猫(の理不尽な)話 その6(タイムトリップ 欠損・流血表現有り)
欠損や流血表現がありますので、嫌いな方はご注意下さい。
「だからさァ、オレは好きでココにいンの。分かる?」
あンたの言ってるコトは、あンた達の理屈。はっきり言って迷惑なンだわ。だから、さっさと消えてくンない?
急に入ってきたと思ったら、いきなり他の連中と揉め始めて追っ払って。なンなンだあンた。マジでワケ分からないンだけど。
取り合えずちょっとだけ顔を傾けて視線を合わせてみる。
「分かりかねます。状況から判断しても貴方の扱いは妥当な物とは思えませんが」
「妥当とかそうでないとか、あンたに決められる理由はないね」
あ、そー。聞き流してオレは首に嵌められたリングを指でなぞる。
「あのさ、そもそもオレをここから連れてってどーすンの? あンたはいーだろーけど、他のお仲間はナットクしないンじゃない?」
一度くっつけたら指先に神経を集中して触ってみても継ぎ目が分からなくなる。って、ホントこの世界のテクノロジーってどうなってんだろうな。まぁ、感覚自体色々いじられすぎてあんまりアテになンないケド。
「第一、オレのジジョーとか分かってて、あンたはココに来たワケ?」
「……正直、デマゴギーとしか思えない内容の情報であれば入手していますが」
「それが、ホントだとしたら?」
「素直には信じかねます。貴方が過去から来た人間であるなど」
あー。まー、フツーに考えてそーだよねェ。オレ自身、今でもあんまりこれが現実! って感じしねーもん。
オレは、目を逸らして『オレ』のカラダを見る。あれ、いつの間に足の指一本どっかいってら。んー、前に目を覚ました時にはどうだったっけ?
「本当のハナシさァ。オレはあンた達よりずーっと前の時代の人間なの」
だから。
「オレの子孫だか何だかがあンた達に何をしたかなんて、オレにはどーしよーもないワケよ。第一、オレ的に起きていない事に対して責任取れと言われても困るンだよねー」
いや、本当に。
気が付いたら、問答無用でボッコボコなンだもの。
必死になって状況説明して、何とか殴るの止めてもらえたと思ったら首輪つけられてココに連れてこられて、後は御覧のアリサマ。
「まぁ、オレは好きで実験動物やってるンだから、ほっといてくれる?」
今まで必死に聞き耳立て続けて、分かった事は一つ。ココから出たとしても、生きてくコトは難しそう。ってコトだ。この時代の環境はオレのカラダにはあんまり向いてないみたいだし。つーか、多分外では生きて行けない。
仮に外に出られたとして、今のジョータイでまずどーやって食ってくンだってハナシだ。稼ぐにしたって、マトモな仕事なんかできそーにねー。
「兎に角。そーゆーワケだから、帰ってくれ」
これでおハナシはオシマイ。その意味も込めてオレは目を閉じる。
……疲れた。
そーいや、久しぶりにマトモにハナシしたなァ。
そう思いながら、指先で ベッドのリクライニング機能を動かす。検査と言う名を借りたナニカのお陰で最近は寝返りを打つのも辛くなってきたから、ベッド毎カラダの角度を変えてくれるこの機能はヒジョーにアリガタイ。
そんな訳でオレ的侵入者にベッド毎背を向けて深く息を吐く。ちょっと寝よ。
目を閉じてると、ありがたい事に直ぐに眠気が来た。あー、でもユメとかは見ないといーな、現実は色々キビシーから。ユメの中でキブンが上がれば上がるほど落ちた時のダメージはデカいし。
「……って、痛い痛い痛い痛い!」
ヒトがイイカンジに寝始めてる時に! ナニしてるんだ、あんた! つか、痛い! 痛いんだよ!
叫んで暴れようとするオレを片手で押さえつけて、ソイツはオレのカラダに付けられていたチューブやら何やらをぶちぶち引き抜いて、って痛い!
色々ダメになってるって言っても、ちゃんと痛いモンは痛いんだ! 止めてくれ!
管が引き抜かれた部分から血がダラダラ出てるし、涙やら鼻水やら止まらないし!
「ナニすんだ、あンた!」
オレを押さえつけている腕を何とか払いのけようと、両手で掴みかかっても全然歯が立たないし!
相手は何も言わない。無言のまま手が首に伸びてきた。
「何か言えよ! ……くっ!」
必死に抵抗する手をあっさり振り払われて、更に頭に血が上る。怒鳴りすぎて、頭がくらくらするし目も回る。そして。
「うぁあああああ!」
首に付けられていたリングに触れられた途端、一番の衝撃がキた。
「ひ、はぁっ……」
一瞬心臓止まった気がする。
吸って吐いて、吸って吐いて。必死に息をする事に集中する。目の前は真っ白で、肺の辺りがヒリヒリして胸が痛い。
腕や足や、カラダの至る所の痛みも感じる余裕も無い。
すっかり脱力しきったオレはそのまま担ぎ上げられた。
そのまま、部屋に設置されていた円筒の中に放り込まれて。あーもー指一本動かす気力すら残ってねぇ……。
放り込まれた勢いのまま金属の床に倒れこみ、ぼんやりと視線を外に送ると、床に何か輪っかが落ちてるのが見えた。ああ、アレ外れたンだ……。
「何でも良い。直ぐに使用可能な素体とデータの転送を」
「……! ……?」
なに……? だれとハナシしてる……?
声が、酷く遠くから聞こえる。その疑問を抱いたまま、オレは今度こそ意識を失った。
目覚めは異様に爽やかだった。
こんなに気分良く目が覚めたのって、どれ位ぶりだろ?
にー、と伸びをすると尻尾の先までチカラが入って気持ちがイイ。
……ん?
今なんかアリエナイ部分の感じがしたよーな?
……尻尾?
あれ?
あれ? ねこ?
……きみどりいろの? ねこ尻尾?
有り得ないものを追いかけ、思わずグルグルその場で追いかけ始めるオレ。
ちょっと待て、これって戻るのか! 戻るんだよな? つーか、戻らなかったらどーしてくれるんだ? あ、いや、戻ってもどーしよーもナイんだけど!
グルグルグルグル。
カラダもアタマもグルグルグル。
存分に走り回って疲れ果て、ぺったりと床に潰れるオレ。
「にゅー……?」
その鼻先に人間のつま先が差し込んできたと思ったら、そのまま首を掴んで持ち上げられた。コラ待て、ナニしてくれる。
「元気そうで何よりです」
「にょー!」
元気は元気だけどな。取りあえず離せ!
「はい」
「にゅぅ……っ」
べちゃ。
人間の顔の高さからいきなり手を離すな。
「くぁー!」
床に潰れて、怒りの声を上げるオレ。
「手を離せと言われましたので」
しれっと言いやがったよ! つーか、言葉分かるのか?
「ええまぁ」
「ふみぃ!」
ナンで!
身体的に異常が無いなら、まずは何か食べませんか? と言われて、自分が空腹だったコトに気が付いた。つーか、腹が減るってコト自体が久しぶりの感覚だ。何せ時間で腹ン中に勝手に栄養剤(なんだろう、多分)が流し込まれてたからなァ。
で、喜んで同意したら。
紫色のペレットと黄色の水が出された。これ、食って大丈夫なのか?
恐る恐る口を付けてみたけど、うん、大丈夫そうだ。
何て言うか、筑前煮? みたいな味がして、水(?)は水の味だった。
犬食い(猫だけどな!)とかもう気にしないでひたすら腹を満たす行動に集中。口からモノが食えるってだけで幸せだー。
はー。と一息吐いた所で、オレの耳に聞きなれた小さな音が聞こえ始めた。
閉め切った空間にいる割に、ちゃんと聞こえるモンなんだなあ。さすが猫。
家の中をクルクル歩き回り窓を探して外を見てみたら、緑色の雲からピンク色の雨が降っていた。
つーか、見渡す限りに続く金属の屋根にピンクの雨が降る。って。ふぁんたじーノ世界ダネー。あんなのに触って大丈夫なんだろか。
……まぁ、大丈夫じゃなさそうだからアソコにいたんだけど。うかつに外に出なくて良かったぁ。
「に!」
さて、腹も膨れた所で、この状況の説明をして貰おうじゃないか。
テーブルを挟んで相対する。が、ナンか、違和感。あれ、コイツってこんなだったっけ?
戸惑ってるそんなオレに構わず、カッテにハナシ始められた。
「まず、状況の説明をさせて頂きますが、私が介入したあの段階で貴方は既に瀕死に近い状況にあった事は認識してますね?」
まーな。
「緊急事態でしたので、手元にあった形成データをそのまま流用しました。そして、素体には貴方の身体を使っています」
はー、じゃー、見た目が変わってるケド、一応オレのカラダなのね。
「基本的には。ただ、生命を維持する以上の機能面において、かなり足りない部分がありました」
「にー」
あー。としか言いようがねー。
「ですので、私の腕を使用しました」
「……に?」
……え?
「貴方の身体を構築しなおす上で、不足だった部分は私の腕で補いました」
つまり、
「うにゃ」
腕一本分、オレはアンタと同じモノってコトか?
「そういう事です」
「にー」
言葉の理解とかも、そこら辺関係してる?
呆然とするオレに、隻腕になった相手はちょっと笑って頭を撫でた。
「なー!」
そうだ、そう言えばオレのカラダ元に戻ンのか?
「戻る事は可能ではあります」
「な!」
マジで! 戻れんの!
「ただ、色々な障害が出る可能性がとても高いのが難点ですが」
「うぎゃー!」
ナンデだ!
詰め寄ったオレはそのまま膝に乗せられて、背中を宥めるように撫でられている。
「落ち着きましたか」
「みー」
「なら、話を続けて宜しいですね」
大して落ち着いてもいないけどなー。
「今の貴方を構成しているのは、貴方の体を私の腕で補完した物です」
ん、それは聞いた。
「危急の自体を打破する為、異物である物同士を強制的に結合させて構成を行った為に、分離する事が非常に難しい状態となってしまいました」
んー? つまりミックスジュースを作るのは簡単だけど、それぞれ元のジュースに戻すことは難しい。ってコトか?
つーか、変な影響が出る可能性アリって前提があったとしても、可能なのかね。
「かなり難しいですが」
「……ふー」
どの位?
「そうですね……」
言いよどむな、不安になるから。
「貴方がたった今、更に未来に飛んでいく位の確立でしょうか」
……無理ってコトじゃねーか!
その後も色々聞いてみたけど、あン時のコトは『怒りで目の前が真っ白になっていて、何も覚えていない』だと。
で、本人が言う所の『怒りの引き金』になった俺の足の指は、未だに欠けたままだ。ちょっと不便はあるけど、まぁ何とかやっている。
ふざけるな。とか少しぐらいは説明をしてからやれとか、色々言いたい事はあるけど、腕くれてまで助けてくれた事は感謝してるし取りあえず今は幸せ? な様な気がするからまぁ良しとしておこうと思う。
以上がオレがこのロクでもない世界で猫になった理由と顛末。
主人公がすっかり自暴自棄になってます。
とりあえず、これでタグの「ややダーク」に合った話ができたかなー。
読んで下さり、ありがとう御座いました!




