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ケモノミチ  作者: たびくろ@たびしろ
ヤマトノムラ編
2/176

二歩目

 そこは、随分と静かなムラだった。


「……なんか、面白いムラだなあ〜……」


 元々、この時代のムラというのは身内や仲の良い知り合いしかいない集落が大多数である為、さらにクニやムラ間の交流が皆無に等しい為、来客を迎え入れるなんて考えは初っ端から無い。もはや日も暮れ、夜になったという事もあってか、人は大多数が家の中に入っていた。


 キュリオはムラの入り口にいる門番に声を掛けた。まだ夜が始まったばかりだというのに大きな欠伸をしていた門番の男は、声に振り向きキュリオの姿を見ると、ハッと驚き彼に駆け寄った。


 やはり来客は珍しいらしく、門番の男は何をすれば良いのか分からないという風に慌てふためき、とりあえず近くに居た者に『ムラ長』なる者を呼ぶように言った。


 やはりこの門番の男も獣人であり、獣の耳と尻尾が見えていた。門番といっても仰々しい装備などはしていなかったが、一応のように槍は携えていた。


「ねえ、門番さん。このムラはなんて名前なの?」


 キュリオは『ムラ長』が来るまでの間、門番に色々尋ねる事にした。門番の男も気前良く、色々と話してくれた。


「このムラの名は『ヤマト』ってんだ」


 彼の話によれば、このヤマトというムラは面白い仕組みで成り立っているらしい。それは、ムラの長の次に重要な役職として、『巫女』というものがあるということ。


『巫女』とは神の言葉を聞く者であり、同じ一族の娘が代々受け継いでいる。現在の巫女の名はヒミという少女であり、齢16にして既に立派な巫女として役職を立派にこなしているという。


「16歳かあ、僕より二つ歳上だね」

「ってことは、坊主は14歳か。そんな子供が、どうしてこんなところにいるんだ? 見ない顔だし、まさかこのムラの出身じゃねえだろう」

「ふっふっふ、よくぞ聞いてくれました」


 その問い掛けにニヤリと目を細くして笑うと、キュリオはゴーグルの位置を直し、小さい背丈ながら胸を張り、声高々に言う。


「────僕はね、旅をしてるんだ! 僕の夢は、この世界全てを僕の『獣道』にする事なんだ!」

「『獣道』? なんだそりゃあ?」

「知らないの、おじさん?」


 胸を張ったまま、というか更に胸を大きく反らせ、キュリオはペラペラと説明しだす。


 ────獣道というのは、キュリオのような旅の獣人が通った足跡の事を言う。彼の父親は旅人であり、その事を幼い頃に教えてもらったのだ。

 彼の夢は世界全てを彼の獣道にすること。つまり、この世界を踏破しきるという事だ。


「すごいでしょ! 僕はこの世界を全部獣道にして、この世界の全てを知るんだ! その為に旅をして、もっともっと旅を続けて、そしてあの世界樹(ユグドラシル)の頂上に登るんだ!」

「ほーう、世界樹(ユグドラシル)ね。いいぞ坊主、俺はそういうデカい夢を持ったガキは大好きだ!」


 可笑しげに笑い、そして遂に大きく豪快に笑いながら、門番の男はキュリオの頭をガシガシと撫でる。しかし、彼はそれに満足できない様子で、


「もー! おじさん馬鹿にしてるでしょ! 僕がこの話したら、みんなしてそうやって笑うんだからあ!」

「馬鹿になんてしてない、俺は応援してるぞ!」

「馬鹿にしてる笑い方だよーッ!」


 軽めの装備をポカポカと叩くキュリオ。ガンガンという音すらならない軽い拳に、門番の男はますます大きく笑った。それを見て、キュリオは更に真っ赤な顔で鎧を叩いた。


「はっはっは、いいじゃないの。ガキはそんくらいデカい夢を持ってるのが一番……あ、ムラ(おさ)様」


 大きく笑っていた門番の男だったが、とある人物を見つけると、少しだけ笑うのを抑える。それに気付かずひたすらポカポカ鎧を殴り続けるキュリオだったが、不意にその頭にぽん、と掌を置かれる。


「?」

「ようこそ、ヤマトノムラへ」


 そこにいたのは、麗しい黒髪の女性。歳は20歳か25歳程に見える。白を基調とし、青色や赤色を織り交ぜたアクセントがあちこちに見受けられる高貴そうな服を着ていた。服の裾、袖共に長く、落ち着いたイメージを抱く。


「私はこのムラの『ムラ長』である、オキミと申します。よく来ましたね、旅人さん」

「僕の名前はキュリオ! よろしくね、オキミさん!」


 そう言い、キュリオは右の手袋を外し、彼女が差し出した手を握った。その細い手は過剰に白く、キュリオはなんだか違和感を感じてしまった。

 が、それを聞く前に、門番の男はキュリオの肩をバンバンと叩くと、その耳に小さく、しかし必死な様子で囁いた。


「…………(おい! オキミ様だろう! 無礼だぞ!)」

「え?」

「ふふっ、いいのですよ。彼は初めてここに来たのでしょう、知らなくて当然です。それに彼は来客ですよ」

「は、はあ……ムラ長様がよろしいなら……」


 門番の男は不服そうに頭を下げると、キュリオから離れた。キュリオはよく分からないまま、門番の男を眺めていた。が、その肩を、ムラ長であるオキミに引かれる。


「さあ、来てくださいキュリオ様。来客など滅多になく、ムラの皆をこの時間から集めるのも可哀想ですゆえ、大したおもてなしは出来ませんが……どうぞ、私の家にいらしてください」

「ありがとう、オキミさん! いや、ムラ長様の方が良いのかな? なんか門番のおじさんに言われちゃったし……」

「ふふ、どちらでも構いませんよ。……それより、あなたについて教えて欲しい事はたくさんあります。なにぶん、このムラは閉鎖的なもので……旅人なら、幾つものムラを見てきたのでしょう?」


 そうこう話しながら、オキミとキュリオ、そして彼女の従者に見える三人組程と共に、このヤマトノムラを進んでいく。ムラはあまり広くなく、樹木を切り倒し開けた平地に、その切り倒した木で作り上げた家を幾つも集めた様に見える。どうやら、この平地には小さな湖があるらしく、昔の人々がここに集まり、居を構えたのがヤマトノムラの始まりのようだ。


 家は木で作られており、支柱も屋根も、全て木材を使用してある。ここは森の中であるため木が大量に取れる。その為、このような木造建築が進んでいるのだ。キュリオが頼み込んで中を見せてもらうと、木で出来た小物や道具があり、中々幻想的で魅力的な文化だと思った。


 そんな事も交えながらキュリオ達が先へ進んでいくと、他の家と似ているが、なんというか雰囲気が違うような、そんな建物を見つけた。玄関には稲穂らしき植物が生けてあり、建造自体が既に他とは違う。

 とにかく家……というか屋敷の大きさは他の家の何倍もある。どうやらムラの皆で集まる集合場のような役割も兼ねているらしく、ただっ広い巨大な一間が外から見えた。

 そして、ムラ長であるオキミはその巨大な屋敷の玄関を開け、そこにすっ、と手をやる。


「どうぞ。なにぶん、使いもしないのに広い屋敷でございますから、お好きなところに」

「ここ、ムラ長様の家なの? すごい広いねえ!」


 キュリオは元気いっぱいに屋敷の中を駆け回ると、とある場所を見つけた。

 庭に開けた渡り廊下であり、床が高くなっている為、そこに腰掛ける事が出来る。涼しい風が舞い込み、空を見上げれば綺麗な満月が彼らを照らしていた。


「ふふっ、綺麗だなぁ」

「そうですね……。そうそう、ちなみにここは役所や神殿の役割も兼ねているのですよ?」


 その言葉に、キュリオは少し気になる単語を見つけた。


「神殿? そういえばさっき門番のおじさんが、このムラには『巫女』がいるって言っていたけど、それってどういう事なの?」


 それに対して、オキミはまあ、と驚く。


「キュリオ様は今までの旅で神を信仰するムラやクニに立ち寄った事は無いのですか? てっきり、こう言った事にはお詳しいとばかり……」

「そんな事無いよ。僕は旅を初めてから一年も経ってないし、今まで立ち寄ったムラも一つや二つくらいさ。殆どは森の中とかを歩き回っているんだよ」

「そうなのですか……旅人というのも、中々大変なのですね」


 労わるように飲み物を差し出すオキミ。どうやらキュリオが屋敷内を歩き回っていた時に用意したようだった。冷たい茶で、涼しい風が吹く夜には少し寒そうだったが、渇いていた彼の喉を潤すその液体は、キュリオを満足気な気分へと押し上げた。


 そして、彼は労わるオキミに笑顔で答える。


「確かにちょっと大変かも。でもね、その分だけ、いやそれよりもっともっと沢山の発見があるから、旅をするのは楽しいんだよ!」

「発見……ですか」


 それを聞くと、オキミは少し物悲しそうに空を見上げた。その意図がキュリオには分からず、ただ『?』と彼女を眺めていた。


「そ、そうだ! オキミさん、僕にこのムラの神の話を教えて欲しいな! これもきっと新しい発見の一つだからさ!」

「ええ、そうですね。まず、何から話したらいいのか……」


 キュリオに言われるがまま、オキミはこのムラに伝わる『神話』について語り始めた。

 ────それは、このムラを作り上げた青年『ヤマトタケルノミコト』の物語だった。

次の更新は今日の23時です!

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