「お姉様はブスなんですから、前髪を伸ばして眼鏡をかけていればよくて?」と言われ続けた地味令嬢.......王子に見出されて、大変身!?〜抑圧されていた令嬢、まさかの大変身で逆ハーレムになりました!〜
「お姉様はブスなんですから、前髪を伸ばし、眼鏡をかけて、大人しくしていてくださいませ!!!」
物心つく前から、妹のセレナにそう言われ続けてきた。わたしは……その、逆らう勇気もなくて、言われるままに前髪を伸ばし、分厚い眼鏡をかけて生活してきた。
「フロレンス様はまた同じ髪型ですのね.......陰気だこと」
「話しかけるのもはばかられますわ」
学園でも、わたしは常に嘲笑の対象だった。妹のセレナは、社交界の花として持て囃される一方で、わたしは日陰者として過ごすのが当たり前になっていたのである。
「お姉様........今日の刺繍の授業、また失敗なさったんですって?」
「そ、それは、その……」
「本当に、お姉様は何をやらせても駄目ですのね。せめて目立たないようにだけはしてくださいませ」
くすくすと笑う妹の取り巻きたちの声に、わたしはただ俯くことしかできなかった。反論する言葉も、勇気も......とうに擦り減ってしまっている。
(今日も、誰とも目を合わせずに帰ろう……)
そう決意を固めながら、俯きがちに廊下を歩いていたその時、誰かとぶつかってしまった。
「あ……申し訳ございません!!!」
慌てて謝ると、相手は静かにこちらを見下ろしていた。今まさに私を見ている彼はそう.........
ーーーこの国の第二王子、クロヴィス殿下だ。
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「フロレンス嬢、だったか.......なぜ、そんなに前髪で顔を隠しているんだ......?」
「そ、それは、その……妹が、わたしはブスだから隠せと......」
「――今そいつはどこにいる」
低い声で問い返され、わたしは思わず身を竦めた。
「あ、あの......殿下、お気になさらないでくださいませ。わたしは、その、慣れておりますので.......それに、事実ですしね」
そう言いながらハハっと笑う私をみて王子は静かに一言、こう溢した。
「慣れる必要のあることではないだろう」
「で、ですが……」
「妹の言葉を鵜呑みにする前に、一度くらい鏡を見たことは?」
思いがけない問いかけに、わたしは言葉に詰まった。そういえば、まともに自分の顔を見た記憶すら、随分とない気がする。
クロヴィス殿下はそう言うと、躊躇いなくわたしの前髪にそっと触れた。
「――少し、失礼する」
そう言って、彼はわたしの前髪を横に分けた。次の瞬間、周囲にいた生徒たちから、小さなどよめきが起こった。
「な……嘘だろう......!?」
「フロレンス様が、あんなに......?」
戸惑うわたしの手から眼鏡を外し、クロヴィス殿下は静かに微笑んだ。
「――思った通りだ。そなたの美貌は隠しておくには、あまりにもったいない」
「そ、そんな、殿下......お戯れを……」
「戯れで言っているわけではない。今すぐにでも、証明して見せようか?」
真剣な眼差しに、わたしは頬が熱くなるのを感じた。
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その日を境に、わたしの学園生活は一変した。
「フロレンス様、お加減はいかがですか?」
生徒会長のオーウェン様が、休み時間のたびに声をかけてくるようになった。
「あの、ほんとうに大丈夫ですので......お気遣い、ありがとうございます」
まだ慣れない周囲の視線に戸惑いながらも、わたしはたどたどしく答える。
「以前から、フロレンス様の授業中のノートの取り方に感心していたのです。丁寧で、要点が的確で.....ずっと機会を窺っておりました」
「そ、そんな、ずっと見ていらしたのですか……?」
思いがけない告白に、わたしは頬を赤らめるしかなかった。
「僕はフロレンス嬢の剣の腕前に興味がある。今度、稽古をつけてくれないか」
剣術部のエース、ジャスパー様までもが声をかけてくるようになった。
「け、剣の腕前、ですか? わたし、そんなに得意というわけでは……」
「謙遜するな。以前、護身術の授業でお前が見せた足運び、あれは並の令嬢にできる動きじゃない」
「あ、あれは、その、たまたまで……」
(な、なぜ急にこんなに……?)
戸惑うわたしをよそに、周囲の変化は止まらなかった。以前は視界にも入らなかったはずの生徒たちが、次々と声をかけてくる。まるで、これまで見えていなかった存在が、急に浮かび上がったかのような感覚だった。
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「――お姉様、一体何のつもりですの.....!?」
血相を変えて詰め寄ってきたのは、妹のセレナだった。
咄嗟に、いつもの癖でうつむきそうになる。
だが、目の前にはもう、隠す前髪も分厚い眼鏡もない。誤魔化す術を失った代わりに、不思議と喉の奥から、これまで抑え込んでいた言葉が押し出されてくるのを感じた。
「――どこかおかしくて? 何のつもりも何も、殿下が勝手にわたくしの魅力を見出しただけですわ」
口にしてから、自分でも驚いた。まるで、前髪と眼鏡の下にずっと押し込めていた本来の自分が、ようやく顔を出したかのようだった。
(あ、あら? さっきまで気弱だったのに、なんだか言葉がすらすら出てくるわ)
自分でも驚くほど、堂々とした口調が出てくる。まるで、前髪と眼鏡の下に押し込めていた本来の自分が、ようやく顔を出したかのようだった。
「殿下に何を吹き込みましたの!? わたくしより目立つなんて、許しませんわよ!」
「もう一度言わせていただきますが、目立つも何も、殿下が勝手にわたくしの魅力を見出しただけですわよ? わたくしが仕組んだことなど、何一つございませんわ」
「そ、そんなはずございませんわ! お姉様がブスなのは、ずっと変わらない事実のはずですもの!」
「あら、それはあなたの願望であって、事実ではございませんでしたのね。今このように、周囲の反応が、何よりの証拠ですわ」
淡々と、しかしはっきりと言い返すわたくしに、セレナは明らかに動揺していた。
「そ、そんな……!? い、今まで大人しかったくせに……!!!」
「大人しくしていたのではなく、あなたに大人しくさせられていただけですわ。ようやく、その必要がなくなっただけのことですの」
「わ、わたくしは、ただ妹として、その、忠告を……!」
「忠告と抑圧は違いますわよ、セレナ.......長年の恨み言を並べる前に、まずご自分の言動を省みてはいかが?」
はっきりと告げると、セレナは顔を真っ赤にして立ち尽くしていた。周囲の生徒たちからも、これまでとは違う視線がセレナに向けられ始めている。
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「フロレンス、随分と楽しそうな会話だったな」
騒動を聞きつけたクロヴィス殿下が、静かに歩み寄ってきた。
「あら殿下、お聞きになっていましたの?」
「ああ。それより――」
殿下はオーウェンとジャスパーに、鋭い視線を向けた。
「二人とも、彼女に近づきすぎではないか?」
「別に......普通の距離だと思うが?」
「.......僕もそう思う」
きっぱりと返す二人に、クロヴィス殿下は珍しく苛立った様子を見せた。
「フロレンスの魅力に最初に気づいたのは私だ。横入りは感心しないな」
「それを言うなら、僕は前々から彼女のノートに注目していた。それこそ殿下より早いくらいだ」
「僕も剣術の才能には気づいていたぞ!」
三人が張り合う様子に、わたくしは思わず苦笑した。
「あら殿下.......随分と独占欲がお強くていらっしゃいますのね?」
からかうように指摘すると、クロヴィス殿下は少し照れたように視線を逸らした。
「――悪いか」
「いいえ、まんざらでもございませんわ」
くすりと笑うわたくしに、殿下は驚いたように目を見開いた後、ふっと表情を緩めた。断罪まがいの抑圧から始まった日々は、思いがけず、賑やかで眩しい毎日へと姿を変えていくようだった。
「――さて、これから一体どうなることかしら」
不敵な笑みを浮かべるわたくしを、その場にいた誰もが、それぞれの想いを胸に見つめていた。
セレナはといえば、遠くでこちらを睨みつけながら、悔しそうに拳を握りしめている。長年抑え込んできた姉が、まさかこんな形で日の目を見るとは、想像もしていなかったのだろう。
「フロレンス様、明日もぜひお話を.......」
「僕も.......稽古の約束、忘れないでくれ」
「二人とも、私が先に約束を取り付けている!」
三人がそれぞれ主張する光景に、わたくしはとうとう声を立てて笑ってしまった。抑圧されていたはずの日々が、こんなにも賑やかな未来に繋がるとは、少し前の自分には想像もつかなかったことである。
(お姉様なんて呼ばれる筋合い、もうございませんけれど)
心の中で呟きながら、わたくしは晴れやかな気持ちで教室へと足を向けた。長かった日陰の日々は、ようやく終わりを告げようとしていた。
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妹セレナの本格的な断罪や、三人の求愛がどう転がっていくのか、まだまだ書きたいことがございます。よろしければ作者フォローもしていただけると幸いです!
それでは、また次のお話でお会いしましょう!




