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孫は見た──和子のほんわかばあちゃんライフ、その衝撃の裏側

作者: 宵二咲ク

※本作は完全なフィクションであり、実在の人物・作品とは一切関係ありません。

ほんわかばあちゃんは俺の脳内で元気に創作活動しています。


 俺のばあちゃん、加寿子。世間一般のステレオタイプを地で行くような、ほんわかとした日常エッセイ「和子のほんわかばあちゃんライフ」を「小説家になろう」で連載している。しかも、俺の連載よりよっぽどPVが多い。正直、解せない。 


 でも、俺は知ってる。ばあちゃんは筋金入り、コミケ黎明期からの参加者で、描く日常はだいぶ盛ってるってことを。


 例えば、日記に出てくる「庭で採れた朝摘みいちごを使った手作りジャム」なんて話、あれ、ほとんどウソだから。ばあちゃん、家庭菜園なんてやったことない。あのジャムの瓶、実は頂き物の高級ジャムの空き容器を再利用して、中身は業務スーパーで買ってきた大容量ジャムを詰め替えてるんだ。しかも、「近所の優しいお兄さんが家庭菜園の余り物を分けてくれるの」ってエピソード、あれは俺が買いに行かされたスーパーの特売品だし。


「地域の人々との温かい交流」だってそうだ。作品の中では、ばあちゃんは町内会の活動に積極的に参加し、優しいお隣さんとの交流を楽しんでいる。だけど、実際は違う。ばあちゃんは町内会の会合には一度も顔を出したことがないし、地元の商店街じゃなくて、わざわざ電車に乗って隣町の大型スーパーまで買い物に行ってる。


 極めつけは「かわいい孫とほっこりお茶の時間」なんて、あんな優しい眼差しで俺を見てたことない。実際は──


 ばあちゃんは俺のなろう連載を開いて3秒でこう言った。

「設定が甘い。世界観に奥行きがない。あとこの子、性格ブレてる。推しにするには芯がないね」

 お茶を淹れてくれたのは確かだ。でもそのあと一時間以上、俺は聞かされた。80年代、雨の中をコピー紙500部抱えて始発で会場入りした話。列をさばくために手旗信号を覚えた話。

 挙句、「私の三作目の方がまだマシだったね、ページ破れたけど勢いはあった」とまで言いやがる。

 どこがほっこりだよ?胃薬必須なほっこりなんてねーよ!


 それから、読者に「おばあちゃんの誤変換、かわいいですね」「機械は苦手なんですね」なんて言われてるけど──

 あれ、ぜんぶ計算づくだ。

「孫が がっこおで がむばっているようです」とか書いてるのは、全部意図的。しかもその裏では、表記ゆれを利用して検索に引っかかりやすくするSEO対策までしている。

 俺のスマホより先にタブレットを買い替え、しかも画面保護フィルムは自作。音声入力の精度が悪いときは、Siriに向かって口調を変えて話しかけ、調整している。

 なのにプロフィール欄では「スマホは孫に教えてもらってます」とか書いてやがる。

 教えた覚えなんて、一度もない。


「和子のほんわかばあちゃんライフ」は、ばあちゃんのかつてのオタク活動で培われた妄想力が生み出した、もう一つの顔だ。

 あのPVの多さ、もしかしたら、ばあちゃんの古参オタク仲間たちが組織票入れてるんじゃないかと、俺は密かに疑っている。よくコメント入れてる“ビブロス⭐︎たえ”とか怪しい。


 そんなばあちゃんが最近ぽつぽつと扱うようになったテーマが「終活」だ。

 俺もさすがに少ししんみりしながら読んだんだ。けど……。

 主にやっているのは、デジタル終活。

 黒歴史ファイルの大掃除だ。

 爆発物処理班みたいな顔で、ファイルを開き、自作にツッコミを入れながら、削除削除削除削除、我が恥の結晶よ、永遠に眠れ!と、キーボードを叩いている。

 ……正直、ちょっと見たい。どこかで誤爆してくれねぇかな?


 そんな作業が、『終活とわ、自分の過去と向き合うことなのです。しかも、よりによって一番見たくない部分と。これが終わる頃にはばあちゃん、悟りを開けるんじゃないかな。それか、もう生まれ変わっちゃってるかもしれない。』(原文ママ)になってるんだよな……。


 ──なんて暴露しといてなんだけど、俺、たぶん、ばあちゃんのこと、ちょっと尊敬してる。

 あんなに盛りに盛って、ほんわか詐欺みたいなことしてるくせに、それをブレずに「日常」だって言い張って、笑える話にして、誰かを元気づけてる。

 俺の書く物語には、たぶんまだそれがない。

 ばあちゃんの“ほんわかライフ”は、現実とちょっとズレてるかもしれないけど、そのズレの分だけ、読んだ人の心に余白を残すんだと思う。うそでも本当でも、和子ばあちゃんの日記は、今日も誰かの画面に、小さな灯りをともしてる。

 そして、俺もたぶんそのひとりだ。

 ……くそ、やっぱりちょっと悔しいけどな。


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― 新着の感想 ―
この酷評の切れ味しかも3秒で(ぐはっ) そしてこのギャップを見て育つ孫なのですね
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