猫(型インフルエンザの)話 その8 (ファンタジー?)
中々投稿できない期間があり、自分でもちょっと落ち着かないので今後は一話完結の方向で行こうと思います。
話自体は続けて行きたいと思っておりますので、これからも見ていただけると幸いです。
「ただいまー」
外から帰ったら手洗いとうがいは必須。それが何よりの風邪予防。と。
今日は病院帰りだから、特に特に念入りに。
「先生の所で薬貰ってきたよー」
さて、家の病人の様子はどんなかな。
出がけに看た時は結構辛そうだったけど、ちゃんとおとなしく寝てたかな。
でもまぁ、薬を飲むんなら。
「お粥でも作ってあげましょうかね、と」
食べられるようなら、だけど。と独り言を呟きながら、ぱたぱたとスリッパを鳴らして、目的の部屋まで歩いていく。
「開けるよ?」
声を掛けてから、ドアノブを握る。
そっと開いたつもりだったのに、少し歪んでいるドアはギィ、と軋んで音を立てた。
思ったよりも響いた音に息を詰めて、静かに中をのぞき込む。
差し込む西日を遮る為に下ろしたブラインドの隙間から、夕日の色が仄かに滲み出ている他は、出かけた時と何にも変わっていなかった。
「具合、どんな感じ?」
返事できるかな。無理かな?
フローリングの床に足音が響かない様に気を付けながら、ベッド脇まで歩いていく。
頭まで布団を被って丸まっているみたいだけど、寒いのかな。
「寒い? 暖房、強くする?」
中を覗き込もうと、布団をちょっとだけ持ち上げたらのろのろと、大分爪が伸びてきた手に隙間を埋められた、ら。
「さむい」
普段からは想像も付かない様な弱弱しい声が聞こえてきた。
「熱、上がってきたのかもね。先生の所で薬貰ってきたけど、何か食べられそう?」
「いらない」
「そっか。じゃあ、吸入用に調合するから」
とりあえず、エアコンの温度を高めに設定し直して、と。
「えーと、とりあえずこの赤い粉を水薬の方に入れる、と」
毎年思うんだけど、これ、見た目は綺麗なんだよね。何の味もしないけど。
台所に戻って、紅玉を砕いた様な粉を計量カップ一杯に掬い上げてから、水薬を入れるのに丁度良さそうな入れ物がない事に気が付いた。
んー、バケツはこの間壊れちゃったしなー。
どうしようかな、と。周りを見回したら、丁度良いいもの発見。
この間、うっかり逃げられたまま空になっていた金魚鉢があった。
「コレ、洗っている時のちょっと目を離したスキに、バケツ噛み割って泳いで行っちゃったんだよねぇ」
どこかで人を襲ってなきゃ良いけど。
襲われたとしても、まぁ三日くらい噛みつかれたまま離れないだけだし、まぁ良いか。
「金魚なんて危険生物飼おうなんて、普通思わないよねぇ」
言いながら手早く金魚鉢を綺麗に洗ってから、一升瓶を抱え上げて黄土色の水薬を半分程注ぎ込む。
「瓶を回しながら注ぐと、早く入れられる。と」
……ちょっと入れすぎたかもしれない。
「入るよ」
足元に金魚鉢と粉薬の入った丼と、おじやを置いて、一声かけて部屋に入る。
「おじや作ってきたから」
「……」
「今年のインフルエンザ、やっぱり猫型だって」
さっきより一回り小さく感じる布団の山が動いたのを確認して、ベッド横の机におじやを置いて、薬の最後の仕上げに取り掛かった。
「と言っても、やるのは混ぜるだけ、と」
勢いよく金魚鉢の中に粉を注ぎ込んでから、十秒きっちりとかき混ぜる。
混ぜている間に薬は次第に泡立って、部屋の中には綺麗なエメラルドグリーンの煙が立ち込めた。
「はーい、布団剥ぎますよー」
「ぴゃー!」
勢いをつけて布団を持ち上げると、そこには丸まってブルブルと震えている灰白の猫がいた。
「……今年は見事に変わったねぇ」
「びゃー!!」
「去年の鶏形の時は、鶏冠が生えた大騒ぎだったし、一昨年のネズミの時よりはかなりマシだから、別に良いんだけど」
「ぎゃー!!!」
あの時は、走り回るネズミを捕まえておくのに小一時間掛かって、本当に大変だった。
室温を確認した上で電気行火のスイッチを入れ、その上に丸まっている猫を乗っけて煙で満ちた部屋で待つこと暫し。
「病院なんかさ、凄かったよ。あっちこっちで子どもがニャーニャーやっててさ」
「変に後遺症残らないと良いんだけど。一昨年罹患した看護婦さん、まだネズミのしっぽ生えてたよ」
会ったことあるよね?
そんな事を言っている間に、灰白の背中の辺りがもぞもぞとうごめき始めた。
「そろそろかな」
言い終えない内に、ぽん。と猫の背中から毛玉が飛び出してきた。
「出てきた出てきた」
薬で追い出されたウィルスが、掌程の大きさでどんどん湧き出て、それに合わせて灰白の猫は人の形に戻っていく。この過程は毎回毎回面白いと思うが、口にはしないでおいてある。
「やぁ、無事人間に戻ってきた感想は?」
「腹減って死にそう」
「だろうね」
去年も同じ事言ってたし。
「さて」
「さて?」
「うん、まぁ」
おじやを温め直して、いまだに微妙に煙を吐き続けている金魚鉢を片付ける。そして、足元を確認。最後の後始末が残っているけど、これがちょっと面倒くさい訳ですよ、と。
溜息交じりに見回す周囲には、極彩色の毛玉の塊がみゃーみゃーみゃーみゃー転がっていた。
……これはファンタジーだ。と言い張ってみる。
盛り込んだネタを分かった方、いらっしゃいましたら是非是非お友達に!




