三話
この世界があの白骨の記憶?
冗談じゃない。
「導きの書は彼の記憶の中だけのあなた達の行いを示したもの。あなた達がそれに定められたことしかしてこれなかったのは、彼の生前の記憶にある運命しか辿れないから」
そんなバカな。
ならば、僕達は生命体ではなくただの記憶の欠片だというのか。
「なら、君は? 君は何なんだ?」
「私? 私はただの記録者よ。終わりと始まりを繰り返し、記憶の世界を記録するのが役割なの。あなた達、ハズレものがたまに出るから」
そうだ、ハズレもの。
ならばハズレものは一体何なんだ?
「ハズレもののことが気になるのね。ハズレものは彼の記憶から曖昧になった人間。あなた達はこの終わりを繰り返す世界から出ることができる。あの門からね」
指し示された場所には先程までなかった門が存在していた。
「あの先には何があるんだ?」
「さぁ、私には分からないわ。でもきっと、ここよりましな世界よ」
「君は出たくないのか?」
「私は記録者だから」
儚げにそう言った少女の微笑はあまりにも淋しげで、僕は思わず彼女の手を引いていた。
そして、門へと走る。
扉を蹴破り、僕達は光の中へと飛び込んだ。
◆◇◆
二人が消え去った、部屋に足音が響く。
「これで一万と二千六百三十三回目。あなたとあの子が出会ったのは確かにあの一回だけ。でも、私達とあなたが出会うのは毎回なのよ」
足音の主は先程の少女と同じ姿をしていた。
「記憶の世界で、記憶の主が白骨だなんておかしいと思わなかったの?」
少女は宙にそう問いかける。
「記憶には必ず本人がいるはずなのに」
少女は嗤う。
「そう、ここはあなたの記憶の世界だったのよ」
塔の各階の大量の檻の中では彼女と同じ姿をした少女が大量に閉じ込められていた。
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