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蒼藍のラプターズ  作者: しろくろ
第一章
4/5

クレーエ三課

 翌日、目を覚ましたアイの目に映ったのは、木目の天井だった。一メートルもない先にあるその天井に、アイは内心首を傾げる。だが、すぐに自分が寝ぼけていることに気づいた。

(そう言えば、二段ベッドだったっけ……)

 天井だと思っていた木目は、二段目の底だった。

 天地に勤務するものは、社員寮への住み込みが可能になる。寮費が格段に安いため、入寮を希望するものは多かった。唯一の短所は――人によっては長所かもしれないが――二人一組のルームシェアということだ。

 アイは幸か不幸かまだルームメイトがおらず、気ままな一人部屋暮らしだった。

「ん~、起きようか」

 よっこらせと身体を起こそうとする。だが、アイの全身に激痛が走った。

「いぎゃああああぁぁぁ!」

 その朝、筋肉痛によるアイの叫び声は、多くの社員の目覚まし時計になったという。


「う、ううう、つらい……」

 ぎしぎしと軋む体に鞭を打ち、アイは何とか食堂へやってきた。筋肉痛の原因は間違いなく昨日の訓練によるものだろうが、何しろ初めての飛行だったのだ。普段使わない筋肉を使ったのだろう。券売機で味噌汁とご飯の食券を買うという動作ですら、激痛と戦う必要があった。

「あ~、いいにおい」

 故郷の香りを楽しみつつ、アイは座れそうな席を探す。やはり食堂は人気なのだろう、食事スペースは多く取られているものの、ほとんどが埋まっている。人口密度もかなり高い。ラプターとは言え女性は女性。話し声がかなりにぎやかだ。

 ようやく空いている席を見つけ、悲鳴を上げる体を説得しつつ腰を下ろす。

「いただきます」

 そう、手を合わせた時だった。

「何じゃ、どこも空いておらんの」

 不意に近くで声がした。割り箸に伸ばしかけていた手を止め、アイは声の方を振り返る。そこにはレモン色の髪をした女性が立っていた。長手袋をして手でお盆を持っている。

 ふと、その女性と目が合った。よく見ると、その女性の顔つきはそこまで大人びていなかった。アイと同じくらいか、下手をすると年下かも知れない。

 その女性もとい少女はしばらくアイを観察するように見つめ、そして顎でしゃくった。

「そなた、新入りじゃな。その席をわらわに譲れ」

 アイは周りの人たちを見回す。その誰もが露骨に目をそらしていった。

「聞こえなんだか? そこを譲れと言うておるのじゃ」

 二度そう言われてようやく、アイは自分が話しかけられているのだと気づいた。

「わ、私ですか!?」

「他に誰がおる」

「そんな、いきなり席を譲れなんて、むちゃくちゃですよ」

 アイとしては当然の抗議だった。いや、世間一般で見ても当然そう言うだろう。だがここは普通の世間ではなく、相手も一般人ではなかった。

「口答えするのか? 新入りのくせに生意気じゃな。名は何という」

 人に名前を尋ねるときは云々という言葉が脳裏をよぎったが、相手は先輩のようだ。反発するのは得策ではないと判断し、アイは素直に答えた。

「遠野アイ、です……」

 トオノ、トオノ、と相手の少女は思案するように名前を繰り返す。そしてぽんと手を打った。

「ああ、そなたがあのシュトラウスに配属された新人か」

「シュトラウス?」

 聞き覚えのない単語だ。少女はにやりと笑って答える。

「そなたたちクレーエ三課のあだ名じゃよ。ろくに飛ぶこともせずぐうたらしておる、のんきな駝鳥じゃ。賭け事が趣味の性悪狐に、酒ばかりのんでおるぐうたら虎。せわしなく駆け回っておる分、駝鳥の方が勤勉やも知れぬな。ふ、貧相な顔と胸のそなたにはお似合いじゃ。田舎くさいミッソスープなどお国も知れる。庶民は庶民らしく床に座って食べておれ」

 初対面でいきなりここまで言われる筋合いはない。さすがのアイもかちんと来た。

 ここでさっさと席を譲っていれば、面倒なことにはならなかったはずだ。だが、いきなりの誹謗と低血圧ゆえの思考低下、そして味噌汁をバカにされたことがあだとなり、ついアイは呟いてしまった。

「自分だって貧相な体のくせに」

「何じゃとォ?」

 少女の眉がつり上がる。

「今何と言った貴様」

「さあ? ご自分の胸に聞いてみればよいのでは? 聞く胸があったらの話ですけれど」

「ぐ、ぬぬ……生意気な口をききおって……わらわを誰だか知ってのことか」

 知っているもなにも初対面である。ぷるぷるとアイは首を振った。

「よかろう! ならば心して聞くがよい!」

 少女はお盆をテーブルに置いて腕を組み、片手で勢いよく髪をかきあげた。貴族っぽいポーズだ。

「わらわはオーデュスティーヌ=マリー=ジョルジュ・ド・トゥルーズ・ロートレック! ジラルデ大陸はヴォルチェ帝国にて帝下十二貴族である、トゥルーズ・ロートレック家の末娘じゃ! 頭が高い!」

 ミュージカルの一幕がごとく口上が述べられたが、アイは国名しか頭に入らなかった。ヴォルチェ帝国と言えば、皇帝が国を治める絶対君主制の国だったはずだ。そしてそれを支えているのが、オーデュスティーヌの言った、帝下十二貴族と呼ばれる十と二つの大貴族だち。

 つまりこの君は、末娘とは言えかなりのやんごとない身分に違いない。今更ながら、アイは面倒な人に捕まったと内心ため息をついた。

「お、おーでゅ……え? え?」

 そして、肝心の名前はさっぱり頭に入っていなかった。

 困惑しているアイに、オーデュスティーヌは片眉をつり上げる。

「そなたまさか、わらわの高貴なる名前を聞き逃したわけではあるまいな?」

 ひくっ、とアイはのどの奥で変な音を鳴らした。

「……わらわの名を言うてみよ」

「えっ」

「わらわの名を言うてみよと言うたのじゃ」

 だらだらとアイは冷や汗を流す。

「どうした、ほれ」

「お……」

「ん?」

「おー、ちゃん」

 冷や汗まみれの顔で、アイは満面の笑みを作った。オーデュスティーヌが額に青筋を浮かべたのは言うまでもない。

「おーちゃんじゃとォ? ふざけた態度をとっただけではあきたらず、わらわの名まで侮辱するか。……よかろう」

 オーデュスティーヌが手袋いだ。観衆がざわめく。この流れで貴族が手袋を脱ぐ理由はひとつしかない。

「新入り、貴様に決闘を申し込む!」

 オーデュスティーヌは縫いだ白手袋をアイに投げつけた。そう、これは決闘の合図だ。手袋を投げつけ、それを相手が受け取ると承諾となる。

 が、アイは顔に向かって飛んできた白手袋を、反射的にかわしてしまった。

 ひらひらと舞い、ぱすんと情けない音を立てて床に落ちる白手袋。投げたオーデュスティーヌもかわしたアイも、二人に注目していた周りのラプターたちも、一言も発さない。

「貴、様……」

 重苦しい沈黙を破ったのは、それよりも重苦しいオーデュスティーヌの呟きだった。心からの怨嗟がその呟きに込められ、それでも足りない分は涙となってじんわりとまなじりに浮かんでいる。

(し、しまった!)

 よけてしまったのは無意識だったが、アイはその行動を悔やんだ。慌てて落ちた手袋を拾い上げる。

「ほ、ほら、拾いましたよ! だから泣かないでください!」

「ぐすっ、泣いてなどおらぬわ! ともかく決闘じゃ!」

 周囲がわっと盛り上がった。まるで示し合わせたかのようにテーブルやイスを動かし、アイとオーデュスティーヌから離れていく。あっという間に、対峙する二人とそれを囲むオーディエンスという構図ができあがった。

「いいぞ~!」「やれやれ~!」「アイ、一撃でやられちゃだめよ~」というのんきなかけ声まで飛び交い始める。

「何ですかこのノリ! ていうか最後のって……」

 声のした方に目をやると、見覚えのあるブロンド女性が酒瓶を手にしていた。

「こちらに直接被害が来さえしなければ、お嬢の暴走は見ていて楽しいんだもの」

 そんなことを言いながら、フリーダはころころ笑う。そしてその向こうでは、やはり見覚えのある人がチップを集めていた。

「今のところ、オッズはお嬢が一.二倍、新人の遠野アイさんが三.六倍ですわ。さあさあ、もう締め切りますわよ~」

「リュゼさんまで!」

 胴元と化したクレーエ三課課長。ろくでもない上司たちである。アイの胃がキリキリと悲鳴を上げた。

「得物を!」

 そうオーデュスティーヌが声を張り上げると、盛り上がる観衆からほうきが投げ込まれた。それを右手で受け取ると、オーデュスティーヌは半身に構える。

「どうした、丸腰でよいのか?」

「いや、決闘なんてやめましょうよ! 席なら譲りますから!」

「今更遅いわ! わらわを侮辱した罪は重い。本来ならギロチンにでもかけるところ、そなたの顔も立ててやっておるのじゃ。さあ、誇りあらばかかって参れ!」

「でも……」

「来ぬのならわらわから行くぞ!」

 言い終わるのとオーデュスティーヌがほうきを突き出したのは同時だった。アイは反射的にそれをかわす。

「ほう、どんくさい顔をしておると思っておったが、多少は武道の心得があるようじゃの。面白い!」

「私は面白くないですうう!」

 涙目で叫びつつも、アイは次々と繰り出される刺突を紙一重でかわす。

 オーデュスティーヌは攻撃をやめ、いったん距離をとった。

「ふん、柳を相手にしておるようじゃ。確かに面白うないの。誰ぞ、こやつにも得物をやれ!」

 呼びかけに応じ、観客の一人が長ぼうきを放り投げた。普通のほうきでないのはハンデのつもりだろう。

「もう、知りませんよ!」

 逃げることもできなければ決闘を反故にもできない。仕方なくアイは腹をくくることにした。飛んできた長ぼうきを受け取り、感覚を確かめるように数回振り回して半身に構える。

「ほう、見たことのない構えじゃ。トオノといったか、大和の武術じゃな? じゃがしょせんは片田舎の武。わらわの高貴なる剣技にはかなうまい!」

 オーデュスティーヌの言葉には絶対の自信が込められていた。そして彼女の剣技を見る限り、その自信は単なる虚勢ではない。繰り出される刺突は、鋭く速くアイに襲いかかる。

「どうした新入り! せっかくの長物も、懐に入られると意味をなさぬようじゃな!」

 傍目に見てもアイの劣勢は明らかだった。鋭い刺突に対応しているのは評価できるが、まったく反撃に移る余裕がない。

「フハハ! そうしておるのも疲れるじゃろう。そろそろ引導を渡してやろう!」

 大きく振りかぶるオーデュスティーヌ。その一撃で決まると、観衆の誰もが思っただろう。だがその大振りこそをアイは待っていた。

「とどめじゃ!」

「そうはいきません!」

 繰り出された刺突を、アイは柄の部分で受け流す。そして同時に長ぼうきを振りかぶった。

「しまっ――」

 刺突に体重を乗せていたため、オーデュスティーヌは体勢を崩していた。アイの動きに対応できない。

「あだだだだだだだ!」

 だが次の瞬間、悲鳴を上げていたのはアイの方だった。腰に電流が走る。すわ相手の特殊能力かとでも思ったが、何ということはない、ただの筋肉痛だった。

 激痛に耐えかね、思わず長ぼうきを落としてしまうアイ。

「お嬢、チャンスよ!」「いけー!」

 観衆の声援で我に返り、オーデュスティーヌはほうきを構える。だが、勝負を決定づける一撃は、闖入者の声によって放たれることはなかった。


「お前たち、何をやっている!」


 食堂に響きわたる大音声。決闘をしていた二人を含め、その場の全員が水を打ったように静まりかえり、声の主を見やる。そこにいたのは銀灰色の髪を束ねた女性だった。食堂の者たちを射殺さんばかりの眼光で睥睨している。

 アイはその女性に見覚えがあった。確か、昨日の入社式で訓辞を行った人物だ。つまり――

(――支部長!?)

 背筋が凍る。直立不動の体勢になったのは無意識だった。オーデュスティーヌも目に光が宿っていない。

 ふと、視界の端に上司二人が映る。二人とも、気配を消して去っていった。また胃がきりきりと痛んだ。

 支部長がヒールの音を鳴らしながら歩いてくる。アイとオーデュスティーヌの前に立つと、さらに強い光が眼に灯った。そして、短く言い放つ。

「二人とも、支部長室に来い」

 アイは泣きたくなった。


 支部長がきびすを返し、それに続いて決闘をした二人がとぼとぼと歩いていく。三人が去ったのを確認して、観客だったラプターたちもようやく緊張が解けた。

「私らはお咎めなし、だよね?」

「そうなんじゃない? あ~あ、決闘は引き分けかな」

 その会話を聞いていた一人が、思い出したように言った。

「あれ? じゃあ、掛け金はどうなるわけ?」

 リュゼにチップを渡したものたちが顔を見合わせる。その内の一人が、おずおずと手を挙げた。

「あの……ルナールから、勝負が終わったら開いてくれって言われたんだけど……」

 手紙だろう。皆が注目する中、その紙にはたった一文だけが書かれていた。

『勝負は引き分け、チップは親の総取りですわ(はぁと)』

 無駄に可愛らしい書体なのが、よけいに彼女らの神経を逆撫でする。

「あンの女狐えええぇぇぇぇ!!」

 誰かの叫び声が、食堂にこだました。


「あらアイさん、お帰りなさいまし。意外に早く解放されましたのね」

 ようやく支部長室から解放されたアイを、リュゼは小銭を数えながら出迎えた。フリーダは今日もついたての向こうにいるらしい。

「ううう、ヒドい目に遭いました。胃が痛い……」

 与えられた罰は、きっかり一時間のお説教と一週間のトイレ掃除。減俸などの罰がなかったのが幸いだった。そしてオーデュスティーヌは一度は渋ったものの、

「本国に連絡しようか」

 という支部長の一言により一瞬で涙目になっていた。ただ、支部長室を出た瞬間に、思い切り睨まれたが。

「さて」

 小銭を小さな金庫にしまい、リュゼは机の上で指を組んだ。

「突然ですがアイさん、天地にはいくつの部署があるかご存知ですか?」

「部署ですか? えーっと……」アイは指折り数える。「私たちのクレーエと、ヘルガさんたちのファルケ、あとはオイレとツークだったかと」

 確か、最初の研修で聞いたにはこの四つだったはずだ。

 よくできました、とリュゼはうなずいた。

「そう、その四つです。そしてそれぞれにいくつかの課がありますわね。私たちのクレーエ三課。ヘルガたちのファルケ二課と言った具合に。では、それぞれの役割は聞きましたか?」

 アイは首を振る。名前は聞いたが、その内容までは説明がなかった。

「では説明いたしましょう。まずオイレ()は、この天地の中枢を担っています。人事や予算の管理、私たちが真面目に働いているかという監査も行っている、目の上のたんこぶですわ」

 微妙に毒が混ざった。

「そしてファルケ()は、ニミジス出現に応じて邀撃を行っています。戦闘が前提の部署なので、血の気が多い脳筋が多いですわね」

 今頃、ヘルガ辺りがくしゃみをしているかもしれない。

「ファルケに対し、ツーク(渡り鳥)は旅客機や輸送機の護衛を主にした部署です。ニミジスと交戦しないこともあるので、安定を好む方々に人気ですわ。仕事の依頼も多いので、人数も一番多いです」

 そして最後に、とリュゼは自らの胸に手を当てた。

「私たちクレーエ()です」

 アイはごくりと息をのむ。自らが配属された部署だ。きっとやりがいのあるところに違いない。

「クレーエの主な仕事は――」

 リュゼはにっこりと微笑んだ。

「――他の部署の穴埋めですわ」

「穴、埋め?」

「ファルケにしてもツークにしても、時折その許容範囲外の仕事が舞い込むことがあります。その穴埋めをしているのが、私たちクレーエですの。何でも屋さんですわね。ああ、ちなみにオイレだけはほぼ独立していますので、そちらに関わることはありません」

「そう、ですか……」

 アイは複雑な気分になった。積極的にニミジスと戦うファルケ。民間人を守るツーク。そのどちらでもないが、どちらにもなりうる。それは果たして喜ぶべきことなのだろうか。

(ファルケやツークに人手が足りていたら、出番はないってこと? ……あっ)

 ふと、アイはオーデュスティーヌが言っていたことを思い出した。

「あの、この課はシュトラウスって呼ばれてるっておーちゃんが言ってましたけど、それってただ出番に恵まれていないだけですよね?」

 自分が配属された課がそんなわけがない。

 リュゼは優しく微笑んだ。

「もちろんですわ。考えてもみてくださいまし。アイさんが来られるまでは、この課はたった二人だったんですのよ? 出撃も制限されますわ」

「で、ですよね!」

「ええ、決して、出撃がかかりそうなときにわざと整備に入ったり、少人数を盾にするためにあえて新人を他に回していたり、むしろあえてこのポジションに収まるためにクレーエへの配属を希望していたりなんて、していませんわ」

「…………」

 アイの目から光が消えた。

「それはともかく、クレーエにはもうひとつ仕事があります。哨戒、ですわ」

「哨戒?」

 少しだけ光が戻った。

「簡単に言うと見回りですわ。多少の手当が出るだけなので今までしていなかったんですけれどね」

 やはりサボっていたのではないか。アイは少し不満げな顔になったが、リュゼは気にもとめない。

「ということで、本日は哨戒に参りたいと思います」

「え?」

 間抜けな声が出た。

「哨戒ってことは、ニミジスに遭遇する可能性もあるんですよね? まだ訓練を一度しただけなんですが……」

「心配いりませんわ。ニミジスと出会うことなど滅多にありませんもの。警察だってパトロールしますけれど、ぽんぽん犯罪と遭遇することなどないでしょう? 」

「それはそうですが……」

「なら善は急げです。早速参りましょう。なに、単なる飛行訓練で終わりますわ」

 リュゼは書類を書き始めた。哨戒申請書か何かだろう。

「そうですわ」

 不意に、書類に走らせていたペンを止めた。

「ニミジスと出会うか賭けませんか? 負けた方は、相手の言うことを何でもひとつ聞くということで」

「そんな不謹慎な……」

「いいじゃありませんか。さあ、アイさんはどちらにします?」

 どうやら断れる雰囲気ではないらしい。仕方なくアイは答えた。

「出ない確率の方が高いんですよね? なら出ない方に賭けます」

「あら、堅実ですのね。まあ、私はもともと出る方に賭けるつもりでしたけれど」

 薄く開いたリュゼの目が怪しく光る。

「賭け事はね、分が悪い方が面白いものですわ」

 リュゼの言葉に、アイは言い知れない嫌な予感を覚えた。

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