表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/5

・宰相と文官

 ネタが浮かんだので、つい……m(__;)m



 自分に与えられた執務室の机の上で、私は頭を抱えていた。


 というのも、担当者である文官の子が持ってくるはずの書類が、未だに届かないのだ。

 その書類は、軍部の武器類や訓練に必要な備品の購入状況が記されたもので、それらの歳出に無駄や横領が無いかなどを私や会計監査係がチェックし、王に承認印をもらわなければならないものだった。


 特に締切というものは決まってはいないが、まずその書類を私がチェックして、次いで会計監査係に回して、王に届けて、それが済んでから次年度の予算が組まれるため、後々の手続きに響かせないためにも、さっさと済ませておきたいのだ。それに、私にも仕事が毎日毎日積み重なって来るから、今日できることは今日終わらせておきたい。


 というわけで、その書類を受け取りに行ってくれている文官の女の子を、さっきからずっと待っているわけなんだけど。



(あああああ、もう、やっぱり彼女に任せるんじゃなかったかしら……)


 いやいや、受け取りに行ってくれている文官の子は、普段は非常によく気が付いて、器用でまめで真面目に仕事をしてくれるとても有能ないい子ではあるの。けれど、この軍部関係の書類を取りに行く時だけは、非常に困ったことになるのだ。

 というのも、軍部関係の書類を渡しに来る武官の男性と、彼女は、傍から見ると誰がどう見ても互いに好意を寄せ合っていることが明らかだ。しかし、何故かお互いだけがそれに気づかない。

 しかも、厄介なことに、あの二人はお互いがツンデレだ。いわゆる、ツンデレ×ツンデレのカップルなのだ。


(ツンデレカップルなんて初めて見るから、楽しそうだと思ってたのに……)


 特に何もない時ならば、そのじれったさがある意味可愛らしくて、暖かく見守りたくなるのだが、その二人のツンデレが、書類を渡す時に発揮されると非常に面倒臭いことになる。


 何故ならば、


『べ……別に、私はただ単に書類を取に来ただけなんだからね! あんたに会いたくて来たわけじゃないんだからねっ! さっさとそれ渡しなさいよ!』

『俺だって、別にお前になんか会いたくなかったっつーの! そんなに渡してほしけりゃ、可愛くお願いくらいしてみろよ』

『何よ! どうせ私は可愛くないわよ! いいわよ、そんな書類なんかいらないもん!』

『お前が可愛くないなんて言ってねーだろ! 俺だってこんな書類いらねーよ!』


 という感じで、何故かいつも言い合いになるのだ。それが延々と続く。


 一応軍部の予算に関わる重要な書類なんですが、いらないってどういうことだよ、オイ! こっちはそれを待って、ずっと執務室に足止めされとんじゃああぁぁぁ! 本当ならさっさと家に帰って、書きかけの原稿をやりたいのよおおぉぉ!


 

 今日もきっとそんな感じで、書類が遅れているのだと思われる。小学生か! と突っ込みたくなるのはきっと私だけじゃないはずだ。この国に小学校は無いけどね!


 じゃあ、どうして担当を変えないのかというと、そろそろ軍部からの書類を取りに行かないとなぁ、という頃になると、決まって彼女からしきりに「私、手が空いてますよ?」とか「軍部の近くまで行くので、ついでに何か用事とかないですか?」といったお伺いがかかるのだ。しかも、顔を真っ赤にしてそわそわしながら、いかにも彼に会う口実を探してます! って空気全開で。

 そのため、他の文官の女性達も苦笑いをしながらその子に任せちゃうし、私もそこで他の子に任せるほど鬼ではない。


 しかし、しかしだ。そろそろ私も限界だ。

 あのツンデレカップルを見守り続けて早一年が経つ。切ない両片思い感も、じれじれあまあまのもどかしさも、もう十分に堪能させて頂いた。そろそろ次の段階が見てみたい! ツンデレカップルがくっ付いたとき、果たしてどのような効果が生まれるのか! 是非ともネタにしてみたい!



 というわけで、私は、様々な備品などがぎゅうぎゅうに収めてあるおかげで、半畳ほどのスペースしか空いていない倉庫に二人を呼び出し、二人が倉庫に入ったのを見計らって扉を閉め、外から近くに飾ってあった銅像で扉を塞いで、開かないようにしてみた。

 二人が部屋に入った途端、銅像が倒れてドアが開かなくなったという偶然を装いつつ、二人っきりの狭い暗闇空間で、想いを確かめ合っちゃいなさい作戦だ。ちなみに、男の武官を呼び出すために、軍部の友人にも協力してもらった。


 それから、想いが盛り上がりすぎて倉庫で大人な展開にならないように、一時間ほどで救助に来る予定である。念のため、大きな音を立てつつ、時間をかけて扉を開けるつもりだが、それでもいや~んなところに出くわしてしまったら……まあ、それも一つの経験か。


 そう思いつつ、一時間ほど倉庫前の通路を人が通らないように、“ワックス塗りたて”の張り紙とロープを張って、私はその場を後にした。

 なお、この世界にワックスは無い。が、あの張り紙を見れば、何となくここは通ってはいけないのだと思ってくれるのが、この城で働く人達の素晴らしき空気を読むスキルである。



 さて、きっちり一時間が経過するのを待って、私は「どうやら銅像が倒れたみたいだね。大丈夫だった?」と素知らぬ顔で扉を開け、二人を助け出した。部屋の中はピンクな空気になっていなかったから、まあいいタイミングだったようだ。

 部屋から出た二人は、何だか互いをちらちら見ながらも、顔を赤くして逸らしていたので、うまくいったのだろうと思う。




 それから数日後。

 私は自分の執務室で、届かぬ書類に頭を抱えていた。


 書類を取りに行ってくれているのは、あのツンデレの女の子だ。彼と無事結ばれてからは、軍部の書類が必要な頃になると、「私、行ってきます!」と率先して部屋を飛び出して行くようになった。

 公私混同は少々問題かもしれないが、それは今更だし、落ち着かなそうにそわそわしている姿は、可愛く微笑ましいので、良しとしている。


 しかし、いい加減書類が待ちきれなくて、様子を見に行った私は、自分の考えの浅はかさに拳を眉間に当てて唸ってしまった。


「こんなところで、あなたに会えて嬉しい!」

「ああ、俺も。愛しいお前に会えて幸せだ。ほら、もっとよくその可愛い顔を見せてくれ」

「……あ、そろそろ私行かなきゃ。早く宰相様に書類を届けないと……」

「宰相様宰相様って、お前は俺と宰相様とどっちが大切なんだ!」

「やだ、そんなのあなたに決まってるじゃない!」

「俺もだ! 誰より君を愛してる」

「私も、世界で一番あなたが好き……」


 廊下のど真ん中で行われているやり取りに、そこを通りかかってしまった人達が、見事な空気を読むスキルを発揮しながら歩き去って行く。


(そうか……そうなのか。ツンデレカップルが結ばれると、ツンが取れてデレだけになるのか)


 新たな真理を発見したはいいものの、デレデレカップルがこれほど面倒臭いとは。

 というか、男よ。「私と仕事、どっちが大切なの!?」はどちらかと言うと女性側から言うセリフなのでは。てか、何故そこで私を引き合いに出す。私とて、そこで選ばれても嬉しくもなんともないぞ。むしろデレカップルの痴話げんかという面倒事に巻き込まれるだけだ。


 ある意味自分が蒔いた種だけに口も出し辛く、密かに大きなため息を吐いて、私は踵を返した。



 ツンデレ×ツンデレは、くっ付くと、デレデレ×デレデレになる、イコール手が付けられない。と。



 とりあえず、城内規則に職場内恋愛禁止の規定を加える……のは、多方面から反発をくらいそうなので、職場内でいちゃつくのはほどほどに! の張り紙でもしとくか。主に、私の執務室から軍部に向かうときに通る、あの通路にね!



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ