じてくれたとでもいうのか。


「で、何の妖怪さんなの、灯パパ」


興味津々に聞く理々子の問いに答えたのは。


『―――鵺だ』


「お父さん!?」


廊下に繋がっているふすまから現れたのは、鵺本人だった。

しかも、人型にはならずいつもの姿のままで。


「―――ぬえ?」


「理々子、知らないの?

 それにしても大きいのは確かね」


二人は感心しているかのように頷きながら鵺と灯を見る。


――――びじょとやじゅうってかんじ


一瞬そんな言葉が脳裏に浮かんだのは仕方ないことだろう。


「初めまして!

 灯ちゃんのクラスメイトの東理々子です!」


「同じく、牧村陽子です。

 いつもお世話になっています」


『っ、は、はじめ、まして・・・、

 灯の、ちち、の、鵺、で、す』


酷く片言になっているが、それでも灯は嬉しかった。

ずっと、ずっと紹介したかった。

父を、友人を。

互いに紹介したかった。


「鵺パパのことは灯からよく聞いてます!」


『鵺パパ!?』


ぎゃいぎゃい騒いでいると、ようやく恭一とぬらりひょんがお茶を持って戻ってきた。

灯は、二人が気を利かせてくれたのかと思ったのだが。


『だからなんでそこでドクダミを入れようとした!?』


『じゃからぁ、

 身体にイイモノと思ってと言っておろうが!!』


『ほかにもヤモリの炙りなんか入れようとして・・・!』


『なんじゃ、欲しかったのか?

 ほれ、やるぞ』


『いらぬわたわけ!!』




――――違うかも知れないと灯は考え直した。



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