25話
ニコライが村長になって2日が過ぎた。
ニコライはザハロフが側近に置いていた人物をそのまま登用し、特にすることのない村長の活動を程よくこなしていた。
そして、ニコライの補助として、ニコライはボリスを側近に新たに置いた。事務的仕事は苦手だと一度は断ったボリスであったが、ニコライに説得されて結局は務めていた。役職名としては副村長という名が適切である。
ニコライは期待を込めて登用したのだが、その期待に反してボリスは「村長にだけはなりたくない」と、村長業務の補佐だけは拒絶した。
その頃の實はというと、ボリスという相方を失ったため、1人でボリスの畑を管理していた。タマネギの収穫を終えて、實は現世からサツマイモの苗を持ってきてもらい、ボリスの畑に植えていた。
實がサツマイモを選んだ理由は2つある。まず、サツマイモは管理が簡単だということ。付く虫が少なく病気にも罹りづらく、農薬を撒かなくても最悪なんとかなる。それに肥料もほとんどいらない。逆に肥料をあげすぎると蔓ばかりが伸びてイモができない。さらに、土の上に蔓が蔓延るので日光の当たることの少ない土からは雑草というものがほとんど生えない。蔓が伸びたら途中で「蔓返し」といって、伸びた蔓からも根が生えているのを引っこ抜いて根を切る作業をしなければならないが、適当に育てるとそこそこの収穫量を得られる。
腹持ちもいいし、他の野菜のようにタネから植えなくていいのも楽でいい。代わりに、サツマイモの近くに他の野菜を植えたら畑の栄養を奪われてしまってうまく生育できない可能性もある。蔓が隣の畑に伸びないように注意が必要だが、伸びすぎたら切ってしまえばなんとかなる。
特に老体には作業が少なくて楽なのだ。
畑仕事をこなしていた實の元にスルツキが現れた。
「ヤマさん。調子はどうですか?」
ボリスの畑を突然任された實を心配して手伝いに来ていた。
「ありがとう。順調に進んでいるから大丈夫じゃぞ」
「それはよかったです。それにしてもこれは何の野菜ですか?」
「サツマイモという名のイモじゃ。蒸しても焼いても美味しいんじゃぞ。それこそ小さい頃は食べるものが少なくて、よく食べていた。思い出と呼べるものではないがな」
「へえーそうなんですね。できるのが楽しみですね」
「ああ。育てるのは久しぶりじゃが、どんな出来になるのか楽しみじゃ」
「ヤマさん。僕でも育てることはできますか?」
「ああ。サツマイモは簡単にできる分類じゃからすぐにできるぞ。それに増やすのも簡単じゃから、今年はできなくても来年にでもできるぞ。畑に空きができたのならワシが苗を贈ろう」
「ありがとうございます。その時になればお世話になります。あ、そうだ。空きといえば、サムさんが昔使っていた畑があるのですが、とう……ニコライ村長も使い道にあぐねていて、活用できるかはわかりませんが、使えそうな畑ならヤマさんが自分の畑にするのもいいんじゃないですか?」
突然のことに實は困ったが、もし自分の畑を持てるのなら好きに何でも作れると了承した。
「だが、まずは畑が使えるのかを確認してからじゃな」
「はい。今日の作業が終われば早速向かいましょう。僕はもう今日の仕事は残っていないので終わるまで付き合いますよ」
「ありがとう。早速、サツマイモの植え方を教えるが、何も難しいことはない。何ならどの野菜よりも簡単じゃ。まずはこの直径3センチの木の棒を用意する。これはその辺に落ちている木で十分じゃ。これを畑の畝に斜めに差し込む。そして抜いた穴にサツマイモの蔓を植えて、軽く土を被せばこれで完成じゃ。最初は風に飛ばされないように石などで押さえるといいが、なければ植えてから土を強めに抑え込むだけで大丈夫じゃ」
「なるほど。石を置くのはなんだか斬新ですけど、そういうのもあるんですね」
「他にも新聞紙……まあ、適当な紙じゃ。それを使って押さえたりもする。要は何でもいいから飛ばないように押さえだけしておけば育つんじゃ。植物はそう柔ではないからな」
「なるほど。そんな手もあるんですね。とても勉強になります。他にもあるのですか、変わった野菜の育て方」
「ああ、野菜を育てる方法なんていくらでもある。だから好きに育てるといいが、あれもこれもと知ってしまったら逆にどうするべきなのか悩んでしまうこともあるかもしれん。慣れた方法で育てるのが一番いいぞ。だが、知っとくのは悪くはない。また時間ができたら少しずつ教えていこう」
「ありがとうございます。よろしくお願いしますヤマさん」
サツマイモの苗を畑に植え終えた2人は、ザハロフが使っていた畑にやってきていた。
ザハロフが村長に就いたのが7年前の話。7年の月日というのは実に残酷で、實とスルツキの目の前にあるのは畑と呼ぶには荒地と化していて、一種の森の入り口なのではと思うほどであった。
「流石にずっと手入れをしていないと荒れますね。僕らの畑でも草を抜かないとこうなりますよね」
「ああ、これは開拓のやりがいがありそうだ」
「僕も手伝います」
「頼む」
日本にいた時も雑種地を開拓して畑にしたことはあった。1反(約1000平方メートル)の畑だったが、背の高い草に覆われていて、毎日7時間程度を4日かけて何とか作物を植えられる状態にまで持っていった。
今目の前にある畑はあの時の畑よりも遥かに大きい。3倍から5倍はある。若いスルツキが入ったと言っても、昔のように實も動くことはできないから、どんなに早くても2週間、遅ければ1ヶ月。もしくはそれ以上。
實は思った。少しずつ耕してから暫定的に使っていこうと。そうでもしないと身体がもたないと感じていた。
「広いから少しずつ広げていこう」
「そうですね。ここまで広大な土地だとは思いませんでした」
♢♢♢
土地を広げ始めてから2週間。畑のほとんどを耕し終えた實とスルツキ。開発が進んだ場所に實はトウモロコシを植えた。
夏真っ只中は気温や日照の関係で畑が乾きやすく、種を植えても芽が出てこないこともしばしば。このトウモロコシは、ボリスの家の裏で密かに芽出しを行ったものである。芽は出ているが、これからの気温次第では枯れることもあるかもしれない。管理も兼ねながらの開発は、余計に時間を費やした。
土地を広げ始めてから3週間。スルツキの協力もあり、畑の開発を完了させた。
「スルツキ、ありがとう。おかげで早く終わったよ」
「いえいえ。ほとんどヤマさんが行ったじゃないですか。僕なんて手伝えているかどうかですよ。でも、よかったですね。父さんもここの畑を自由に使っていいと言ってくれたので、ヤマさんの畑ができましたね」
「ああ。ありがたい限りじゃ」
村で畑を手に入れた實。日本にいた時のような生活を、やっとの思いで送れることができると期待に胸を膨らませていた。
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