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ケモノミチ  作者: たびくろ@たびしろ
ドゥーラン編
16/176

十六歩目

すいません、今日忙しくて投稿を忘れてしまいました! 本当に申し訳ありません!

「……僕もね、あんまり詳しい事は分からないんだ。チルフみたいに突然この力が使えるようになったんだよ」


 キュリオは頬杖をつきながら、自らの左手をじっと見つめる。

 その左手には白い手袋がはめられている。彼の両手にある手袋の手の甲には、結晶のようなものが埋め込まれており、その中には本当に小さい木の欠片が入っている。

 そう、まるで琥珀に閉じ込められた昆虫の化石のように。


「旅に出て少し経った時かな。最初に入ったムラで盗賊の集団に襲われたのさ」


 その言葉を聞いた瞬間、チルフの心臓がどくんと跳ね上がり、その肩がびくんと波打った。


(あたしも同じ事してんじゃん……!)

「散々逃げ回って、もうダメだって思った時に、たまたま背中を付けたのが木製の家だったのさ。その時に手も触れていて、勝手にその家が巨人の形に変わっていったんだ」

「それで、盗賊を倒したんですか?」


 ヒミが聞くと、キュリオは首を横に振る。


「そんな事しなくても、巨人を見ただけで逃げてったよ。家の人には滅茶苦茶怒られたし、ゲンコツも喰らったけどね」


 ふふっ、とヒミが彼の微笑ましいエピソードで笑みをこぼす。ヒミはこういう、彼の可愛らしい所が好きだ。


「でも、その後巨人は勝手に分解して、また普通の家に戻ったんだ。……つまり、木の巨人(ウッディン・ゴーレム)に使用した樹や木材は、元に戻るって事だね。あれ、何の話をしてたんだっけ?」


 はー、と溜息を吐くチルフ。結局の所、分かった事は何一つ無い。この力が何を条件に現れたのかは、彼にすら分からないという事だ。


「あんたがどうやって力を手にしたかの話だよ。……でも、どうやら無駄だったみてーだな。結局、何も分かっちゃいねーし」

「役に立てなくてごめんね。……いやあ、それにしても驚いたよ。僕と同じ様な事が出来る人が居ただなんて」

「こっちの台詞だよそいつは。あたしがスピードに特化してるのに対して、あんたはパワーに特化してるって感じ。こんなそれぞれの個性みたいなもんがあるなんて、こりゃあ世界中探せば他にもいるんだろうな」


 遠い目をしながら、彼女は呟く。それは、まるで遠い何かを諦めたような、そんな瞳だった。


「……探してみたいよなあ。こんな偏屈なクニなんかに留まってねーで、もっとデカイ事してみてーよ。ひったくりだの何だのとセコイことしないでさ」


 その表情から何かを感じ取ったキュリオは、ある提案をする。



「チルフ、僕らと一緒に旅に出ない?」



「え?」


 ぽかん、とした表情を浮かべるチルフ。少し間を置いてしまったその空間を、なんとも言えない空気が支配する。

 一方、少し焦っていたのは、ヒミであった。


「……(き、キュリオ! この子は窃盗団の人間ですよ⁉︎ 何馬鹿な事を言って……!)」


 ひそひそと耳打ちするヒミ。しかしキュリオは『なんで?』と言った表情を浮かべたまま、チルフの方へと振り返る。


「すごいんだよ、旅は。知らないものとかたくさん見れて、見たこともないような職業の人や景色なんかも好きなだけ観察する事が出来るんだから!」

「……ふうん」


 コツコツとテーブルを指で叩きながら、少し考える風な仕草を見せるチルフ。妹のルーシーは傍らで『お姉ちゃん?』と首を傾げるが、彼女はその金色の髪をくしゃくしゃと撫でると、視線をキュリオに戻して告げた。


「……悪くない話だけど、それは無理だ。あたしにはルーシーがいる。こいつの面倒も見てやらなきゃいけねえし、何より……」


 指を組み、両肘をテーブルに突いた彼女は、静かにある人物の名前を出す。



「────……ベルドさんに申し訳が立たねえからな」



「ベルド、さん?」


 ヒミが首を傾げる。初めて聞いたその名に、キュリオも同様の反応をする。

 ああ、まだ聞いてねえのか、とチルフは瞳を細め、指にグッと力を込めながら説明しだした。


「ベルド・ガルノフ。『ドゥーラン窃盗団』の頭領の名前さ。あの人はあたし達を救ってくれた。その恩に報いる為には、このクニを離れるわけにはいかねーのさ」

「恩って?」

「……ベルドさんは、あたし達の様な孤児や路頭に迷った子供を匿って回ってくれているのさ。そして、その中でベルドさんに報いたいと思った奴らが『ドゥーラン窃盗団』に入る。団員は20人ってとこだし、大抵の奴らはそのまま団に入るのを拒むけど、ベルドさんはそんな奴らにも住む場所をくれるんだ」


 ベルド・ガルノフ。

 年齢は40代後半。チルフの説明した通り『ドゥーラン窃盗団』の頭領であり、同時に明日に困っている子供達を救っている、いわば義賊というものである。十数年前にここドゥーランの街に流れ着いた。

 彼が率いる『ドゥーラン窃盗団』は、団員20名程。狙うのは決まって金持ちや商人達で、その中でも仕事を一番こなしているのがチルフ・シーロウバーだった。


「あの人は英雄さ。食う事すら出来ないあたし達を拾ってくれた。住む場所もくれた。だからあの人の役に立って、あの人の武器になってやりたいんだ」

「そうなの! あの人は私達を助けてくれたんだよ!」


 妹のルーシーも加わる。

 だが、その流れを打ち崩すように、



「でも、やってる事は窃盗やひったくりでしょう。チルフ、そのベルドとかいう男はあなた達を利用して、自らの私腹を肥やしているように思えますよ」



 きっぱりと、ヒミが宣言する。

『え……』と声が途切れるルーシー。それを掻き消すように、チルフの歯軋りが響き渡る。


「ああそうさ、確かにあたし達はあの人の駒にされてるかもしれない。でもそれでも、あの人があたし達を助けてくれたっていう事実は変わらない。お袋が死んで餓死しそうだったあたしとルーシーを救ってくれたのは、間違いなくベルドさんだったんだ!」


 声を荒げ、バンッ‼︎‼︎ と机を叩きつけながらヒミを睨み付けるチルフ。しかしそれでも、ヒミは動じない。


「分かってるんですか? あなたが、あなた方窃盗団一味が行っているのは『犯罪』。『罪』を『犯』すと書いて『犯罪』なんですよ? いくらあなた方が救われたといっても、あなた方が窃盗する事によってお金を失った人達は、食べる事も、故郷に帰る事も叶わないまま困ってしまっているんです。いえ、場合によっては……」


 チルフに負けない程。

 ギロリとその琥珀色の瞳をチルフに突き付け、鉛よりも重い言葉でこう告げる。



「……あなた方が盗む事によって、盗まれた人達を殺してしまっているかもしれません」



 何故ここまで強い言い方をするのだろう、とキュリオは不思議に思えて仕方がなかった。

 確かに彼女らが行っている事は許されない事だ。それが直接死に繋がる人達も居たかもしれない。


 だが──こう言うのは余りにも人間味に欠けるのだが──所詮、他人事ではないのだろうか。ヒミに直接何か関わりがあるわけでもない、知らんぷりをしていれば巻き込まれる事の無い問題なのに。

 なのに何故彼女は、ここまで突っ掛かるのだろうか。


「くっ……で、でも! 金持ちや商人なんて所詮あたし達の事なんてゴミみたいにしか思ってねえんだ! ……そうさ、あたし達を救ってくれる人なんざ、ベルドさんしか居なかったんだよ‼︎」

「自分の利益にすらならない人間を救う人間が、一体何処にいるんですか? むしろ負担が増えるのを承知で養えなんて、あなた達も中々傲慢ですよね」


 あくまで冷たい瞳をぶつけるヒミ。


「でも、ベルドさんは……!」

「だから言っているでしょう。そのベルドという男は、あなた達を自分の駒にする為にあなた達を救ったんです! 『自分の利益になると思った』から、あなた達を救ったんですよ!」

「ひ、ヒミ姉……流石に言い過ぎじゃ……」

「キュリオは黙っててください!」

「すいませんっ」


 一喝されてしまい何も言えないキュリオは、その口論をひたすら観察するしか出来なかった。


「でなければあなた方みたいな孤児なんて、拾うはずがないんです! そんな聖人君子みたいな人間なんて、存在するわけがないんですよ!」

「ぐっ……で、でも!」

「でも、なんですか?」

「……でも……」

「ほら、言い返せないでしょう? ……別に、あなた達を馬鹿にしてるわけじゃないんです。そのベルドという男が、あまりにも胡散臭いから言っているんです!」


 涙目になりながら、それでも必死に反論しようとするチルフ。一方、ヒミは無表情のまま、その瞳をチルフから離さない。


「疑ってみてください、そのベルドって人を。でないと、いつか彼が本性を見せた時、二度と立ち直れなくなりますよ」


 ────勢い良く、椅子が引かれる。チルフはそのまますぐに立ち上がり、ルーシーの手を取ると、歯を食いしばりながら部屋を出て行った。

 それでもなお、ヒミの表情は冷徹さを保ったまま、変わる事はなかった。

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