第一話 輪廻の記憶
暗闇だった。
何もない空間の中で、少年は一人立っていた。
いや――違う。
ここを知っている。
何度も、何度も来た場所だ。
「また、死んだのか……」
少年は苦笑した。
目の前には白い光が浮かんでいる。
そして光の中から、美しい少女が姿を現した。
銀色の髪。
黄金の瞳。
人間離れした神々しい雰囲気。
「お疲れ様、クロス」
「またお前か」
「その言い方はひどくない?」
少女は頬を膨らませた。
彼女の名はアストレア。
輪廻を司る神だ。
そしてクロスが死ぬたびに現れる存在でもある。
「今回は三百二十七回目の人生だったね」
「そうか」
驚きはない。
クロスは既に数え切れないほど転生を繰り返していた。
勇者になったこともある。
魔王になったこともある。
皇帝として世界を支配したこともある。
だが、どんな人生を送っても結末は同じ。
世界は滅びる。
必ず。
「なあアストレア」
「なに?」
「いつになったら終わる?」
少女は少しだけ悲しそうな顔をした。
「……まだ、その時じゃない」
「そうか」
また同じ答えだった。
クロスは深いため息を吐いた。
するとアストレアが優しく微笑む。
「でも今度は違うかもしれない」
「何が?」
「運命が」
その言葉と同時に光が溢れた。
視界が白く染まる。
そして――。
目を開くと豪華な天井が見えた。
柔らかなベッド。
広い部屋。
窓から差し込む朝日。
「……転生したか」
クロスはゆっくりと身体を起こした。
鏡を見る。
黒髪。
蒼い瞳。
十五歳ほどの少年。
今世の名は。
クロス・アークライト。
辺境伯家の三男だ。
そして。
十五年間眠っていた前世の記憶が、一気に蘇る。
「っ……!」
剣聖の記憶。
大賢者の記憶。
勇者の記憶。
魔王の記憶。
数百回分の人生が脳内を駆け巡った。
普通なら発狂してもおかしくない。
だがクロスは慣れていた。
「久しぶりだな、この感覚」
そして同時に理解する。
今世もまた始まったのだと。
その時だった。
部屋の扉が勢いよく開く。
「お兄様! 大変です!」
飛び込んできたのは銀髪の少女。
妹のユナだった。
「どうした?」
「王立魔法学園の合格通知です!」
「学園?」
「忘れたんですか!? 今日が発表日ですよ!」
ユナは封筒を差し出した。
クロスは中身を確認する。
そこには。
合格
の二文字。
「へえ」
王立魔法学園。
王国最高峰の教育機関。
貴族や才能ある平民が集う場所。
そして。
クロスは知っている。
これまでの人生でも何度も訪れた場所だ。
だが今回は違った。
封筒の裏に見慣れない紋章が刻まれていたのだ。
「……これは」
見た瞬間、背筋が凍る。
過去三百回以上の人生で一度も見たことがない印。
世界樹を囲む黒い翼。
不気味な紋章。
「ありえない」
クロスの顔から笑みが消えた。
なぜなら。
世界が滅びる直前にだけ現れる伝説の組織。
その紋章だったからだ。
「どうしたんですか?」
「いや……なんでもない」
そう答えながらも内心は激しく揺れていた。
世界滅亡まで、本来なら十年以上ある。
なのに。
なぜ今、この紋章が現れた?
未来が変わっている。
今までとは違う。
そしてクロスは気付いていなかった。
学園で待つ五人の少女たちが。
彼の運命を大きく変えることになることを。
そして。
世界を滅ぼす存在が、既に動き始めていることを――。




