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第十九章 選んだのは、ただ一人


会議の準備が整った広間の前で、ルーカスは足を止めた。


隣に立つアリアの気配を確かめるように、ほんのわずか視線を落とす。


その仕草は一瞬で、周囲には気づかれないほど自然だったが、指先は無意識に彼女の手を包み込んでいた。


「緊張しているか」


低い声。


アリアは微笑み、首を横に振る。


「少しだけ。でも、平気です」


その答えに、彼の喉がわずかに動く。


強いから連れてきたわけではない。


覚悟があるから隣に立たせるのでもない。


――本当は、離しておけなかっただけだ。


扉が開く直前、ルーカスはふいに彼女を自分の方へ引き寄せた。


広間に入る前の、わずかな影の中で。


「ルーカス様?」


戸惑いを含んだ声が、胸元で柔らかく響く。


彼はその髪に顔を埋めるでもなく、ただ額をそっと重ねた。


「勘違いするな」


低く、静かな声。


「隣に立つから甘やかすわけではない」


そのまま彼は、彼女の頬に触れる。


指先が名残惜しそうに輪郭をなぞる。


「お前だからだ」


息が混ざるほど近くで、言葉が落ちる。


「アリアだから、放っておけない。アリアだから、守りたくなる。アリアだから、甘くなる」


どれも理屈になっていない。


ただの衝動だと、自分でも分かっている声音だった。


アリアの瞳が揺れる。


その揺らぎを見た瞬間、ルーカスの指先がわずかに強まる。


傷つける気はない。


それでも、誰にも触れさせたくないという独占が、抑えきれずに滲む。


「俺は覇王だ」


自嘲気味に笑う。


「本来なら、情に流されるべきではない」


けれど、と続ける代わりに、彼は彼女の唇のすぐ横へ、触れるか触れないかの距離で息を落とした。


「お前にだけは、どうにもならない」


その告白は敗北ではない。


選択だった。


アリアが小さく息を吸う。


その胸の動きに合わせて、彼の腕が自然と腰を抱く。


守るためではなく、そこに在ることを確かめるために。


「甘やかすのは俺の勝手だ」


低く囁く。


「隣に立とうが、後ろにいようが、離れようとしようが……関係ない」


彼の瞳が真っ直ぐに射抜く。


「俺が甘やかしたいのは、アリアだけだ」


その言葉には、王の論理も立場も介在していない。


ただ、執着に似た熱だけがある。


アリアの頬がわずかに赤らむ。


その色を見た瞬間、ルーカスの視線が柔らかく崩れる。


「困った顔をするな」


親指でそっと頬をなぞる。


「そうやっていると、もっと甘やかしたくなる」


扉の向こうから控えめな咳払いが聞こえる。


会議の時間だ。


それでもルーカスはすぐには離れなかった。


最後に、彼女の額へ静かに口づけを落とす。


「行くぞ」


ようやく距離を取るが、指は絡めたまま。


広間へ足を踏み入れた瞬間、彼の表情は覇王のそれに戻る。


威厳も冷静さも、何一つ欠けていない。


けれど繋いだ手だけは離さない。


それは隣に立つ資格を示すためではない。


――アリアだから。


ただそれだけの理由で、彼は彼女を甘やかす。


王としてではなく、ルーカスとして。


そしてその選択は、誰にも譲らない。



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