表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83歳實さん。異世界へ行く!  作者: 倉木元貴


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/30

29話

 アンナの結婚披露宴も終えて、村ではまた平穏な日常が営まれていた。實もその中の一人。いつも通り野菜の世話をして、昼食を食べて、また畑に戻って。そんな繰り返しの日々を過ごしていた。こんな年になっても實の元を訪れる若者は少なくない。知識や技術はすべて出したつもりだが、直接学びたいという若者は後を絶たない。


 若者への指導では、毎回のように同じことを言っているが、實はそれを面倒だとは思わない。これで農業が発展すれば、役目を果たしていると実感できるからだ。そろそろ神の使命も終わりに近づいていると何となく感じていて、できることはすべてしてしまわないとと、實自身も少し焦りを感じていた。そんなこともあって、神に「自分はいつ死ぬのか」と尋ねたことがあった。だが、正確なことは言われなかった。確かに、いつ死んでしまうのかを知ってしまうと、人生の面白みが欠けてしまう。


 まあ、神としてはいつだっていいのだが、こちらの都合で急遽ということもあり得る。だからこそ何も言わないのだ。こればかりは、本人に伝えるわけにはいかない。神に余裕がないことは知られてはいけないことだから。


 話を戻して、現在。實は昼からの作業をユリスに任せて、ニコライの元に向かっていた。


 ニコライには時々呼び出されていたが、基本的には昼からの作業を終えてからが多かった。昼過ぎに呼ばれたのは久しぶりで、實も何か大変なことが起こったのではと勘繰っていた。だが、顔を合わせたニコライを見ても、いつもと何も変わらず、深刻そうな様子はない。それはボリスも同じだった。


「それで、わしはなぜ呼ばれたのだ?」


「ああ、それなんだが、実は村がピンチなんだ……」


 まさか知らないところで何か重大な問題が……。生唾を呑み込み、冷や汗を腕で拭って、深呼吸を一度だけしてニコライの言葉を見守った。


「畑をしたいという若者が増えたことはいいことなんだが、増えすぎて畑が足りないんだ。それと、今季、町の方まで野菜を持っていきすぎて、若干食料危機気味」


 ニコライの言葉を聞いたボリスが、實の代わりにため息を吐いた。


「まあ、要は、ニコライが適当に輸出していたら出しすぎたってことだ。前半のことは今回の食糧危機には関係ない。だが、今後は言ったようなことが起こるかもしれないから、どうするべきなのか相談に乗ってくれってことだ。全て任せきっていた俺にも責任はある。だから俺からもお願いする。爺さん、何か知恵をくれ」


「ヤマさん。頼む」


 村長と村長補佐。二人から頭を下げられて、断れるわけもなく、快諾のような形で實は承認した。


「しかし……野草を食べることにはワシでも少し抵抗はある。それを強制したら反乱分子を生み出す可能性もある。実際、ワシのいた国でも同じようなことがあった。成功した例もあるが、よほどのことがない限り、行わない方が吉だろう」


「それは俺も同じ考えだ。隠すわけではないが、勘付かれない間に乗り越えられたらベストだと思う。不安要素は少ないとは言え、ないに越したことはないからな」


「そういうことだ。ヤマさん、なんとかできないか?」


「まあ、できないことはないだろう。前から少し気になっていたが、山の方に竹のような植物が見えていたんだ。筍があれば新しい食料とすることもできるだろ。蕨や葛なんかもあるかもしれん。あれば食糧危機は乗り越えることができると思う」


「そうか。助かった……さすがヤマさんだ。いや、本当にもう全てを終えるべきか悩んでいたから……」


 笑いながら言うニコライに、實は何も言えなくなっていた。ちなみに、ボリスは頭を押さえてため息を吐いていた。厄介な上司を持つと下が苦労する。こればかりはどこも同じのようだ。


「とりあえず爺さん。スルツキでも連れて何か持って帰ってくれ。新しい野菜として調理方法をまとめた書はこっちで用意する。報酬の方はニコライから出すから頼んだ」


「わかった。すぐにでも出発しよう」


 ニコライを除いて交渉を成立させた二人。ニコライは小言を何度も何度も呟いていたが、實もボリスも聞こえないふりをしていた。これがニコライの正しい扱い方なので致し方ない。


 ボリスの元を後にした實は、すぐさまスルツキの元に向かった。今から山に入るが、スルツキも来ないかと。断られたら一人で行こうと考えていたが、スルツキは快諾した。


「それにしてもヤマさんから山に誘うなんて珍しいですね」


「……ああ、まあな……実はワシの好物が山にあってな。ここでもあるのではと思ってな」


 実の息子であるが、ニコライのことは話していいのか悩んだ實。結果的に誤魔化すことを選択した。


「へえーそうなんですね。ヤマさんの好物ですか。それはさぞ美味しいのでしょうね」


「ああ、少し癖はあるが、食べれば絶品じゃ。少々難しいところに生えているから取れるかどうかわからんが、他のものなら比較的簡単に取れるものがほとんどじゃ」


「では今日は、比較的簡単に取れるものをお願いします。山の深くにはまだ入ったことがないので、近いところから攻めていきましょう」


「ああ、そうだな。地図ができるまでは深く入るのはやめておこう」


 實が先頭を歩いて、確か竹があったのはこっちの方だったと思うと勘を頼りに、二人は山の中を進んでいった。


 まだ木の隙間から村が見えるから、そんなには進んでいない。だけど、この辺にも食べられるものは生えているかもしれない。先に進んで探すのもいいが、この辺で取れるのなら気軽に訪れることができるから、見つけておくのも悪くない。


「この辺りで少し探そう。ここなら誰でも気軽に来られるから、少しの間食いつなぐのならちょうどいいだろう」


「そうですね。この辺りで取れるものがあるのなら、誰でも来られそうですね」


「あとは、何が生えているのか……」


 山の始まりで、比較的日光は当たっている。土は山特有の腐葉土。湿り気もある。これは近くを流れている川の影響か。それならたくさんの山菜が取れそうだ。だが、ゼンマイのようなシダ植物はほとんど見られない。それなら、うるいが生えているかもしれない。


 姿勢を低くして辺りを見渡すと、黄緑色の小さな木のようなものを見つけた。


 あった。うるいだ。


 駆け寄って、持ってきていた包丁で根元から切り落とした。柄の長さはうるいそのもの。あとは葉脈が中心線から伸びているかどうか。實が見た限りでは、間違いなくうるいだった。


「スルツキ。これと同じようなものを探してくれ」


「これって食べられるのですか?」


「ああ。食べれば美味しいものよ」


「わかりました。探してみます」


「その前にスルツキ。これに似て有毒な植物があるから、今から言うことをよく聞いていてくれ。まず、このうるいという植物には、ネギのような白い柄がある。有毒なバイケイソウには白い柄がなく、リーフレタスのように成長している。それと、この二つの植物を見極めるには、葉脈が重要じゃ。うるいはよく描かれるような中心線があり、その中心線から脈が伸びている。だが、バイケイソウにはその中心線がない。すべての葉脈が葉の根元から伸びておる。この二つのことに注意しながら採取していこう」


 實の話が長いので、スルツキは首を傾げていた。


「要は、ネギのようなものを探せばいいってことですか?」


「まあ、そういうことでも良い」

おもしろかったら評価、ブックマークよろしくお願いします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ