異世界の天使よりご挨拶 2
改めまして私わたくしは皆様のお住いの世界とは違う世界を治められているとある神様にお仕えしている天使でございます。そして名前を名乗れ(・)ぬ無礼、なにとぞご容赦ください。何分私わたくし、平均的な天使よりもいささか、少し、ちょっぴり、力が強いものですから、私の名前を皆様に告げるのはいささか、少し、ちょっぴり、皆さまにとってよろしくない事態を巻き起こしてしまうのです。
……具体的には皆様のお身体を構成する成分がすべて塩化ナトリウムや塩化カルシウム的な何かに変わるような、そんな事態です。……えぇ、ソドムとゴモラですね。振り返れば塩になる。つまり軽い元素変換が起きます。C(炭素)からNaCl(塩)への劇的ビフォアアフターですね。そんなわけで、少し、ちょっぴり、もれなく、死にます。
というわけで私の精神的にも皆様の身体的にも問題がいささか、少し、ちょっぴり、もれなく、問題がございますのでここはひとつ、私のことは単に天使でも、天使さんでも、いえ、ここはいきなりではありますがフレンドリーに天使ちゃん! とでも呼んでくださればうれしゅうございます。
一度練習いたしましょう。はい、天使ちゃん。リピート・アフター・ミ―! 天使ちゃん、でございます。うふふ、いいですねぇ、とっても親近感です。
え? 天使という割にはあまりに軽すぎる? 普通天使というのはもう少し威厳とか、荘厳さであるとか、後光的な何かとか、そういうものに満ち溢れているものじゃないのかですって?
大丈夫でございます! 仕事の関係で最低限必要になってしまう身内や自分と同じような他の神様にお仕えにしている天使相手ならともかく、異世界の皆様方のような関係者以外の方に対するそういうものは一切ございませんので、えぇ。天使らしい威厳ですとか、荘厳さですとか、らしい態度ですとか、見栄ですとか、そういう世間様一般にとても大事だと思われている、実はとてもとても大事かもしれない、すごく大事だったはずのそういうものは、もう遠い遠いむかしむかしに私のところから家出してしまってそれっきり一度も見かけませんので!
えぇ、キレイさっぱりですとも! かの大英帝国の伝説たる顧問探偵と相棒の方も、かのちょび髭が似合う灰色の脳細胞殿も、安楽椅子が似合うおきれいな老婦人も、ご苗字が金から始まり一で終わる名探偵な髪の毛がぼさぼさのおじ様とそのお孫さんも、おかしな薬で小さくなっちゃった体は子供、頭脳は大人なあの彼でさえ、手がかり一つ得られないであろう圧倒的逃走力! どこの虚数空間を探しても存在の痕跡すら見つかりませんとも! えぇ、あっという間に! 具体的にはあの御方にお仕えして三か月であの子は家出ランナウェイしました! よく頑張った、私のどこかに家出した大事なもの! 三か月もよく耐えた! 感動した!
あ、あと後光は仏様たちの専売特許でございますので、我々天使からはあまり出ません。全身から発光はしますが。皆様の世界のクリスマスとやらの時期に巷をやたらめったら明るく照らすLEDみたいに
そんなわけで私は日夜一生懸命私の主たる神さまにお仕えしているわけでありますが、この神さま、本当にすごい神さまなのでございます。どのくらいすごいのかって?
すごいのです。
いや、こればっかりは形容のしようもないほどすごいとしか申し上げられないほどすごいのです。すごいものはすごい。これは真理ですよ、皆さん。どうせどんなに数多くの形容詞を費やし、どんなに、それこそ銀河の星々の数はおろか、一つの世界を構成する原子の数以上の美辞麗句を積み重ねても、うちの神様のすごさを表現するなど、それこそ不可能ですから。
だからこそシンプル・イズ・ベスト。すごい。天使が言うんだから間違いございません。
しかも女性の神格ですので、女神さまなんです。だからこれ以降はうちの神さまのことは、『女神さま』とお呼びしますね。皆様も気軽に『女神さま』と呼んであげてください。
なお、お名前はご勘弁ください。理由ですか? だめですよ、私の名前ごときで気軽に元素変換が起きてしまうんですよ? うちの女神さまのお名前なんて……、皆さんにどんなとんでもないことが起きるか本気で私でも予測がつきません。いきなり何もない空からピンポイントで金タライが落ちてくるとか、いきなり足元に落とし穴が発生してその下が熱湯風呂みたいな強制お笑い系とかならまだいいのですけど……。悪いほうになるとごくごく軽くて皆様が突如爆発四散したりするスプラッタ系。そこからちょっと重めになるだけで、存在消滅とか意味消失とか法則破壊からの世界そのものの連鎖崩壊ぐらいは簡単に起こっちゃいますから。好奇心、猫をころす、ですよ。だめですよ、猫さんをころしたら。カワイイんですから。
さてそんなちょっと物騒なところもある女神さまですが、もう少し具体的にどれくらいすごいかをご説明させてください。……回りくどくて申し訳ないです。でもそうじゃないと私の言いたいことがうまく説明できなくて。
それでですね、そんなうちの女神さまなんですが、そのお力は数多の世界の神様の中でもひときわ偉大かつ強大な神様です。簡単に言うと全神様チカラランキングにおいてトップ5から落ちたことがないくらい強大な神様です。
え? トップ5とかいわれても分母がわからないとどの程度すごいかが分からない? あぁ、おっしゃる通りですね。面目ない。えぇと、分母は軽く無量大数で全然足りないくらいの数です。数学的に表現すると≒∞です。八百万なんかじゃとても足りません。というのも皆様はご存じないと思いますが世界というものは、那由他、不可思議よりも遥か多く無量大数でも全然足りないほど存在します。それにあるでしょう? 平行世界とか可能性世界とかああゆうのうやつ。それまで含めると本当に私にさえ数えきれません。つまりいっぱいです。とにかく多い。
そんないっぱいある世界には、自覚無自覚の別はありますけど、その世界の数とほぼ同数の神様がおられるのです。ほぼ同数という言い方なのは、神様お一人で複数の世界を創り、管理されている例もまま見られるからですね。ただ、このパターンはあくまで少数派ですし、忘れてくださって結構ですから。
そんないっぱいの神様方の中でのトップ5というのが如何にすごいことかお分かりになっていただけると思います。しかも日本国の皆様の世間よろしく、神様業界もどちらかというと男社会なんです。いやもちろん、厳密には神様方はおろか、私たち天使のような存在においても明確な性別差というのは存在しません。ジェンダーフリーなんですよね、私たちって。
ただ、性格というか、人格というか、キャラというかそういうものを、『自分は男性である』と認識されている神様や天使が圧倒的に多数派を占めているんです。その割合は、大体男5、女3、その他2という塩梅です。さらに全神様チカラランキング上位一万くらいになると、九割以上が男性神格とその他の神格で占められているのです。その中でのTOP5しているうちの女神さまが如何に強大か、大体想像がつくのではないでしょうか?
イメージしにくい方、いくつか例を挙げていきましょう。例えばメジャーリーグのサイヤング賞に女性ピッチャーが毎年ノミネート。例えばサッカー。毎年バロンドール候補。例えばテニス。男子シングルスの世界ランク五位までに女性プレイヤーが常にランクイン。とまぁこの程度にはすごいと思っていただければ。 え? 逆に分かりにくい? じゃあプロスポーツで男子の中に女子が一人、そういうことですよ。分かりやすい。
さらに言えば他のTOP5の皆様は神格を男性、もしくはその他の区分の神格の方々です。つまりうちの女神さまが全世界神様チカラランキングナンバーワンの女神さまということになります。つまり私も含めたすべての全女性的存在のトップなのですよ、アレでも。
あ、もちろん、神様チカラランキング女神枠ナンバーワンとはいえ、ムキムキマッチョ、兄貴で兄貴なビジュアルではございませんのでご安心ください。ちゃんと基本的には、黄金比を体現し美の極致を超越したそういう意味ではごくごく普通の女神さまですからご安心を。……もし兄貴で兄貴なビジュアルなら、さすがにとっくに逃げ出しておりますから、私も。
そんな全世界的女性的な存在ナンバーワンのうちの女神さまがどのくらいすごいのか。それは単純に神様としての能力でご説明できます。普通はきちんと管理されている世界において神様方はその管理運営に多くの天使や眷属などを用いて日々の業務を行っておられます。一定のルールを作り、それを個別の管理者に任せる。これを皆様の聞きなじみのある言葉に直すと『法則』となります。万有引力の法則とか、慣性の法則とか、フレミングの法則とか、魔力の相互還流法則だとか、エレメント・陰陽五行統合法則だとかああいうメジャーなやつです。
これは皆様にはコンピューターのプログラムに例えるのがわかりやすいかもしれませんね。そういうあらかじめこうしたらこうなるという決まり事、つまり法則を作り、相反する法則同士が生み出す矛盾、つまりバグを可能な限り取り除きながら、それぞれにその実行管理者として天使や眷属などをオペレーターとして配置し、それらを数多組み合わせ管理することにより、神様方は世界の維持管理を効率よく行っておられます。
まぁ、逆に言えばそうでもしないと処理が追い付かないんですね、それぐらい世界の維持管理というのは大変なのですよ。そしてこのオペレーターとしての天使や眷属の多寡が、イコール神様としての力量の余裕の有り無しということができるのです。つまり天使や眷属が多ければ多いほど、その神様の能力的余裕が少ないから法則管理を任せなければいけない。そして法則管理を任せれば任せるほど世界が内包する矛盾の数が増えます。何故なら彼らはしょせんプログラムの管理と運用しかできず、発生する矛盾の解決、いわゆるバグ処理ができるのは神様ご自身か、力のある専任のオペレーター、つまり高位の力を持つ天使や眷属だけですので。え、じゃあバグの増え過ぎた世界は一体どうなるのか? ですって? えぇと、最終的には夏の終わりの線香花火的な感じ。激しく燃えてポツリと落ちる、みたいな? ……まぁ、その辺りは察していただけると助かります。
ちなみに私の知る限り、普通の世界では平均で約十億の法則管理者が一つの世界に存在しているらしいです。平均っていうことはこれくらいの数が安定的な世界運営には必要なんでしょうね、普通。あれ、平均十億? そう思うと各世界で発生しているんですかね? 名前問題。本当になければいいんですが、いじめ。
その点、うちの世界では絶対にそういったいじめは起こりません。えぇ、起こりようがないんですよ。だってうちの女神さまは桁違いですから。その有り余ってどうし~~~~~~ようもないくらい有り余ってるHIで廃なハイスペックを使って、ほぼ(・・)お一人で世界の管理をされているのです。こんな世界、他には存在いたしません。似たようなレベルは存在しなくもないですが。だってそんな無駄に手間になること他の方々はどなたも致しませんよ。素直にそれなりの数の天使なり眷属を配置すればいいだけの話なんですから。実際、ランキング上位を占めるような力のある神様方でも皆様そうなさってます。それをうちの女神さまは無駄に力と暇を持て余しているものですから、わざと自分が大変になるように一人でやってるんです。
まさに、全神様チカラランキングTOP5にふさわしい圧倒的な能力。
例えるならあの方は多国籍超巨大企業の運営を一人でやっているようなものですよ。それも産業の根幹をなす鉄鋼、化学、通信、機械、自動車、運輸、そのたぐいの業界の世界シェアナンバーワン。しかも鉄鋼なら鉄鉱石の掘り出しからスタート。自動車なら下請けのネジ一つから組み立て、販売から納車、整備や車検まで全部。それがどれだけ異常かお分かりになるでしょう? まさに究極のトップダウン方式。そもそもトップからダウンするところがない。これぞ自己完結。
でも一人だけその自己完結に例外があるんです。……それが私。
お仕事自体は確かに全部女神さまがやっていらっしゃいますよ。でもお仕事ってお仕事のためのお仕事を生むじゃないですか。お茶くみ、コピー取り、メールチェック、取引先との時候の挨拶とか、お弁当の手配とか、掃除、などなど、そういったお仕事を円滑に回すための仕事ってあるじゃないですか。そういうのは女神さましないんですよ。できるけどしない。
なぜって? 私がいるからです!
私……。女神さまの世界において全て一人でそれらのお仕事やってます。一つの世界を管理運営するために発生する、円滑な仕事のための仕事を。一人で、全部。皆様の感覚でいうと業界シェア世界ナンバーワンの多国籍超巨大企業のそういう仕事。一人で、全部。
思い浮かべてください。皆様の身近な世界的な大企業を! 何の業界でも結構です! 鉄鋼の新〇鉄とか、化学の旭化〇、通信の〇TTとか、自動車のTOYOT〇とか、運輸のヤマト運〇とか! などなどなんでも結構です! そんな大企業にOLが一人! それも本社のみならず全支店、全営業所で発生するお茶くみ、コピー取り他そんな感じの仕事、一切合切すべて私一人でやっております! ソロで。シングルで。部下なんてもちろんいません! ボッチ? ボッチって言わないで! 他の世界の神様の約何百万、何千万もの天使や眷属の分、全部全部私が一人で翼から羽をちぎっては分体飛ばしちぎっては分身飛ばしで、常に平行作業の日々を過ごしておりますよ! 私はニワトリか! フライドチキンにされるニワトリなのか!
そうですとも。中間管理職なんていません。私しかいないんだから。いじめなんてありえません。だって部下なんていませんから。名前問題も発生しません。カエルもタオルもヒックリカエルもいません。だって天使、私しかいないんだから!
……ブラック? そうですとも。私こそすべての世界に君臨するブラック天使なのです! 私以上にブラックなやつがいたら勝負してやる! いつでもかかってこい! ブラック反対! ワンオペ反対! 労働基準監督署は仕事しろ! この給料泥棒どもめ!
ふ~、ちょっとだけスッキリしました。ほんのちょっとだけですけど。とはいえ私は別にブラックすぎる自分の労働環境に対する愚痴を聞いていただくために日本の皆さんにお声をかけたわけじゃないんです。いや、勿論聞いていただけるなら分体を常時配置で百兆年くらい尽きることなく愚痴をこぼし続けたいくらいに日常業務にもストレスたまりまくってますが、それはまぁいいのですよ。まぁなんだかんだ言ってお仕事ですから。それに……もう慣れましたからね。何事にも慣れって大事ですよね。えぇ、やり続ければ慣れるんですよ。こんなブラック天使業にさえ。『慣れ』という概念を生み出した例によって名前が言えないあの神様に、心の底からの感謝と恨み節を! ありがとうございます、私おかげで今日も生きてます! そしてそれ以上に恨んでます! 小指に超新星爆発千発くらい喰らったらいいのに!
つまり何が言いたいかというと、ブラック天使でも慣れることができないそんな悩みが私にはあるんです。皆様にわざわざお声をかけて聞いていただきたいのは、そんな慣れることのない私の、聞くも涙、語るも涙な、そんな苦労話でございます。あ、翼は白ですよ。翼はホワイト。ただ職場はブラックです。
それでそんなに忙しいブラック天使が、わざわざ違う世界の日本人に何の用だ。なんでわざわざ自分たち日本人に聞いてもらいたいんだ? ですって? いいところに気づかれましたね。そこなんですよ、そこ。それこそがここ最近の私の悩みの元なのです。いや、悩みの元はあの方の存在そのものなんですけど、それはそれとしてですよ。
では何から説明いたしましょうか。ん~、うちの女神さまは先ほども申し上げた通り、無駄に廃でハイスペックな方ですので、世界管理の仕事をほぼ一人でこなしてなお余裕が有り余っておられるのです。無駄に時間と処理能力を持て余し、存在自体がチートを通り越してバグも通り越しもうどうしようもない、そんな女神さまのご趣味が無限に広がる他の世界の観察。そしてここ私共の体感時間数十年のブームこそ皆さんの日本の様々な事物を見て、やって、食べて、聞いて、楽しむことなんです。
今、最近のネット小説にありがちな設定だとか思ったでしょう。こっちが逆にびっくりですよ。なんでこの世界こんなにもフィクションの形とはいえ真理や世界のどうしょうもない真実が情報として氾濫してるんですか? ここまでくると何らかの作為を感じざるを得ないんですけど。
まぁ、そこの追及はこっちの話なのでいいです。とはいえ自分の世界以外の世界の観察というキーワードで察しのいい方は私が皆さんに語りかけた理由が見えてきたのではないでしょうか? まぁ自分の世界以外の世界の観察という趣味、これ自体は数ある神様方の趣味としては非常にポピュラーなよくある趣味なんですけど。何しろ神様方は自分の世界のことに関しては程度の差こそあれ基本全知全能がデフォルトの皆さんばかりですから、娯楽といえば自分が知らない、管理していない世界のあれこれとなるのは必然といえば必然なんですよね。だって面白くないでしょう? 自分で書いた小説をひたすら自分で読んだって、筋もネタもオチも全部知ってるんですから。というわけで、神様方はいろいろな世界を覗いて日々それを娯楽としておられます。まるで夕食後にテレビの前に居座るお父さんの様に、神様方は今日はあの世界、明日はこの世界と見ておられるのです。ですが神様といえど自分の管理世界以外への干渉は基本NG。タブーに当たります。だから見るだけです。じゃないと世界間戦争が勃発しますからね。勃発すると大体両方が吹っ飛ぶうえより上位の力を持つ神様の制裁を受けるのでほとんど起こりません。制裁の結果は大体神様自体の消滅というやばい結果となります。だから見るだけ。ちょっとだけよ? もダメです。いわば踊り子さんに手を触れないでくださいの精神です。
とはいえ、たいていは見るだけで皆様満足なさいます。そりゃそうでしょうと私も思います。だって無限に等しいチャンネル数のテレビが存在して、それが日々違うコンテンツを提供しているんですから、普通に考えてそうそうそれ以上の娯楽なんて求めませんよ。ただ、もうちょっと言うと普通の神様にはそれ以上の余裕がないとも言えます。先ほども言いましたがとかく神様業は大変なのです。どんな世界の神様でも世界的な大会社のCEOなんて目じゃないくらいには大変なんです。だからちょっとした娯楽に他の世界を覗いて楽しむのが精いっぱい。
ですが、うちの女神さまは残念ながら一味違います。世界を一つ、従業員は私だけの二人で運営しながらもそんなの鼻歌交じりなんです。私は毎日必死ですけど、女神さまは余裕なんです。
だから暇なんですよ、常に。娯楽に飢えておられるんです、アグレッシブに。
だから普通の神様なら見るだけで満足するんですが、それに満足せず気になったものは実際にやっちゃうわけです。皆さんの世界にもおられるでしょう? 大多数の人が見ているだけで満足して「スゲー」って言ってるだけのことを実際に自分でもやっちゃう人、アレです、アレ。しかも無人島の探検とかを見て自分も旅に出ちゃうレベルで何でもやりたくなっちゃうんです。はっきり申し上げて病気ですね。まさに不治の病です。しかもそちらの格言でいうところの『一回死なないと治らない』を実践することすらできません。厄介なことに当然、死という概念を超越しておられるので。神様はこれだから困る。
勿論そんな女神さまは楽しみのためには妥協なさいません。皆さんの世界の言葉に『チート』って言葉があるじゃないですか? 普通では考えられない超常的な力を『ズルい』方法で得て、それを振うことだったように理解していますが概ねあってますよね? その場合は、力のない普通の人間の方が力を得てかなり好き放題やるというという話だったと思いますが、うちの女神さまの場合は全くの逆。
まず世界管理を行う自分と遊ぶ自分を皆さんでいうところの平行思考の様にお分けになり、娯楽を楽しむご自身の神格の能力の大部分をその娯楽を精一杯楽しむ為に、いいえ、そんな生易しい表現では足りません、骨の髄までしゃぶりつくすためにあえてその娯楽が存在する世界の『人という概念を持つ生き物』の水準に自分を合わせ、不要な能力を制限する、いわば逆チートをやってらっしゃるんです。曰く「遊ぶということを楽しむのに、一番の敵は万能であることである」だそうですが、理解は致しますがだからといってそれは心底能力の無駄遣いだとしか申し上げられません。
しかも、ただ遊ぶだけじゃ済まないのです。一例として登山の番組を見ていたとしましょうか。あの方の楽しみ方は順を追うとこうなります。
【登山している人を見る→自分もやってみたくなって道具とかをそろえる(形から入る)→実際やってみる→紆余曲折ありながらも楽しむ→最終的に『山を作る』】
こうなるんです。必ずと言っていいほどこうなるんです。え? 山を作るってなんだ、ですか。文字通り『山をお作り』になります。だって神様ですからね、簡単なんです。人間じゃ考えられないですよね? でも、できたらやる……。そしてあの方はできるからやっちゃうんですよ。
そして、ここまで長々とお話してまいりましたがついに私の愚痴の本題です。常に忙しい、ブラック就労環境天使ナンバーワンな私の一番の悩み。
――うちの女神さま、必ず私をそれに巻き込むんですよ。
今回日本の皆さんをお呼びしてまでこれから聞いていただくこのお話は、皆さんの世界のRPGに嵌まった結果、私が巻き込まれた話の一部始終でございます。