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まさに快晴。
波も特には気にならない。少し太陽が眩しいくらいか。
ヘルメットのシールドを下げる。眩しさは少しはマシになる。
出走のランプが灯り、コースへ飛び出していく。
さっきの気合はどこへ行ったんだと言いたくなるくらい、中川さんはスタート展示とはいえ、割り込みをして前付けに来ることなく、すんなりと2コースに入った。
正直、無理矢理にでも1コースを奪いに来るんだろうと覚悟していた。
スタート展示は、本番とは違うので油断をさせて本番では1コースを取りに来るかもしれない。
ただ、中川さんは心理戦を仕掛けてくるような人には見えない。
やはりクビがかかるレベルということもあり、シンプルに実力不足で1コースを奪えなかったのだろう。そこまで抵抗したつもりはないし、無理矢理来たらどうしようと警戒はしていた。
それにしてもあの気合、テレビやネットで大きなレースのように近くで撮影しているカメラがあったら、オッズが大きくかわっていただろう。
大時計がゼロに向かっていく。
ボートレースは「フライングスタート方式」というのを採用している。
モーターはスタートラインで一斉に停止し、ヨーイドンとは行かない。
そのため、大時計というものがあり、0秒から1秒の間に選手はスタートラインを通過する。
簡単に言えば、「見えないスタート」を切っていく。
0秒よりも早くスタートラインを超えれば「フライング」として、舟券は返還となり、レースに参加できず、レーサーにも罰則がある。
逆に1秒よりも遅くスタートラインに達しなかった場合も「出遅れ」として、フライングと同様に舟券は返還となり、レースに参加できず、レーサーにも罰則がある。
自分で決めている目標物、0コンマ何秒という秒数、風向きと距離、最後は感覚でスタートラインを目指す。
今日は伸びが欲しかったのと、気になるのでスタートまで9.25秒ほどで145m付近でスロットル(アクセル)を入れていく。
「どうだ?」
スタートラインを過ぎた頃、向こう正面のバックストレッチに入り、大型ビジョンをチラッと横目で見て確認をする。