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猫()話  作者: 瀬川智
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猫(にされた)話 その1 (現代)

 生まれ変わりとか変身とかなんて漫画とかテレビとか、そういうのの中の話だと思っていたけど、実際自分がこんな事になるなんて正直笑えない。

 しかも何か猫だし!


 くそぅ、何で俺がこんな目に……。

 いらいらする気持ちを、びたんびたんと尻尾を地面に打ち付ける事で発散しながら目覚める前と目覚めた後のことを思い出す。

 何か、気がついたら変な模様がびっしり書いてある部屋ん中だったんだよな。魔法陣ってやつ? その前は、えーと、確か、何してたんだっけ。やたら暑かったのは覚えてるんだが。って言うか、夏なんだからそれは当たり前なのか。

 あー、暑い。クーラーの効いてる所に行きたい……。て言うか、何で俺こんな所にいるんだっけ?

 考えようにも暑すぎて何にも考えつかない。少しでも涼しい所を求めて、日陰に入り込んで腹ばいになる。あ、ちょっと涼しい、かも。


 ちょっと人心地(って猫だけど)ついた所で、漸く周りを見回す余裕が出てきた。

 ……マジで此処何処だ?

 日向の眺めは強い光で目が痛い程。動き回るのはもーちょっと涼しくなってからにしよう。何て思ってたら、何だ、誰か来るぞ。

「おー、溶けてる溶けてる。でろでろだー」

 でろでろって何だよ。見上げてやるのもウゼェ……。つーか、完全逆光で顔見えねーし。誰だよお前。

「暑そうだなー。大丈夫か?」

 大丈夫な訳あるか。つーか、触るな!

「お前、毛100%だもんなぁ。ファスナーとかチャックとかがどっかについてたら脱がせてやるんだけど、そうも行かないよな」

「ふぎゃぁ……」

 暑いんだよ、ほっとけよ!それと、ファスナーもチャックも同じモンだろ! いい加減にしないと引っかくぞ!

「茶虎のカギ尻尾か……。よし、命名。お前は今日から『ゆべし』だ!」

 何だそりゃあ! 俺には、俺にはなぁ、ちゃんとした名前があるんだよ! えーと、ほら、その……。あれ、何だったっけ? 俺の名前。

 心の中に、冷たい風が吹き込んだみたいな気がした。あれ、俺って、誰だったっけ?

 竦んでしまった体はヤツに易々と捕らえられてしまった。不覚。

「よし、ゆべし、お前はこれからうちの子だ!」

「ぎゃあ!」

 待て、勝手に連れて行くな!

「ほーら、ゆべしー。今、クーラー付けてやるからなー。って、その前に風呂か。暴れたりするなよ?」

 ……結局家の中に連れ込まれてしまった。


「ふに……」

 気持ち良い……。ピンポイントで良い感じの所を撫で回されて、グルグルと喉が鳴るのが止められん。

 コイツの家に来てどれくらい経つのか、すっかり忘れてしまった。

「気持ち良いですか?もう、すっかり猫ですね」

ん? 何?

「儀式で疲れていたにしても僕が気を抜いたのが悪かったんですよね、気がついたら外に出てしまっているのを見つけた時は、どうなるかと思いましたが」

うるさい。お喋りは良いから、手を止めるな。ん、そこ、気持ち良い。

「もう、外の事も他の事も全部忘れて、ずっとここにいて下さいね」

 うっとりしながら、体を捩ると普段は閉まっているドアが開いているのが見えた。

 どこかで見た様な気がする模様が床一面に書いてあったけど、今の気持ち良さを甘受している間にそんな感覚は何処かに消えてすっかり無くなってしまった。


色々な変身物を読んでいて、自分も書いてみようと思い立った最初の話。

今後も色々なシチュエーションで書いていく予定です。

読んで下さりありがとうございました。

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