都会のコウモリ
『Amici Pipistrelli Progetto』、コリエーレ・デッラ・セーラ紙のそんな表題が目に飛び込んできた。
直訳すると「コウモリお友達プロジェクト」と言ったところだろうか。こんな冗談のような表題の記事が全国紙コリエーレ・デッラ・セーラの紙面一杯に写真入りで大きく掲載されているのだ。
これは、中心街のアパートのテラスやベランダに『バット・ボックス』なる巣箱を設置して、都会に生息するコウモリたちに安息の場を与えようというプロジェクトなのだ。
コウモリと言うと、ドラキュラ城とは言わないまでも、樹海や洞窟に潜んでいるイメージがあるから、都市でコウモリというのは驚きだが、ここイタリアでは、公園や庭園などの都市の緑地にかなりの数のコウモリが生息しているのだ。
コウモリは夜行性だから昼間はどこかで眠っているのだろうけれど、彼等が安心して休める場所が年々減っている。そこで彼等に宿を提供し、迷える都市のコウモリ達を救おうと言うのがこのプロジェクトの趣旨なのだ。
無論、ただで宿を提供するのだけはない。虫を主食とするコウモリが家の周りに群がる蚊を食べてくれるから害虫退治のメリットもある。つまり、コウモリ愛護に貢献できる上、家からは蚊がいなくなると言う一石二鳥のプロジェクトなのだ。
コウモリと言うと吸血コウモリや、イソップ童話の卑怯なコウモリの話など、どうしても陰湿なマイナスイメージを抱きがちだが、この記事では様々なアングルから撮影したコウモリのアップ写真(顔だけ見るとハムスターのようで愛らしい)を掲載し、コウモリがどんなに有益で愛すべき動物であるかを詳しく紹介している。
その記事の最後で「バット・ボックスは25ユーロ、お近くのスーパーでお買い求め頂けます」とあったので早速近くのスーパーに言ってみたところ、残念ながらまだ売られている様子はなかった。新聞記事を改めて熟読すると、このプロジェクトはフィレンツェ市がフィレンツェ大学自然史博物館と協力して発足したプロジェクトで、対象となっているのは今の所、フィレンツェ市内に限られているらしい。しかし、全国紙のコリエーレ・デッラ・セーラでこれほど大きく取り上げられ、ボローニャ旧市街にもコウモリ達は生息しているはずだから、近い将来、ここボローニャのスーパーでも「バット・ボックス」が販売されることを期待している。
VIP待遇のコウモリに対し、嫌われ者なのが鳩だ。イタリアはどの町にもおびただしい数の鳩が生息しているが、付着した糞が建材や壁の塗装を腐食させ、建物老朽の原因になると言う理由で、どの都市でも鳩は忌み嫌われている。我が家では、排水溝に鳩が巣を作って、テラスが水浸しになったことがあった。
ここボローニャでも、窓縁や柱廊のアーチ下など、鳩が休めそうな場所に針山付のハトプロテクターを張り巡らし、街を挙げて鳩の締め出し作戦にかかっている。
巣箱まで用意して歓迎されるコウモリとは何と言う待遇の違いだろう。
ちなみに、図像学ではコロンバと呼ばれる白鳩は聖霊を表し、『キリストの昇天』や『三位一体』を主題にした絵画には必ず登場する、言ってみれば「神の使い」である。
一方のコウモリはメレンコリア(憂鬱)を暗示し、ドラキュラ伯爵の下僕なら悪魔の使者と言うことになる。それが、現実社会でのこの立場の逆転ぶりはどうだろう。
かく言う私も、鳩に巣を作られたら困るけれど、いつかコウモリには家のテラスに棲みついて欲しいと願うひとりなのである。




