Viewpoint_幸成
俺の携帯に電話してきたのは、部長だ。
メリーゴーランド中じゃなくてよかったと密かに思っている。
「もしもし、伊村ですが」
「伊村君、休みの時で悪いが……、今から出勤なんてできないよね……」
出勤だと!? せっかく家族水入らずで遊びに来ているのに……。
「……申し訳ないのですが、本日は家族で遊園地に来ているので」
「そうだよね……悪かった」
「いいえ、こちらこそ、申し訳ないです」
というと電話が切れた。
なにか、いやな予感がする……。
でも、遊園地に来てまだ3時間しか経っていない。ここで会社に行ったら入場料金の元が取れない。それどころか、美紗季たちはどうやって帰るというんだ。
すると、1件のメールが来た。
Form: 美鶴
件名 : 無題
本文 :ジェットコースター なう
これだけですごく楽しんでいるのが、伝わって来る。
俺は、ジェットコースターはあまり好きではない。
と言うより、絶叫系が苦手だ。
でも、美紗季が乗ると言い出したら……断ることはできないだろうな。
小走りで美紗季たちの居るジェットコースターに向かうと
「あっ、パパだ!」
美紗季が俺のほうを指さした。
「おまたせ」
と俺が言うと、美鶴が
「誰からだったの?」
「部長からだった。……でも問題ないよ」
「そう、ならよかった」
美鶴もホッとした表情を見せた。
「もうジェットコースターは、乗ったの?」
と何気なく聞くと、
「これから乗るの! パパも乗ろう!!」
聞かなければ良かった……。
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翌日、出社をしてすぐさま部長のところに行った。
「部長、おはようございます。昨日は、すみませんでした」
「あぁ、伊村君、おはよう。いや~、悪かったね 休みの日に電話なんかして」
「いえ、……なにかあったのですか?」
と俺が聞くと
「ここじゃ、話づらいから、場所を変えよう」
「はぁ……」
連れてこられたのは、誰もいない喫煙ルームだ。
「……それで話というのだが、一昨日、うちの社員が1人退職してな。もちろん、会社に損害を与えてな」
「どういった損害を……?」
「今ここで具体的には言えないが、簡単に言うならば、顧客名簿を失くしたようなものだ」
「ただでさえ、人が少ないのに……」
「そうなんだ。それで、その穴を埋めるために電話をしたんだ」
俺が遊園地に行っている間にそんなことが起きていたなんて……。
「今、他の社員の給料を少し上げて頑張ってもらっている。君にもこれまで以上に頑張ってもらいたいが、君には娘さんが居るんだろう?」
「確かにいます。でも、会社のためにがんばります」
「そうか、悪いね」
帰宅すると、美紗季が走ってきた。
「おかえりー」
「ただいまー」
美紗季は相変わらず元気だ。昨日遊園地に行ったはずなのに。
「今日も楽しかったか?」
「うん!」
美紗季が元気よく言った。
俺はまだ、この時まで気づいていなかった。
これが美紗季の笑顔が見れる最後の時だと……。
会社に出勤すると、約2人分の仕事、雑用を含めてこなすことになった。
それに契約も取りに行かなければならない。
そんな生活を繰り返し気づいたら、朝7時出勤の夜11時帰宅の流れになっていた。
しかも週6勤務。
優に、労働基準法を超えている。社員募集をいろんなところにかけているのだが、なかなか応募に来る人がいない。
家に帰っても、美紗季たちは寝ているし、俺は、シャワーを浴びて寝る……の繰り返し。




