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ケモノミチ  作者: たびくろ@たびしろ
ドゥーラン編II
144/176

一四四歩目

 静けさは取り戻された。


 チルフとアルフレイドは、お互いを見やりながら告げる。


「まったく、荒療治もいいとこだ」

「てめーこそ、カッコつけてんじゃあねえよ」


 乱雑な言葉と共に、笑みがこぼれる二人。 お互い既に吹っ切れ、やらなければならない事も見えた。


 二人は全てを終え、近付いてから──その拳をぶつけ合い、小さく笑んだ。


「リディ! お前たち!」


 そんな中、剣も捨て、チルフの倒したリディや団員に駆け寄るネブラ。心配そうにする彼女に、チルフとアルフレイドは告げる。


「大丈夫、気絶してるだけだぜ。きっとちょっとすりゃあ目が醒める。────そしたら、話を聞いてやってくれ。んで、一緒に考えてやってくれよ。これから先、てめえらがどうすればいいのかをよ」

「…………!」

「さっきも言った通り、君達にはまだやれる事は幾らでもある。働きで償うもよし、正当なら自首するもよしだ。君達はまだ子供、命を取られる事もないだろう。────役人の勉強をしていたからな、そこは安心してくれていい。頭に入っている」

「おっ、インテリアピールかよ。カッコいいねえ」

「君の頭が悪過ぎるだけだ。家事が出来るだけに残念だよ、まったく」

「んだとお?」


 チルフはアルフレイドに食って掛かるが、その実表情は笑ったままだった。アルフレイドもまた、同じ様に笑顔を浮かべていた。


 そんな様に、ネブラはどこか憧れのような感情が生まれるのを感じていた。陽の目を浴びて生きる、誰かと笑いあえる、そんな存在に。


 ふとその時。




「────お姉ちゃん!」




 チルフの耳に、聞き覚えのある少女の声が届く。


「!」

「やっと……見つけた……!」


 ぜい、ぜい、と息を切らすその少女。


 髪は金色、瞳はエメラルドグリーン。背は小さく、尻尾は誰かと同じ様にもこもことしていて大きい。ただ違うのは、年齢とそのお淑やかさだけ。


「……ルーシー? お前どうしてここが……」

「お姉ちゃんの馬鹿! 馬鹿馬鹿馬鹿!」


 チルフが首を傾げる間もなく、彼女へと抱きつくルーシー。彼女はもちろんチルフの妹だ。今は──どうなのかは分からないが。


「やっと見つけたんだから! なんで居なくなっちゃったの? すごく心配したんだよ……?」

「……それは。それは、お前や団のみんなに幸せになって欲しかったから……あたしが罪を被れば、それで良いかと思って……」

「そんなのやだ! お姉ちゃんが一緒にいなくて……私、寂しかった! コルくんもジェイスくんもグルダちゃんも、……みんな、寂しがってる!」


 お腹が、何だか熱かった。それは、ルーシーの瞳から溢れる涙のせい。そして、余りにも懐かしい家族の温もりによる心象のせいでもある。


「あ、姉御!」

「コル! お前まで……って、お前ら……!」


 チルフは、思わず驚愕せざるを得なかった。




 ────そこには、チルフが率いていた団のみんなが居たのだ。誰もが皆一様に、涙を浮かべている。




 彼らは全員、表情を歪ませながら、チルフに駆け寄ってくる。それぞれが口々にチルフの名や姉御、姉貴とやらと叫びながら、再会の喜びに耐えきれずに抱き付いてくるのだ。


「姉御ォ、なんで居なかったんすかぁ!」

「俺たち、めっちゃ心配して……!」

「処刑されそうになって、その後どっかに行ったって……僕達、帰ってくると思ってたから……!」

「──……お前ら……」


 そんな彼らに、貰い泣きすらしてしまうチルフ。やっと触れ合えたその温かみが、チルフの冷めていた心を、完全に温まりきっていなかった心を、ゆっくりと熱し切ってくれた。


 そんなチルフを傍目に見ながら、アルフレイドは向こうを向く。満足そうな顔をしながら、少しからかう様に彼は言う。


「よっぽど信頼されていた様だな、幹部様」

「……よせやい、恥ずかしいだろ」

「そこまで懐かれるなんて、余程君が彼らを想っていた証拠さ。巡り巡ってくるもんさ、親切や思いやりというものはな」


 この温かみは、今までチルフが彼らに与えていたモノが返ってきたというわけだ。そう告げるアルフレイドに、チルフは頬が熱くなるのを感じた。


「お姉ちゃん、なんで顔赤いの?」

「なっ、別に赤くなってなんか……!」

「あとこの男の人誰? お姉ちゃんの知り合い?」

「きっと彼氏だぜ、ルーシー! いやあ、やっぱり姉御は違えや!」

「なっ……てめえコル、ぶっ飛ばすぞこんちくしょう!」


 コルへと殴り掛かるチルフ。それを苦笑いしながら見やる元ドゥーラン盗賊団の皆。まるでその瞬間だけ、昔に戻ったかの様だった。何があっても団の中だけは明るくしようという雰囲気。それが、今だけは戻ってくれていた。


「ったく……」

「おぶぅ……いてて」

「だ、大丈夫? コルくん」

「にゃっ、なんでもねえよ! 大丈夫だって……!」

「んん~? お前だって……、まあいいや。丁度いいや、ちょっと聞いてほしいことがあるんだよ、お前らに」


 みんなの背の高さに屈み込み、優しい声で語り掛けるチルフ。この細かい気配りが、やはり信頼を集める理由なのだとアルフレイドは思った。


「あたしはさ、夢が出来た。ホントはさ、何も出来ない自分が恐くなってこのクニに戻ってきたんだよ、あたしは。でも、やりたい事が出来たんだ」

「え? お姉ちゃん、ここにずっと居ないの?」

「……ああ、悪りぃけどな。やり残した事があるんだよ。あたしは尻尾巻いて逃げ出しちまったのさ、お前らの幹部のクセしてな。でも、今度はそれをきっちり終わらせてくる。そんでまた、お前らに顔見せにくるよ」


 温和なその表情に隠れた決意は、けれど子供達を警戒させることはなかった。彼らとチルフの間の信頼が、それを緩和してくれていた。


「……悪りぃな、ルーシー。姉ちゃんもさ、仲間が出来たんだ。学校で友達が出来たお前みたいに、あたしにも大切な、背中を預けられる仲間がな。だから、そいつらの為に力を貸してやりてえんだ」

「……うん、分かった。私、待ってる」

「ああ、ありがとな」

「姉御、俺も待ってるぜ!」

「コル……」


 俺も、僕も、私も、というように、後から続いて団の全員がチルフへと笑いかける。彼らは皆チルフを信じていて、チルフもまた彼らを信じていた。


 今までは彼らがチルフを助けてくれた。家事は彼らへの世話で覚えたし、精神的な助けも彼らが居てくれたからこそ。けれど、これからは何でも一人で決め、一人としての力を、誰かを笑顔に出来る、しかも振り回されないような己自身の力を手にしなければならない。


 けれど。


 誰かが待ってくれていると、そう思い続けるだけで随分と心が楽になるものだと、彼女はようやく気がついたのだ。




「────ああ。ありがとな、お前ら!」




 親指を立て、彼らを安心させるように、感謝の意と共に出したその声は、どこか自分の助けにもなった。


 だからチルフは、また立ち上がる。そして傍らのアルフレイドと共に、逃げ出した道に再び脚を付ける。


 チルフとアルフレイドは荷物を拾い、廃墟の更に奥へと進む。そしてチルフはドゥーラン盗賊団の元団員達に手を振り、こんな事を託ける。


「コル! ルーシーをよろしくな! お前なら大丈夫だって信じてるぜ!」

「えっ、それって……!」

「早いとこ勇気出せよ! くひひ」

「あ、姉御……! ありがとうっす!」

「どしたのコルくん、顔真っ赤!」

「あ、え、いや、その……!」


 悪戯心にそう告げたチルフの顔は、あまりにも満足気だった。


「……よかったよ、いつもの君に戻ってくれて」

「んだよ、変な事言うな」

「いや、別に。ただこのクニにいる間の君は、ずっと恐い顔をしていたからな」

「……どうして、そんな事が分かんだよ?」

「前にも言わなかったか? 君はいつも笑っているから分かりやすいんだよ」


 そう告げるチルフに、ぽん! と顔を赤くするチルフ。そういえば確かに、前にもこんな事を言われた気がする。その時も確か、今みたいに胸の奥がドキドキしたのだったか。


 これじゃあコルの事を言えないな、なんて思ってしまうチルフ。


「……とまあ、冗談は置いておいて」

「じ、冗談って」

「お目当の相手が来なかったが……何故だと思う?」

「気ィ利かせてくれたんだろ? そこまで時と場所をわきまえられない奴らじゃあねえよ。俗にいう武人って奴らならな」


 両手を頭の後ろに回し、何の気なしにそう言うチルフ。その言葉に、妙に納得してしまうアルフレイド。


「まあ、そうかもな。彼らなら」

「ほら、あそこで待っててくれてらあ」


 最早団員達も見えず、クニの端まで来た彼ら二人。


 廃墟の奥にある西の出入り口は商人達も気味悪がって少数の商人以外ほぼ使わないという。更に最近は『ペディベルド』も荒らしていたせいか、少数の商人にすら使用されていない。


 そんな場所に立っているのは────あの二人。


 獣の頭を持った筋骨隆々な剣士と、金色の髪を一つに縛った青年女性。


 そう──ブレイアと、レビルテだ。


「やあ、大変だったみたいだね」

「生憎な。まあ、手間取りもしなかったけどよ」

「ふん、抜かしおるわ。それで、結論は出たのだろうな? 我らと共に来るか、それともここで終焉を待つか──……まあ、既に決まってはいるようだが」

「ああ、言われるまでもない」


 チルフとアルフレイドは腰からナイフ、背中から長剣を抜き、その切っ先を彼らへと向ける。


 そして、告げる。


「俺たちはどちらも選ばない」


 その青年は、勇気を振りかざし。


「ここでお前らを倒して、キュリオ達のところへ戻る。そして全てを終わらせに行く」


 その少女は、未来を見据えていた。


 そんな彼らに、レビルテは大剣を取り出し、木製の義手の具合を確かめながら告げる。


「ふん、まあ貴様らの事だ。どうせ選択肢を用意したところで、貴様らはその枠に囚われぬに決まっている。なんといっても、無理を無理と知って押し通す男がいるからな」

「君達が私達に刃向かうというなら、選択肢の外を選ぶなら、ここで潰せ。──そうダリオに、レビオン兄さんに命令されたんだよね」

「なれば剣を振るおうぞ、ブレイアよ。此奴らの覚悟は既に出来ている。応じなければ剣士として恥というものよ」

「ええ、もちろんですレビオン兄さん。私もそう思ってましたから。ってな訳で覚悟してもらうよ、二人とも」


 双剣の一つを突き出すブレイアと、太陽の光を吸い込むような大剣をかざすレビルテ。彼らの覚悟も表情もまた、彼らと同じ程に強大だった。


 そんな彼らを見やり、獰猛な笑みを浮かべながら答えるチルフとアルフレイド。




「────望むところだ」

「あたしらの邪魔は、誰にもさせねえ────!」




 決意に満ちた四匹の獣が、ここにて激突しようとしていた────。

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