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そらの降る場所  作者: あおぞら えす


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黒の一族

 ソラには愛する女性がいた。だが、その女性は呪いによって心を閉ざしていた。女性の呪いはゼノロワの呪い。彼女の持っている力のため。彼女はその力に蝕まれ命を削られていた。

『ソラ。聞いて。わたしはただの女で居たいのです。国のために生きることなど、私が求めた者とは違う。生まれてすぐに国を背負わされ、私にはこのレールを降りられない。だから、殺して、ほしいのです。』

彼女の願いを聞くことはできない。彼女の呪いを解き放てるほどの力を持たないからだ。

「私は、あなたの横に立つことしかできません。あなたを殺すことなど・・・。」

触れるほど近くにいるのに、彼女の命をとることもできない。彼女は泣いて、殺してと繰り返した。

 やがて、月日が流れた。ソラは王国を去った。去ることで彼女を忘れることにした。彼女の呪いはいずれ本人の望む死を与える。ソラにはそれしかできなかった。彼女が死を望むことはどの時代の女王がいずれも望み、やがて死が訪れたという。何が彼女たちを苦しめているのか。ソラは王国を離れた後にその原因を知ろうとした。


 ゼノロワの王国は他国とは比べることなどできないほどの脅威を保持している。それが異能という力。そして、王族たち。ソラが知っている国の内情は、驚くほど穏やかな国だということ。国民も争いを望まず、豊かな領土も国力が高いことを意味していた。

 それでいて、王族や貴族達は醜い争いをしている。自分の娘を神と呼ばれる者に献げ、子を産むことを強要するのだ。それも女児でなければ殺処分される。身勝手な王族と貴族。それが許されないことと理解しているにも関わらず、そうする理由。


『・・・玉座に隠された秘密。それは黒の書物に関する事実が・・・』

 途切れた紙を何度も読み返した。ソラが鋭い眼光をその紙切れを透かしてその先をみようとしていた。その紙には続きがあるようにみえるが、それで終わっている。

「おーい、ソラ。何しているんだ?」

朗らかに声をかける男は、若く見えるが命の終りの消滅という魔法をかけられているため、年齢は分からない。

「テイ。気になることがあるんだ。」

ソラが真面目に言うと、テイも真面目な表情になる。

「なんだ?」

「黒の一族という名を聞いたことは?」

テイはやや怪訝な顔をした。少し遠くに見えるテアを一瞬だけみる。

「ないが・・・。お前の探しているゼノロワの王国を消す方法にかかわっているのか?」

「あぁ。俺が気づいた些細なことだけど・・・。テアに話してもいいぞ?」

「そうだな・・・。あいつも気にしていた。」

 テアと行動するようになってから、テイは父親の顔をすることがある。当然だが、見た目が似ているせいか兄弟にもみられ、テアはテイと親子というより兄弟という感じで接する。血の繋がりは、テイの無理な行動を抑えることに一役買った。ソラはそれを少し羨ましいと感じ、それと同時に懐かしいとも思った。ソラの兄弟は遠くへ行ってしまった。命の向こうへ。

 黒の一族。ゼノロワの王国が閉ざした名前。名前を永劫に消してしまうためにとられた手段が殺戮だったと言われている。男系の王を決して作らせないために王を殺したとも言われた。最後のゼノロワの王と呼ばれたクインティ・ゼノロワ。男でありながら、神と呼ばれる遺伝子を身体に埋め込まれ、現存している元王。彼は今はもう人ではない。人造人間と化し、王族の女性から疎まれ、時には貴族の女性の遊び相手にされている。その王が、黒の一族の一人だと知った。あそこまでされたのは黒の一族だから。


 昔の出来事を掘り起こせば、ゼノロワの王国が立国した時、玉座に座ったのは男だった。月日が流れて男女が逆転したのはヒルワン王妃の出現からだった。彼女があまりにも美しく神の妃にと乞われたのは誰がみても当然だった。が、王妃の横には王がいた。彼は何故、美しい王妃を手放したのか。『神』が力のある権力者だという事実はもう分かっていた。だが、王もその玉座にいたからには、権力があったと言っても過言ではない。その手から王妃を手放したのは何故なのか。

 ヒルワン王妃が王になった理由が、『黒の一族』の離脱の可能性が高い。黒の一族には不思議な話がある。これはゼノロワの王国から離れた時に聞いた話だ。

 黒いローブをきた五人の旅人の話。彼らは歌を歌い陽気な雰囲気だったという。旅の目的地は『ゼノロワの黒い塔』だといい、彼らは自らを黒の一族だと名乗った。いわく、ヒルワンという蛮族が支配したその地に還り、黒い塔を起動しなければならないという。

 ゼノロワの王国に、黒い塔などない。そして、ヒルワン女王が蛮族だという事実は誰も知らない。


 このゼノロワの王国を多角的にみる必要があるとソラが決断したのは紙切れを一日ほど見続けたあとだった。

「おい、ソラ。あまり無理はするなよ。」

カイが注意するほど、ソラの顔が深刻だった。いつもの穏やかな表情などなく、どこか死ぬ場所を探しているようにも見えた。

「うん・・・。今から話すことがみんなを驚かせるかもしれない。」

「なんだ?」

「・・・実は、俺の先祖の話を思い出したんだ。この紙切れ一枚が、俺の記憶を吹き返させた。」


 それは、ソラがまだゼノロワの両親と共に過ごしていた頃の話だった。ソラには弟がいた。弟は他の貴族とは違い、濃い黒に近い色をした髪色で瞳も黒かった。ゼノロワの貴族で黒はそこまで多くない。母親は弟が産まれてすぐに自分に近づけないように言ったと言われている。ソラも弟と話をしていると、突然母親がヒステリックに弟を突き飛ばしたという記憶がある。まだ幼いソラにはそれが何を意味していたか、理解できなかった。成長する過程で、ソラは強い能力に目覚めた。それを周りは歓迎していなかった。ソラがもつ能力が弟の能力と同じだったためだ。ソラが婚約者を与えられたとき、貴族の務めとやらで、その女性を愛するほかなかった。愛は芽生えたが、彼女は呪いが強く出て『失敗』と言われていた。ソラの記憶の中で弟が突然消えたことはソラに婚約者を与えた時期とかぶる。弟が『消され』た可能性は否定できない。だた『王族』ではない弟を手にかけた理由。

 『黒の一族』の彷彿だった可能性。貴族でさえ黒髪はタブー視された。黒の一族がゼノロワの遺伝子に組み残された可能性。膨大な記憶を読み解き、ソラは自分の中にも黒の一族の遺伝子が遺されている。それに気づいた。もしもそうであるならば。

「俺やテアの中にも黒の一族という遺伝子があり、その遺伝子がゼノロワの根本的なデータバンクになければ、それはゼノロワの王国に唯一消された一族がいた証拠になる。それが、ゼノロワの王国で男の王が現れていない理由とも関係するだろう。」

「まぁ、ソラ様の言うとおりかもしれないですね。『黒色』が何を意味していたかも気になります。」

テアは同意しつつどこか腑に落ちない様子だった。

「弟は死んでいないんだ、実は。俺はあのときから見かけていないから、『消された』と勘違いしていた。あいつは生きていた。存在を消されたからといって『死んだ』ことにはならない。ゼノロワの王国には地下への入り口がある。ゼノロワの地下帝国にはおそらく、男の王がいる。そして、黒の塔も。」

「・・・それは、次の財宝のありかか?」

テイは小さく笑った。

「いやー?もっと大きなものかも。」

ソラがふんわり笑う。彼の調子は戻ってきた。

「地下帝国って聞くとなんだか面白そうですね。」

テアはくすくすと笑った。

「・・・全員、行く場所が決まったようだな?」

カイは深くため息をついて、にやりと笑った。

「・・・ゼノロワを攻略しますか。」

テイが右手を差し出す。

「おう!」

ソラとテアがその手を重ねた。

「行くならとっとと行くぞ!」

カイが最後に全員の手の上に乗せると全員がけたけた笑った。


愉快な冒険がこれからはじまるのだ。




黒の一族 その一

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