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83歳實さん。異世界へ行く!  作者: 倉木元貴


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18話

 謎の人物に囚われ、馬小屋に閉じ込められた實とユリス。2人は相談をしながら、ここから逃げる算段を立てようとしていた。だが、手も縛られていて、紐を解く手段もないため、どの計画もすぐに頓挫してしまっていた。


「何か他にいい案はないか?」


「そうですね……相手の素性もわからないので、下手な動きはできませんしね。相手が誰だかわかれば行動もとりやすくなるのですが……」


「声がすれば大抵はわかるのか?」


「そうですね。狭い村なので、声が聞こえたらわかると思います」


「なら、まずはワシらを誘拐した奴らの声を聞くことから始めようか」


「……了解です」


 實の作戦はこうだ。まずはこの場所に訪れた誘拐犯に實が話しかける。その声を聞いてユリスが犯人を特定する。ユリスが特定したその人物を神にお願いしてボリスに伝えてもらう。もちろんボリスが危ないことをしないようにも願うつもりだ。ボリスなら何も持たずに勢いそのままで向かってきそうだから。危なっかしい人間だから、囚われていることもできる限り伏せておきたいが、この村で頼れるのが實にとってはボリスだけ。たとえスルツキに言ったとしても、ボリスには必ず伝わる。それに、ボリスが一番信頼できる人間だから。


「ユリス。手筈通りに行くぞ」


「はい」


 實とユリスは、夕刻または夜になれば誰かがご飯でも運んでくると踏んでいた。だが、真っ暗になって気温が肌寒くなっても、誰一人として人は来なかった。


「ヤマさん……」


「なんじゃ……」


「……誰も来ませんでしたね」


「………………」


 實は当然のように言葉を失った。見られていないが、麻袋の中で俯いていた。深いため息も静かに吐いていた。


「まさか。誰も来ないなんて想定外なんじゃ。1日2日くらいなら食べなくても大丈夫じゃろうが、水は飲まないとすぐに死んでしまう。困ったな……」


「僕の持っている竹筒でよかったらありますけど、縛られていたら飲むのは難しいですね」


「そうだな。幸いにも前で手を縛られているが、麻袋の外じゃから口まで持っていくことができんな」


「このまま誰も来なかったら、僕たちどうなるんですかね」


 人知れず不安を漏らすユリス。その言葉がまた實の心を締め付けていた。何か励ませるような言葉をかけてやりたいが、ワシのせいでこんなことになってしまったから、なんて言葉をかければいいのか。麻袋で何も見えないが、上を向きながらため息を吐いた。それもユリスには聞こえない悔いの小さな音で。


「2、3日状況が変わらないのであれば、ワシがどうにかしよう。ユリスにはこれ以上の迷惑はかけん。それだけは約束しよう」


 實は自身の喉が限界になるであろう期間を設けて、何もなければ神の鈴を鳴らすことを決めた。もうこの状態から何時間経ったのかわからないが、じっとしている分、余計に眠気がして、それを我慢するので精一杯だった。次第に耐えるのが難しいくらいの眠気。目を瞑ればそのまま眠れそうなほどの眠気。多分、側から見たなら気を失ったかのように眠ってしまう自信があるくらい、實は眠かった。


「ユリス。起きているか?」


「ええ。眠気はありますけど、なんとか」


「考えたんじゃが、このまま起きていてもどうしようもない。交代で寝て、何かあれば起こすのではどうじゃ?」


「そうですね。僕もそろそろ眠気が限界なので、それはありがたいです」


「よし。ユリス、先に寝るか? ワシはもう少し起きていられそうだから、限界を迎えているのなら先に寝てくれ。2時間くらいで起こす」


「わかりました。お言葉に甘えて先に寝ます。おやすみなさい……」


 2時間。實はそう言ったものの、時計もなく、目標になるものもないこの場所でどうやって2時間を測るのかを考えていた。まあ、結論から話して、手も縛られているから何もできることはなく、体内時計でそうするしかない。眠気に襲われていた實がこのことに気がつくのは、もう少しかかるのだが。


 何もせずに時間が過ぎるのを待つのは拷問のようだった。それも、座ってなければ寝てしまう環境の中ではなおさらのこと。そろそろ腰が痛み出したから背もたれが欲しいと、座った姿勢のまま壁に移動した實。背もたれを確保してもたれかかると、夢の世界に入りかけて頬を殴れないものだから壁にぶつけて自分自身に喝を入れた。ヒリヒリと痛む頬。さすりたいが、なんせ手が縛られているから顔の前まで持っていくこともできない。今更ながら、なんでこんなことをしてしまったのだろうかと、後悔していた。また深くため息を吐いていた實。ガサゴソとした音に顔を向けると、ユリスが突然話し出したのだった。


「ヤマさん、交代します」


「すまん。起こしてしまったか?」


 まだ全然ヒリヒリとしている頬。そこそこ大きな音を出してしまっていた自覚はあったから、申し訳なく思っていた。


「いえいえ。少し怖い夢を見まして起きてしまっただけです。気にしないでください」


「そうか……ワシも2時間経ったら起こしてくれ。眠りは浅いほうだから、起こすのに苦労しないとは思うが、もし起きなかったら叩いてでも起こしてくれ」


「わかりました。でも、気にせず眠っていてください。もし朝まで眠っていたとしても、僕はヤマさんを責めたりはしませんよ」


「ありがとう」


 實が眠りにつこうとした瞬間だった。ガタガタと大きな物音がして、聞き覚えのある声が聞こえたのだった。


「ユリス……どういうことだ……」

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