16 共鳴
「……っ、すでに思い出していたとは誤算です……!」
厳しい顔つきで治臣が光を放つキューブを破壊しようと刀を握る手に力をこめる。
刀がキューブに当たる度、バチバチと火花が散っていく。
やがてキューブの輝きが増し、刃を弾き飛ばした。
その威力に治臣自身も飛ばされ、弾かれた刀は持ち主の手を離れて地面に刺さる。
「――触るな!」
キューブに近づこうとした優希に治臣が叫ぶ。
いつもの丁寧さが抜けた口調に優希が驚いて彼を見れば、今にも泣きそうな表情を浮かべていた。
「キューブから離れるんだ! 触れば君は戻れなくなる……!」
口調の変わった治臣の姿が紅夜と重なって見えながら、優希は首を横に振った。
「先生に言われた後、私は答えを見つけました。――どんな思い出も忘れたくない。それが私の答えです!」
優希の言葉に応えるようにキューブは輝きながら形を変えていく。
眩しさに耐えきれず目を閉じてしまった少し後、キューブに触れようとのばしていた優希の手に触れる感触があった。
「――え……」
目を開けた優希は自分の右手におさまっている物をまじまじと見る。
それは、月が隠れているのに本体からキラキラと輝きを放つ、淡いオレンジ色を持った扇子だった。
(これって武器化……?)
突然のことに首を傾げるが、再度目の前に治臣が映り意識をそちらに向ける。
再び刀を構えた治臣が優希と向き合った。
「覚醒直後のメモリーズキューブは一番脆い時。破壊させてもらいます……!」
「わ……!」
振るわれる刀をとっさに避ける。
治臣の刀の扱いは素早く、そう何度も避けられる物ではないだろうと優希は体感してそう考える。
「ここはあなたの思い出の場所ですよ。その場所でワタシと対立して命を落とすことになってもいいのですか?」
たたみかけるように問いながら近づいて来る治臣。
じりじりと迫る彼から後退りながら優希は扇子を持つ手に力をこめた。
「死にたくないです。でも忘れたくもありません。だから私は生きて帰ります!」
「!」
優希は治臣の前で扇子を動かした。
すると強い風が起こり、治臣は飛び退いて空中へと避難する。
やがて巻き起こった風は空へと向かい、厚い雲を突き抜けていった。
「すごい……」
何かが起きるようにと祈りをこめた一振りは優希の予想をはるかに上回り、ポカンと扇子を見つめてしまう。
同じく威力に驚いた治臣は素早く我に返って歯を噛み締め、扇子を睨んだ。
「厄介な物だ。今ここで破壊しなければ……!」
「――そんなことはオレ達が絶対にさせない」
治臣はもう一つのキューブも変形させて脇差しも手にして力を入れる。
治臣の頭は優希の武器を破壊する、そのことでいっぱいになっていた。
そのため、背後から声をかけられるまで人の気配に気づけなかった。
勢いよく振り返れば、そこには紅夜が刀を持った状態で治臣を睨んでいたのだ。
「……っ、もう結界を壊したのですか」
「ロックキューブにキューブ所持者を閉じこめる力があるとはな。新たな情報だった」
「失敗しましたね……。早々に破られるくらいなら全員移動させてこの場で結界に閉じこめればよかった」
睨み合う二人を見ていた優希のそばに人の気配を感じ、上を見る。
奏太と手を繋いだ春陽が翼を羽ばたかせ、優希の横に着地した。
「優希ちゃんは自分で決めたんですから狙わないで下さい!」
「まあ狙っても僕達が返り討ちにしますけど」
奏太と春陽がそれぞれ優希の左右に立って治臣に向けて言う。
治臣は舌を鳴らして忌々しい表情を浮かべた後、冷たい笑みを浮かべて優希達を順番に見た。




