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3



 翌日からさっそく修行が開始された。



 母親にバアさんの弟子になると伝えたら、凄く驚いていた。

一旦はそう……。と言っていたが、その後、何度も。



「ホントに弟子になるの? 隆ちゃん……」

「うん。やる!」


「そう……」


 ……。


「ホントに弟子になるの? 隆ちゃん……」

「うん。やる!」


「そう……」





「ホントに弟子になるの? 隆ちゃん……」



 エンドレス。



 相当心配だったんだろう。


 それはそうだろう。習い事をやるといってたら、その習い事は得体が知れない。占い師の弟子。しかも近所で噂の魔女の所の。


 俺が親だったら心配でしょうがない。子供の人格にどんな悪影響を加えるのか、想像するだに恐ろしい。


 後から聞いたら、その話を聞いた後、俺が学校に行ったと同時に即! ババアに菓子折りを買って届けたらしい。

 それもビ―チフラッグばりのスピ―ドで。

 負けたらどんなヤバイ罰ゲ―ムが待ってるんだよ!っていう勢いで届けたと。


 ママンに心配かけたよな。俺。


 そんなママンに心配をかけてしまう修行の、実際の修行風景はどういうものかというと。

 修行初日、学校へ帰り、ランドセルを家に置くこともなく、すぐにババアの家に行った。

 ついた瞬間、ランドセルを奪われ、玄関に直立不動で立たされた。


「さぁ! 今日からあんたは私の弟子! それがどういうことかわかっているね!」


「……え?」


「え? じゃない! 私の言う事は絶対服従! 黙って従う事!」


「それは……」


「口で宿題を忘れた言い訳を考える前と後ろにサ―を付けろ! 分かったか! 宿題やったんだけど家に忘れました―。か!」

「SIR,YES、SIR……」


 フルメタルジャケットでも見たのか、軍人みたいなこと言わされた。

 それを言うと、ちょっと許される雰囲気がかもし出されるから、やったけど。


「ふざけるな! 大声だせ! 友達に絶対誰にも言うなよって言った好きな女の子がばらされたりでもしたか!」

「SIR、YES,SIR!」



 絶対に言って欲しくないのに、翌日にはちょっと広まっているので絶望。



「よろしい! いいか! もし貴様のような天才テレビ君のユ―モアレベルが、あたしの修行に最後までついて来れたなら! お前はあなたのしらない世界に出演してなんとなくなコメントが出来る占い師になる! プラズマで全否定される! その日までは、手相を見せてくれませんか? からの詐欺師だ! 俺手相見れんだぜ? っと、姑息にもコンパで大人気な男と同じ扱いだ! つまり貴様は人間ではない部屋の片隅に固まって落ちている陰毛の価値しかない! そう! 貴様はまだ陰毛製造マッシ―ンだ!」



「SIR、YES,SIR!」

「よし! 来い!」

 

 そう吐き捨てて、ドレスで駆け足をしだすババア。


 ホント無茶苦茶なこと言われていたけど、意味がわからなかった。後、あの年頃だと陰毛生えてないし。

 生えなすぎても、林間学校とかで焦るけど。



「まずは掃除!」



 そう言って軍曹に連れてこられたのはこの家の玄関。


 もう、ちょ―だだっ広い。


 だってさ、玄関に出たら目の前に二階に続く階段とかあるような洋館だぜ? シャンデリアとか普通にあるし、小説とか映画にでてくるような造り。


「え―、そうじぃ? うらないのしかたとかおしえてくれないの?」


「SIRをつけろ! 陰毛!」


「サ―、イエス、サ―……」

「全ての言葉の前にSIRを付けろ! 胆に命じとけ! あと聞こえない!」

「SIR、YES,SIR!」


 やけくそのでかい声をだす俺。



「うるさい!」


 どうしろと。 



「占いの仕方を学びたい? そんな事を言うのは、お城の周りでレベル上げしてからにしてからよ。クソガキ」


 ばあさんはこっちをチラリとも見ることなく、子供の疑問を解消することなく、自分の言いたい事だけをぶつけてきた。

 ラジオ子供相談室だったら、とっくに干されている。



『なんで、海の水は、しょっぱいんですか?』 

『ヘルプを押して、イルカに聞け』


 みたいなやり取りだ。



「お城の周りでのレベル上げの内容知りたいかい?」


 内容を知りたいっていうか、目の前には凄く長い板フロ―リング一面があるのです。


「しりたい……」

「ここを掃除」

「え―」


 正直、大人でも半日かかるような広さを掃除。子供だと一日かかりだと思うよ。


「あんたは今は修行中。ほら、こんぼうと布の服」


 王様から渡されたのは雑巾と水が入ったバケツ。


「さぁ、行くがよい。勇者よ」

「……」


 レベル上げにしては敵、強すぎだよね? この広さ、スライムとかそういった次元じゃないよ? だって、スライム倒すのに大人が半日以上時間かかる?


「はぁ―い」


 おとなしく200ゴ―ルドくらいで買えるものを受け取る。

 俺は黙ってバケツと雑巾を貰うと、雑巾に水をつけ、子供ながらも固く絞る。廊下の掃除は学校で経験しているから任せろ! ぐらい思っていたよ。

 四つんばいになって、雑巾をフロ―リングに押し当てながらひたすら前に進んでいく。

 最初は勢いよく、たったったと水ぶきをしていく。最初というか……、一往復だったな。

 でもしょうがないよ。

 小学校一年の細腕で全力での雑巾ぶきなんて、簡単に体力を奪っていくよ。しかも前言った通り、一回の往復がとんでもない長さ。

 案の定、掃除は放課後の二、三時間じゃあ、終わらなかった。


「残りは明日!」


 終わらなかった分、翌日持ち越し。

 翌日も掃除。

 その翌日も掃除。

 土日がなくて、結局一週間掃除。


 三日目で、フロ―リングの雑巾ぶきは終わってたんだけどさ。正直手をぬいていた部分もあってそこを容赦なく指摘され、また最初からやり直し。なのでエンドレスに掃除をしていたよ。


 来る日も来る日も掃除ばっかりで、何も楽しくない。


 こんな習い事なんて聞いたことないよ。

 児童労働だよ。ユニセフが黙ってないよ。


 ユニセフを出さずとりあえず、ばあさんに抗議した。



「おばあちゃん。そうじいがいにもなにかやらしてよ」

「まだまだあんたスライムベスを倒すにも苦労しているのに、ガライの街に行こうとしているのよ? レベルが足りないわよ」

「……でもさぁ。もうまいにち、そうじばっかりヤダ」

「お前はレベル上げの重要性がわかってない。まだ銅の剣も買えない状態だぞ?」


「なにいっているかわからないよ」


「子供にわかりやすい例えで教えてやっているのに」

「いまのこはドラクエ1とかやってない。もう5とかだよ……」


「え? マジ? 復活の呪文アルアルとか、通用しない?」

「ぼくスーファミもってない」



 結果、俺の必死なデモ活動にも係わらず、その日もやっぱり掃除だけで終わりましたとさ。

 


 翌日。


 また今日も濡れ雑巾で地平線まで床を拭く作業がはじまるお……。


 と、憂鬱な気分でババアの家に行くと、いつもの玄関ではなく、この間の応接室に連れてかれた。

 加えて、ババアの手は少し大きめのデパ―トの紙袋をぶら下げていたんだ。

 なんだろう? 今日はここを掃除しろってことかな? そう思っていたんだが、ババアは一言。


「たかし、占いをやるよ」

「……え?」

「ちょっとだけなら、教えてやるよ」

「ホント!」


 昨日と打って変わって、あれだけやらないと言われていたことが出来る!


 バアさん、どんな心境の変化だったのだろうか? ちょっとこの年になれば怪しむ気持ちが出てくるはずだが、まだピュアで、単純な俺はそんな急な変化にいぶかしむ気持ちなどなく、掃除以外のことが出来るのが嬉しかった。


「正確にいえば、霊的能力を鍛える訓練をする」

「それでもいい! やりたい!」


 俺は全力全開、フルスロットルで返事をした。だって、ようやくらしいことができるんだから。


 周りの友達にも俺、習い事はじめる。え、なんの? 占い師の弟子やんだぜ! って吹聴しちゃってたし。

 でも占い師の弟子って何をやるの? って言われて、掃除! ってもう言いたくなかったし。


「で? で? なにやるの?」


 もうわくわくが止まらない。


 前のめりになり、ばあさんに詰め寄った。


「近い近い。無駄に体温が高い。サ―モグラフィだと赤い。プレデターに狙われやすい。とにかく座りな」


 つばをかけんばかりに近づいた俺を、ババアは迷惑そうに前に押しやり、テ―ブルを指差す。

 座れということだと思って、指を指されたテ―ブルの椅子に腰掛けた。

 ばあさんは興奮状態の俺の対面に座って、ぶら下げていた袋をガサゴソとやりはじめた。


「今から写真を出すから、その人の前世をあててみせふな」


 こちらを見ずにまだカバンをがさこそさせながら、ババアはいきなりちょっとやそっちょじゃ、出来ないことを言う。


「え……。なん。ぜんせなんてわからないよ……」


 当然、戸惑う俺。


「ふ……。私の修行を舐めるなよ。一週間とはいえ、私の修行をした今のアンタならわかるはずだ! 」

「……わかった!」


 勢いよい返事。俺の自信。根拠のない自信。

 バアさんの力強い後押しに、俺は、え、修行をしていたおかげで、知らないうちにこんな実力が……みたいな展開を予想していた。

 ジャンプとか少年誌でよくあるじゃん?


 強敵が現れたから、修行をすることになって、重りをつけて修行をし、その重りをはずすと、めっちゃ強くなっているみたいな展開。

 それと同じことを占いにも期待していたんだよな。


 ……掃除で。


「じゃあ、まずはコイツ」


 出てきた写真。見覚えのない人の写真。普通の太目の中年。


「これの前世の職業をあてな?」

「う―ん」


 正直、全然わかんなかった。

 見れば見るほど、普通のおっさん! 

 でも、答えないっていうのもおかしいし。

 あてずっぽうで言って、実際、俺の才能が開花していて正解ってパタ―ンもなくはない。

 そう思って、思ったことをそのままに口にした。



「おさむらいさん? 」



 ババアはそれを聞くと、こちらをじっと見た。


「……」

「……」


 沈黙が続く。


 こちらをバアさんがジッと見つめて、溜めた。



「ちが―う! 」



 こっちの気持ちを裏切る答え。

 修行の成果は? とは思わなくはなかったが、正解が気になった。




「え? じゃあ、なに?」







「タヌキ!」





 マジでババアそう言ったからね。

 面白くしようとか、一切ないからね!



「それ、しょくぎょうじゃないし、ぜったいわからないよ」


「次いくよ」




 当時の俺でもおかしいと思ってツッコミをいれたが、間髪いわず次に出てきたのは、ほそ―い気の弱そうな七三わけの眼鏡の人のバストアップ写真。




「これは?」

「う―ん。おいしゃさん? 」





「違う! 織田信長! 」





 鳴かないホトトギス切りつけるヤツが来世、こんな気の弱そうなおっさんになるか!


  というか職業違うし。




 次はバットを持ってネクストバッタ―ズサ―クルで見守る普通の野球少年の写真。




「ベ―ブル―ス?」







「近いなぁ、しかし違う! 長嶋茂雄!」



 ふ―ん。

 ……。




 長島死んでない!




 そんなやり取りをやった後、あえて言うけどそんなクイズ当たるわけなく、結果実力なしと判断され、レベル上げの作業に戻された。


 あんたもだいたい分かっているとは思うけど、無茶苦茶だろ? 俺の印象のバアさんの人となりは大体はこんな感じだった。

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