黒の一族 その四
闇の路は、とてもではないがライガーの飛行には最適ではない。しかし、乗りこなしてしまえるのは、それぞれが上手に異能を使えているからだろう。
彼らはゼノロワの王国に向かっていた。ソラは覚えている限りの路を進むはずだった。
ただ、進めば進むほど、霧のようなものが発生し、何かに邪魔される感覚に陥る。
ソラは小さく呟いた。
「この先に進むと、危ないかも・・・。」
だが、その言葉は闇に吸い込まれていった。進むのを止めようと思った時には、何もかもが手遅れで。到達して、その場所が死なんてものよりも、もっと心の底から冷えた何かに埋め尽くされた。
ライガーから降り立ち、五人は、その巨大な鏡の前に立った。鏡に映っているその人物が、己だとは考えられなくて。ただ、ソラは彼が自分であり、本来の世界で生きる本人だと理解した。
田辺空也。コードネーム・ソラ。世界で巻き起こった魔法戦争に巻き込まれ、いつしか星の連なりの一人となった。夢鷹とは友人となり、共に戦いの中でお互いを助け合った。
今ここにいる残りの四人は現実に同じ名前の人はいるが、他の誰かのコピーだと気がついた。
夢鷹がいれば、もう少し冷静でいられた。
しかし、ここは、何かもが終わっていた。閉じられたこの鏡の中で、全てが答えとして目の前に鎮座した。
「はは、ははは、はははははあぁぁぁあ。」
ソラは笑った。からからの笑い声は、反響せずにどこかへと消えていく。
「終わった。何もかも。この世界がただの、ただの鏡の・・・。はぁ。どうして、どうしてかなぁ?なんで、俺は・・・。」
拳を振り上げ、そのままだらりと下げた。
「どう頑張っても、この世界は全部、閉じ込められていた。出られない世界を、どうして出ようと頑張れる?それに、俺は、ソラじゃない。空也じゃあない。じゃ、俺は、誰だ?なんでこんな!つまらない世界を造って・・・。馬鹿だろう?命を落としたゼノロワの民は、誰一人報われていないだろう・・・・。」
言葉は、ただ、その世界のその住人にしか聞こえない。
言葉はいつも静かに飲み込まれていく。
ソラは、この鏡の前で、過ごす選択をした。それは、その場にいる全ての人間がそうするだろう、選択。全ての意識が消えたカイ、グロウ、テイ、テアの四人は、やがて煙のような姿となり、どこか風に吸い込まれていった。
おそらく世界を巡らせるために、また何者かに変えられ、旅をさせられるのだろう。
この鏡の世界はそうやって巡っていることは間違いない。
ソラもいずれは徐々に記憶を失い、身体が消え、新たな何かになり、新たな生き物として生活するのだろう。
この鏡の世界が何のためにつくられ、何のために存在するのか。
「・・・。命よりも尊いものがあるなら、奴らにとって、鏡で永遠に生きることが『命』となると考えたか・・・。どちらにしても、この中で生き続けるのは、真実よりも苦痛だ。そして、現実から目を背けることで、逃げようとしたか・・・。はははははh・・・・!馬鹿な奴ら。苦痛なら、ここに、あるのに・・・。」
ソラは笑っては泣いた。
永遠の永遠の永遠の・・・。ここに終りなんてない。
鏡が割れれば中にいる者達はいなくなるだろう。ソラも、いなくなるだろう。
鏡はただ、くらい闇を反射して。
狂ったように笑い泣く、ソラの姿を映し続けた。
黒の一族 その四 おわり
それは、鏡の世界。終わりなき終りの世界。ソラはコピーされ、鏡の中で暮らしている。
一方の現実にいる田辺空也は、全く違う物語を歩む。彼は自分のコピーなど知らないし、その後も気がつくこともない。閉じられた鏡の世界は、いずれその兵器を生み出し、作り出したゼノロワの国が罪を贖うために、その命とその中で苦しむコピー達のために、魔力を注入し、鏡の世界のお祭りを作り出す。
その行事がいずれ多くの民の心と中で暮らすコピー達の傷を癒やすようになる。
それまでは、虚無と現実を知り、苦しむ、永遠の、世界が続く。
これは、鏡の世界。現実の人間が作り出した魂が動く、偽りを映す鏡の世界。




