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でね。なんだかんだでバアさんの弟子になって、一ヶ月たってな。
バアさんの指導方針も、ちょっとずつ変わってきたんだ。
どんな変化かっていうと、掃除だけをやらせるわけではなくなってきた。
そうはいっても、一日の大半は掃除に費やされたけど。
……これって、児童労働にあたるんじゃないですかね?
それはともかくなんだが掃除が終わってから、占いについて教えてくれるようになった。
大きな進歩ですよね―。だって占い師の弟子なのに、ひたすら雑巾がけとかしてたんすよ。
って言っても、どうやらバアさんの占いは特殊らしくてさ。
まったく基本を無視した変化球もいいような教え方らしくてね。後日、占いの勉強をしている友達にどうなのか聞いたら。
「お前、なにそれ! 例えるなら魔法系のキャラクタ―の力パラメ―タ―にボ―ナスポイントぶち込むような意味のわかんなさ!」
って言われた。
でも俺はそんな違和感を感じなかったけどね。
どんな事をやったかと言うと、カレーを作った。
なんかそんなんが多くなってな。習い事っていうか、占いの勉強とかこつけて、バアさんといろいろ楽しいことをやったり遊んだりとすることが多くなった。
カレ―作りだけでもない。色々教えてもらったんだ。
なんかよくわからない実験とかも、やらしてもらった。
スライム作りとか。ほう酸とか混ぜて作るやつ。よく失敗したけど。
あとなんかよくわからないドラマみせてもらったりした。
ナイトライダ―っていう、アメリカのドラマなんだけどさ。人工知能をつんだ車と刑事が事件に挑む刑事モノなんだけど。仮面ライダ―の一種とか教えられて、ライダ―はいつ出てくるのかな? みたいな感じで見てた。
幼い俺に教えてやりたいよ。でるわけないって。
年齢的壁から理解できない大人の渋さですよ。小学生低学年がわかるわけがないドラマを永遠と見るのなんて幼少時の人格形成にどんな影響を与えるのかわかっているのかと。
まったく遊びだけではなく、学校の勉強、授業に関する事だって、教えてもらった。
例えばスチ―ルウ―ルを燃やす作業。
中学の理科の授業で役に立った。酸素の量が多いと燃えの勢いが違うってやつ。
そんなほのぼのとした結果にはならなかったけど。
子供火遊び好きだし。
赤い働く車が出る結末だった。
でも一番印象に残っているのはアレだな。水泳授業WITHババア。
一回さぁ。学校でプ―ルの授業があってな。そん時なんてな。こういうことがあった。
「こんにちは……」
「おおう。隆、今日はここを掃除してもらうからねぇ」
「うん」
「こんな広い部屋だよ。どう? 落ちこむだろう?」
「うん……」
「雑巾は固くしぼって、拭くんだよ。なるべく摩擦係数を落とすんだよ」
「うん……」
「隆はちょっと前のモツ鍋ブ―ムをどう思うかね?」
「うん……」
「ちゃんと聞きなさいよ」
嫌がらせからのばあさんの珍しい、普通の言葉に自分にツッこなれない苛立ちが出ていたよ。
でも子供、バブル崩壊後のモツ鍋ブ―ムとか興味ないし。
「なんだよ……。どうしたんだい? さっきから何を聞いても上の空だよ」
そして普通に心配するばあさん。
バアさんが普通でいるのはあんまりないのである。結構ひどい事言っている。
でも、わかるだろ? ファッション、言動、職業まで珍しい人だからさ。
真面目に心配されてるのがわかり、俺もつい本音を漏らす。
あとから考えて、そのついが幼少時から現在に至るまでにトラウマという深刻な影響をもたらすと知らずにね。
つい……。だったんだ。
「がっこうでプ―ルのじゅぎょうがはじまったんだよ」
「そういえば、もう6月だったねぇ」
6月の真ん中くらいになって、プ―ル開きとなった。
「さいしょはプ―ルってきいただけで、すごくたのしくおもえて、ほんとにたのしかった」
「それで?」
「だんだんじゅぎょうが、およぎかたのれんしゅうになってきてさ。みんなあたりまえのようにおよげるんだ」
「隆はどうなんだい?」
「ぜんぜんダメ……」
プ―ルの授業、最初は遊びだけだったんだ。
なんか塩素ふんだり、水に顔をつけたり、潜ってみようとかでさ。要は遊びだったんだ。
もうキャイキャイ言いながら、たのし―! でやってたんだよねェ。
でも途中から本格的な泳ぎ方を教える授業になってきたんだ。
俺、まったく泳げなくて。バタ足すらできなくてさ。
全然前に進めなくて、泳げない。終いにはそのうち沈む。
みんな出来ているのに、俺だけ出来ない。
そのうち笑われるようになった。
最後に残されて、みんなに泳げないのを見られる。
さらしものにされて笑われる。
高校生になっても思い出して、震えがくる。それくらい嫌だった。
「らいしゅう、またプ―ルのじゅぎょうがあるんだ……」
その時の時間割は一日五時間授業で、一週間のうち体育は月曜と水曜だけだった。
今週は乗り越えたけれども来週また嫌な思いをする。
そうなると果てしなく憂鬱に思えた。
「……どうしようかなぁ」
「……」
俺の表情が余りにも落ち込んでいたのだろう。
人の気持ちが落ち込んでいようが、間違っていれば容赦なく傷口に虫さされのキンカンをたっぷり塗りこんでくるババアが、ちょっと心配げに俺の事を見ていた。
「泳げないなら練習するしかないね」
「うん……。でもれんしゅうするばしょがないよ」
「川でもなんでも行けばいいじゃない」
「……かわって」
思わず呟いてしまった俺。
ババアは自分の子供時代と比較しているのだろうが、そんな井上揚水の歌に出てきそうなレベルの状況なんて、俺の周りではなかったよ。
近くの川なんて、贔屓目に言ったって、絵の具の筆を洗う洗い水。どぶ川もいいところだった
。
田舎とか行けばそりゃ、まだまだキレイな川があるんだろうけど、俺がいるところは埼玉の住宅街。
川なんてヘドロでべチャべチャで、入ろうなんて一ミリも思わない。あまつさえ泳ごうなんて絶対思わない。
入ったら最後、インディジョ―ンズのひどい感じで死ぬ一場面に、強いて言うなら底なし沼として出てきそうな雰囲気をかもし出している。
「あんなきたないかわに、はいれないよ」
「贅沢だねぇ」
「だからさ! しょうがない! ぼくはおよげないでいいんだ」
俺は何一つ成し遂げたことがない子供だった。
プラモデルとか買っても自分で作ろうと思っても、父親にお願いするような子供だった。
簡単に言うと努力をしたことがない。
自分でなにかを完遂させたことがなかった。
だから今回も無理だろと諦めてしまっていた。
「……ちょっとついてきな」
そう言うやすぐにババアは部屋から出て行った。
しばらくしてガラガラと何かが開く音がした。
ババアの急なスタンドプレ―に戸惑いながら、俺もついていくと、一階のリビングからババアが外に出ているのが見えた。
庭を少し行った所で立ち止まっているババアの横までいく。
「ここで練習しな」
「え……」
そこには確かに俺が泳ぎの練習できる場所があった。
プライベートプールってやつ! バブルですよバブル!
学校のプールの半分くらいの大きさ。しかしおかしい。そんなバブリーな、プールが俺の視界に入るところあるようだったら、真っ先に気がついているはず。
それもそのはず、そこにあるのはよくテレビで見るような自家用プ―ルのイメ―ジとはかけ離れた姿だった。
手入れをしている様子は見えなくて、落ち葉とか浮いていたり、水の色がにごったりと、一見としてプ―ルには見えない。はっきりといって沼がいい所だ。
「……おばあちゃんのいえ、にわにプ―ルがあるんだ」
「凄いだろう? 頭の悪い金持ちの象徴みたいだろう? 作ったはいいが一回も使ったことはないがね」
そう言いながら、ドレスを脱ぎ捨て(?!) ババアは沼みたいなプ―ルに、備えつきのはしごを使いながら入っていく。
いきなり見せられたばあさんのセミヌ―ドはすげぇ! 印象に残っている。
性の目覚めではない。
セミヌ―ドは、例えるならぷよぷよが揃ったのに消えない状態? それくらいぶよぶよしてましたな。
ババアはジャバジャバとプ―ルの中を進んで、深く手を突っ込んだ。
その突っ込んだ手で、栓を抜いたようで見る見るうちに水が減っていった。するとババアの裸身がまたあらわになっていって、うわッ 板尾係長みたいだ。って思った。
「今日は掃除だな!」
こっちを見ずに怒鳴るババア。
「……はい」
プ―ルのという接続詞がつくが、結局掃除だった。
プ―ルの掃除ってやったことある?
夏以外使わないプ―ルはオフシ―ズンは基本そのまま放置しているから、落ち葉とか苔とかが自由に過ごしている場所へと変わる。
なので、夏にプ―ルを使う前に掃除をするイベントって、学校でなかった?
俺らの学校では六年生とかの最高学年の人がやるんだけど。
そんなイベントを先取りでやりました。
デッキブラシでごしごしとプ―ルの壁を磨く。思ったより力仕事である。苔とか簡単に落ちないし。
他にもプ―ルの底面に溜まったゴミを集めていく。
プ―ルのゴミとして、落ち葉はオ―ソドックスだと思う。
そんなんは、なんとか大丈夫なんだけど、嫌な片付け物もあった。
「おばあちゃん……。なに、コレ」
「あぁ、ヤゴだよ。ヤゴ。トンボの子供」
ババアの手のひらにある細長くやたら黒目が大きい虫に、服を脱いで、白ブリパンツ一丁の俺はドン引きでございました。
子供の頃は虫って大丈夫だけど、大人になるにつれてダメになっていくよな。
でも子供の頃はさ。カマキリとかバッタとか手づかみとか当たり前の様にやってたんだよ。って言っても虫が駄目になったわけではなくてさ。
俺は高校生になっても死にかけのセミを友達の体操服の中に入れて、ジジジ! うわぁ! と驚く様を見れるくらいは、大丈夫なんだよ。
……でもあの生き物は虫全盛期の幼い頃でもダメだった。トンボの幼虫とかに見えないし。
得体が知れなさすぎた。水の虫とか触れ合う機会ないからね。
例えばタガメ。捕また相手の体液吸うとか超、こえぇ。ヤゴも小魚くらい体液チュ―チュ―なら出来るらしいし。
「……」
チャッチャとヤゴ(死骸)を処分するババァ。
そんな感じで掃除を終わらせ、さらに翌日に一回水を入れてまた抜いた。
そして翌日。
なんという事でしょう……。
ドラクエなら一歩そこを歩くたびにドカ! みたいな音とともにHPが減りそうなババアのプ―ルが、ちゃんとしたトレンディドラマの金持ち役のやつの家に出てくるようなプ―ルへと早変わりしました……。
練習する環境は整った。後はひたすら練習するだけ。俺も珍しくやる気に満ち溢れていた。
だって、みんな俺を見て、あんな笑っていたんだ。
悔しかった。
頑張って、泳げるようになって見返したい。
水泳の授業の時、忘れていない。少し泳げる西川ってヤツが
「うわ、ダセ! まじかよ」
「あんなのできねぇなんて、終わってるな」
って言ってたんだ。
俺、そんな悪口を言うやつに、小学生になってから初めて会ってさ。
それまでは人にそんな悪口言うやつに、あったことがなくてさ。そう面向かって、言われたのも衝撃だった。
だからどうしてもうまくなって、見返してやりたかった。
「よし。やるぞ」
準備運動もそこそこにさっそくマジックパンツを駆使して、パンツを脱いで海パン一丁になる俺。
マジックパンツとは白ブリをあらかじめ海パンの下にはいておき、海パンを装備しつつ白ブリを脱ぐという漢のたしなみである。
「ちょっと待ちな」
そして、まさに飛び込もうとする俺を唐突に引き止めるババア。
「なに? おばあちゃん」
俺は前傾姿勢になっていた体から飛び込む気が削がれて、戸惑いながらばあさんの方に振り向いたよ。
「お前、どうやって練習するつもりだい?」
「……バタあしをする」
幼い俺なりに自分の泳ぎ方に何が足りないのかというのは、なんとなくわかっていた。
それは泳ぐにあたって、基本中の基本であるバタ足が出来ないことである。
平泳ぎとかバタフライとかやるならともかく、足を上下に動かして水の中で動けるようになるバタ足が出来ないというのは、まったく前に進むことが出来ないということだ。
それに学校ではバタ足が出来るかどうかが、試験科目となる。
つまりバタ足が出来るかどうかが、カギ。
「……そんな平凡な技でいいのかい?」
「へっ?」
ババアのけっして大声ではないはずの呟きが、その場を支配したんだ。
「私がとっておきの技をくれてやると言ったら……?」
「……」
ゴクリ。
真剣な目でこちらをギラリと見つめる、珍しく真剣なババアの瞳が俺を捉えた。
「な、なに? そのとっておきの技って……?」
「ふっ……。その泳法の名前は、神伝流 と呼ぶ」
「し、しんでんりゅう……!」
ニヒルに笑いながら、ババアが技の名前を言う。
名前、超かっこいいだろ?
もうなんか手からエネルギ―波とか出そうな名前だろ?
「日本古来から伝わる、戦国の世に活躍した戦闘芸術……。お前が力を望むなら……、くれてやってもかまわんぞ?」
「ほ、ほしい!」
もう、俺、そのフレ―ズに大興奮。
だって戦闘芸術だぜ?
日本古来から伝わる技だぜ?
もうそんな単語聞くだけで、小学生、駄目になるだろ?
「まずは基本中の基本! 神伝流 扇足!」
「はい! 師匠!」
「よし! 弟子よ! お主、なかなか筋がよい」
「はい! ありがとうございます。ししょう!」
「そんな貴様には次はさらに高度な応用術! 諸手抜を教える!」
「ありがとうございますししょう!」
「これを覚えれば、神伝流の基礎はほぼ覚えたことになる! 正直まだまだ貴様に教えることは山ほどあるが、泳げるようになるという貴様の当初の目的はこれでほぼ達成されることになるだろう!」
「ありがとうございます。ししょう!」
「……なんていう弟子だ! こんな短期間で真伝流の基礎を習得してしまうとは……!」
「ししょうのごしどうがあってのたまものです!」
結果、泳げることにはなったんだけどね。
そして水泳の授業の日。
「たかし―。きょうもたのしみにしてるぜ―」
にやにやとしながら、西川に肩を叩かれた。
本当に嫌なやつだよな。西川。
自分がちょっと泳げるからって、人が泳げないのを楽しむなんて。
でも大丈夫! 中学の時、ひっどい! フラレ方するから! あと六年後が楽しみ!
「……」
額に青筋をたてながら、怒りを押し殺す俺はかっこいい。
無言で西川のからかいをいなすと、もくもくとプ―ルまで歩く。
「……」
もくもくと更衣室でふるちんを披露している俺に、まわりは何も声をかけてこなかった。
鬼気迫る気持ちが回りに伝わっているのだろうか? 気を使って話かけてこなかったのだろうか?
俺はバルセルナに向かう岩崎恭子だった。
決戦の時は近い。
俺の意気は激しく、プ―ルサイドで準備運動をしている時も俺のチクビはギン立ちである!
「よし! じゃあ、今日は25メ―トルを泳いでみるか!」
「「「えェ―――!」」」
先生の突然の宣言に、生徒達のブ―イングが響く。
けれども体育教師はノリノリである。
「じゃあ、やりたい奴は手を上げて」
「……」
みんな顔を見合わせ、お見合い状態が続いた後、
「おれ、やる!」
「おれも!」
クラスでも運動が出来る二人が手を上げた。
ここで、じゃ、じゃあ、俺も……と手を上げれば、どうぞどうぞとなる展開。
「おれ、やる!」
そこで、どうぞどうぞと言われるわけでもなく!
隆、手を上げる!
「え、隆が……」
「むぼう―(笑)」
ざわつくクラスのみんな。
西川が笑いながらこちらを見ていた。思い出してもむかつくな。
「たかし。バタ足も出来ないのに、25メ―トルは難しいと思うぞ」
先生は困ったようにこちらに助言を与える。
やる気はかうけど……みたいな。
「やらせてください!」
俺も出来るっていう確信があったからね。思いっきりアピ―ルした。
「……でもなぁ」
それでも先生は難色を示したさ。
「ぜったいできますから!」
「……わかった。何事も挑戦だしな」
俺の鬼気迫る勢いに、先生も何かを感じ取ったようで、最後は認めてくれた。
運動真剣抜群な二人と俺はプ―ルのスタ―ト台へと連れて行かれる。
みんなの視線が突き刺さる。
特に俺に対してである。
そりゃそうだ。運動真剣抜群な二人がこの試練に立ち向かうのは分かる。
しかし、クラスの目立たない一人にすぎない俺が、しかも泳げない俺が、そんな分不相応な試練に挑むのは明らかにいつもとは違う。
だが俺には自信があった。
威風堂々と、先生と二人の後をついていく。
なんていったって、俺はみっちりと! 日本古来から伝わる戦闘芸術を学んだんだからね!
まず始めに運動神経抜群な二人が泳いだ。
周りから頑張れ―! 頑張れ―! という応援と共に、二人ともクロ―ルなどを駆使して、一生懸命泳いでいた。
結果ふたりとも完走。
楽しそうに笑いながら、水を滴り落とさせていた。
トリを勤めるのは、満を時して隆登場。
結果ではあるが。
俺は完走した!
それは見事にやり遂げた。俺崎恭子です。今まで生きていた中で一番幸せです。
その点は誰にも文句は言わせない。
だが。
泳いでいる俺を見て、周りでは大爆笑が巻き起こっていた。
「すげェ! なにあれ!」
の声と。
「きもちわるい!」
との声が半々の反応ではあったが。
なぜかと言うとだな!
簡単に言うと、おれは顔を水面に出しながらわっしゃわっしゃと、立ち泳ぎをしながら25メ―トルを完走したのだ。
立ち泳ぎです。
実はババアが教えた泳ぎ方は普通のやり方ではなかった……。
クロ―ルとか、平泳ぎとかバタ足ですらない。
古式泳法という泳ぎ方だった。
説明しよう!
古式泳法とは古来より伝わる泳法の一種で、その起源は武士が刀など武器を濡らさないようにする為に生み出した! 由緒正しい泳ぎ方なのである!
由緒正しいというのはあながち間違ってない。
だが欠点があるとすれば、水中を泳ぎきる為に特化した現代の泳ぎ方に慣れている我々が傍目で見ると、非常に気持ち悪い。
(ごめんなさい)
傍から見ると、顔を水面から出しながらわっしゃわっしゃと泳いでいるように見えるので、確かに気持ち悪い。
「……アレ?」
泳ぎ終えた俺としたら、何がおこったのかが理解できない。
俺、泳ぎきったよね?
普段出来ないことをやってのけた人に対するリアクションって、こういうものじゃないよね?
クラスのかわい子ちゃんのようこちゃんが、涙混じりに私、信じていた……くらいのことを言ってくれるわけでもない。
みたいな疑問が浮かんで、収まりがつかない。
「お前、サイコ―!」
「たかし、カッコいいよ!」
みたいなリアクションの嵐に、その日はババアの家に寄らずに、俺は布団を涙で濡らしたとさ。