Viewpoint 幸成.
美鶴には、会社に辞表を出してくると言ったが、本当は、俺を轢いた犯人を捜したいのもある。とは言っても、情報がなにもない。
まぁ、もし俺がまだ生きているとわかったのならまた轢きにくるだろう。
家から会社まで自転車で45分くらいのところにある。
夜中に自転車を漕ぐのは、朝より清々しい……、肩の荷が下りたからかもしれない……。
会社に着いた。玄関には警備員が二人いた。社員証を見せると、
「どの部屋に御用が?」
「社長室です。辞表を出すだけなのですぐ終わりますよ」
「一応警備なので、同行させていただきます」
どうぞ、ご勝手に。
ものの5分もしないうちに会社を出ると、
「何事もなくてよかったですね」
「あなたが居たからですよ」
俺は警備員にそう言って、自転車に乗って会社から去っていった。
帰り道、俺は夜空を見上げた。
今日は星が多い。
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思わず涙が出てきた……。
この星空を見るのも最後……。
家族と見たいな……。
そんなことを密かに考えながら自転車を漕いでいると、家に着いていた。
「あっ、犯人……出てこなかったなぁ」
まぁ、いいか。
「ただいま~」
と言うと、
「「おかえり~~!!」」
美紗季と美鶴が出迎えてくれた。
「た、ただいま」
「どこに行ってたの?」
美紗季に聞かれた。
さすがに会社に行っていたとは言えない……。
「星空……を見てきたんだ」
「いいなぁ~、美紗季も見たい~!」
「よし! 行こう!! みんな来い!」
現在の時刻は23時59分。まもなく、10時間になる。
「わぁ~。綺麗だね! 美紗季」
「うん!」
2人とも今までにない笑顔だ。
「なぁ、写真を撮らないか?」
「「いいね~」」
シャッター設定を手動からタイマーに切り替えて、パシャリと音を立てた。
良い写真が撮れた。
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家に帰り、布団を引き、家族最期の睡眠を共にした。
午前7時 残り3時間で俺は、砂時計によって灰になる。
何をして過ごそうか……。
「パパ~! おはよう!」
「おはよう」
美紗季は元気だ。どこかに遊びに行きたいが、行った先で灰になるのは御免だ。
すると、
「ねぇ、あなた」
美鶴が声をかけてきた。
「どうした?」
「昨日の夜さ、写真撮ったじゃない? そん時に結婚式の写真撮ったかな~って」
言われてみれば、確かに撮っていない気がする。
「撮りに行かない?」
美鶴に誘われた。
「行こうか……、美紗季も一緒でいいよな?」
「当たり前でしょ!!」
というわけで、
人生最期の時間を、家族写真を撮ることに決めた。
結婚式場の近くに写真屋があった。開店時間は、午前8時からだ。
現在時刻は8時30分。もう開いているなんて、なんと良心的なところだ。
「すみません~、今大丈夫ですか?」
出てきたのは、男性店員だ。
「ご予約のお客様では、ないですよね?」
「えぇ、……予約しないとダメなのですか?」
店員はすこし困った顔をした。開店時間のすこし後に来ているはずなのに……。
「いえ、大丈夫ですよ。どうぞこちらへ」
さっきの困った顔はなんだったんだろうか?
「今日はどのようなご要望で?」
奥からプロカメラマンのオーラを放っていそうなおじいさんがやってきた。
「結婚式のような写真を撮りたいのですが……」
「なるほどですね……、ちょっとお前探して来い。倉庫にあるはずだ」
さっきの店員が探しに行った。
話を聴くと、あの人は新人らしい。
10分後、新人店員は、ウエディングドレスと白いスーツを持ってきた。
どうやらあったみたいだ。
「こんなんで、よろしいか?」
おじいさんが訊いてきた。
「構わないです!」
俺たちは持ってきてもらった衣装に着替えた。
「おぉ、お似合いではないか~」
おじいさんが言った。
結婚して10年が経つが、その時の写真が一枚も残っていない。
棄てたのではない。撮っていないだけだ。
その理由はない。気づいたら撮っていなかったのだ。
なんで撮っていなかったのだろうかと考えていたら、写真撮影が始まった。
「……なぁ、美鶴」
「こんな形でしかお前たちを幸せにできなくて申し訳ない」
すると、
「いいのよ。……私も生前ひどいことを言ってごめん。あなたのこともっと支えてあげればよかったわ」
「生前か……。でも、現在という時を美紗季たちに支えてもらっているから、ある意味お互いさまかもな」
「そうかもね……」
「パパ……、ママ……、」
美紗季はいつもと変わらない笑顔だ。
40分に及ぶ写真撮影を終え、いよいよ現像手続きに入る。
だが、現在時刻は、9時20分。現像完了の時には、俺はこの世にいない可能性が浮上した。
「あ、あの……現像が出来次第、ご自宅に送りましょうか?」
新人店員が言ってきた。
気が利くなぁ~。
「それでお願いします」
「では、お手数ですがこちらに住所と名前と電話番号をお願いします」
美鶴が書き終えると、
「では、お願いします」
と言って、お店を後にした。
家に帰ると、
9時50分になっていた。
「パパ~」
美紗季は帰ってきてから服の裾を離してくれない。
「これからもずっと美紗季のこと見守ってくれるよね?」
「当たり前だろ! 遠くから見守っているよ」
頭を撫でた。美紗季は、顔を赤めた。恥ずかしいのかな?
「最期はどこで迎える?」
美鶴に聞かれた。
「そうだな……。布団の中かな……。美紗季も一緒に入るか?」
「うん!」
と言ったと同時に俺の布団に入った。
俺も続いて布団に入り、時計を見ると、
10時になっていた……。
足のつま先から、サラサラと肉体の崩壊が始まっている……。
「なぁ、美紗季。寂しいか?」
「ううん、……パパがお星さまになっても見守ってくれるなら、美紗季全然寂しくないよ!」
「強くなったなぁ」
思わず涙が出てしまった。
「あなた、今日までお疲れ様でした」
美鶴が近くに正座をした。
「あぁ。……美紗季のこと、幸せにしてやれよ」
「言われなくてもするよ!」
2人とも頼もしい。
「ゆっくり、休んでね」
「そうさせてもらうよ」
と言うと、突然俺の唇に、美紗季の唇が当たった。というより、キスをしてきた。
「なんなんだ、いきなり!」
と聞くが、ニコッとした笑顔以外、なにも返ってこなかった。
「ありが……とう……」
この言葉を最期に幸成は、サラサラとした白い灰になった……。




