表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鵺の娘  作者: 水無月
11/24

第十夜




「――――え?」


灯は、一瞬何を言われたのか理解できなかった。

それほどまでに、学校では言われることのない内容だったから。


「・・・、え、と・・・、

 鬼平、くん・・・?

 いま、なんて・・・?」


念の為、もう一度聞き直すことにする。

もしこれで聞き違いであれば、それはそれでいい。

しかし。


「鵺の娘って、夜鳥さんでしょう?

 鵺もすごいね。

 ものすごく解り易くて逆に驚いた」


灯は、一瞬にして警戒を強める。

何が目的か分からない以上、彼に近づくのは危険だと本能が叫ぶ。

そんな灯に、鬼平は何も変わらないまま接した。


「夜鳥さん・・・、灯って呼んでもいい?」


「嫌です」


即答する灯に、鬼平は楽し気に笑った。


「まぁ、これじゃあフェアじゃないよね。

 うん、俺の正体ね。

 酒呑童子(しゅてんどうじ)っていう鬼の一種なんだ」


灯は、あまりにもメジャーなその名前に、より一層危機感を覚えた。

いくらなんでも、それはおかしいと思う。


鵺は、灯に沢山の妖怪たちの話をしてくれた。

蛟、鬼、土蜘蛛、天狐。


そして鬼や妖狐に関しては特に詳しく教えてくれた。

鬼は名が通っているものが非常に多く、そして長寿だと。


三大妖怪と呼ばれる大嶽丸、酒呑童子、金毛九尾がいると。

悪の限りを尽くしたと言われているが、そうでもなかったと父はぼやいていた。

それが妖怪側からなのか、総じてなのかはわからないけれど。


しかし、いくら見た目が変えられると言っても、目の前の彼は若すぎるし、なにより現代に馴染み過ぎている。

もし、万が一に彼が酒呑童子だとして。

自分にそれをばらすメリットがない。


確かに、灯は鵺の娘と呼ばれている。

しかし、あくまでも人間なのだ。

妖力なんてものはないし、長生きでもない。

ただ、幼いころから鵺の妖力に充てられていたので妖怪を見ることが出来るくらいだ。


「あ、なんか難しいこと考えている顔だね」


「!」


「あはは、

 そんな怖い顔しないで。

 俺は別に君たちに危害を加えようだなんて考えてないから」


「・・・そもそも、鵺の娘ってなんのことでしょうか!」


今さらだが、一応とぼけてみる。


「うん、今さらだよね」


瞬殺された。


「・・・万が一、そうだとしても。

 私にそれを信じてと言うわけ?」


灯の言葉に、鬼平はううん、と唸った。


「それもそうなんだよね。

 いやね、ただ会いたかっただけなんだよ」


「・・・誰に?」


鬼平はよくぞ聞いてくれましたと言わんばかりに大仰に手を開く。

そしてうっとりしてしまうような笑顔で言った。


「君にさ」


「――――は?」







****





「うん、結果的にね。

 俺は鵺は旧知の仲なんだ。

 それで、鵺に娘が出来たというのは風の噂で聞いていた。

 でもさ、俺も酒呑童子って立場だからなかなか京都の山から出てこれなくてね。

 それで最近になってようやく出てきたんだけど、どうせなら驚かせたいなって」


聞いていた灯は思った。

なんてはた迷惑な妖怪だろうか、と。


「・・・その本音は?」


「俺に教えてくれなかった鵺への嫌がらせ、かな」


素晴らしい笑顔でありがとう、とつい言いそうになる。

しかし灯はぐっと堪えることに成功した。


「いやいやいや!

 そもそもおかしいでしょう!?

 酒呑童子よね!?

 有名な・あの!!

 なんでここにちゃっかり出てきてるの!?

 会いに来た!?

 わざわざ!?」


「まぁ、俺もさ、やっぱ男ばっか見てるの厭きるんだよね。

 むさくるしいし。

 で、久々に外出て鵺に会いに行こうと思ったんだよ。

 そしたら娘いる、友達になろう、学校に入ろう、だね」


「おかしいでしょ!!!!」


学校の屋上で、灯の渾身の突込みはさく裂し続けた。






「お父さーーん、ただいまー」


がらりと扉が引かれ、聞こえてきた灯の声はなぜか疲れ果てていた。

鵺は不思議に思いながらも向かうと。


『!?!?!?!

 あああああ、灯!!

 そこの小童はなんだ!!!!』


鵺は、目が飛び出てしまいそうなほどの驚愕に打ち震えた。

灯は、男と一緒に帰ってきた。

しかもその男は、同じ制服を着ている。

ということは、同じ学校の。


「お父さんお父さん、

 これ、お父さんの友達でしょ?」


絶望に打ちひしがれていると、灯は呆れたように男を指さしながら言ってきた。

しかし、吾にはそのような男の知り合いはいないはず、と思っていると。


「これって酷いな、灯。

 鵺、俺を忘れたのか?」


にまにまとしながらいう男に、鵺の記憶は一瞬にして蘇った。


『お主!!

 酒呑か!!!!』


やっほーと言わんばかりに手を振る酒呑童子に、灯はため息をつきたくなった。

これが、三大妖怪と呼ばれたうちの一人。

確実に夢見る人の夢を叩き壊すだろうその姿に、灯はひっそりと合掌した。




「いや、そもそも俺に連絡くれなかったのが悪いと思うんだ」


『阿呆か!!

 主は酒呑童子であろう!!

 そのような名の通った妖怪に吾の娘の事を報告すれば、灯が危ない目に合うかもしれぬだろう!』


「うんうん、

 鵺、お前も名が通った妖だからね?

 人のこと言えないからな?」


灯は、居間にひろがるシュールと言ってもいい光景を横目にとらえながら、夕食の支度をし始めた。

どうやら、今日はぬらりひょんたちも来ないらしい。

もし来るのであれば、もっと早くに来ているからだ。


「あ、恭一君、嫌いなものある?」


『きょ、きょういちくんんんん!?

 灯、それは酒呑童子だ!

 そのように呼ばなくていい!』


「いやいや、

 俺がお願いしたんだから。

 何、鵺ってば、自分の目の黒いうちには灯に彼氏を作らせないつもり?」


『煩いぞ、酒呑!!

 少なくとも主や天にやるつもりはないわ!!』


「うわー、

 面倒な親父だね、灯。

 いつでも俺のところに来るといいよ」


『酒呑んんんんん!!』




最近叫び癖が付いた父に、灯は苦笑いを零した。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ