6
モーターの回転数、ともに理想のセッティングに近づいた。
記者には言わなかったが「負ける気がしない」とはこういうことだろう。
その後、試運転で2周コースを回った。
出足はもう少し欲しいが、周り足、伸びに関しては言う事がない。
ただ、このメンバーであれば、この出足で満足だ。
もうモーターの調整や整備はいらない。ここからは、もはやメンタル調整だ。
控室に戻り、プレイヤーでストフラの曲を聞く。
テンションを戦いに持って行くにはこれが一番だ。
深呼吸をして、展示ピットへ向かう。
ボートレースでは、レース前に「スタート展示」というものをおこなう。
それは次のレースに出場する選手が、本番のレースを想定したスタート練習や、ターンをおこなう。
ファンはそれを見て、モーターやボート、様々な良し悪しの最終確認をする。
最終確認は選手にとっても同じだ。
「やべぇな…」
3号艇の橋野のヘルメットから小さく漏れた声が聞こえる。
クビがかかってる2号艇の中川さんが、食堂から持ってきた大量の塩を地面に撒いている。
いや、もはや大きく巻き散らかしている。
職員も注意がしにくい。悪いことではないが、お清めにしては量が多すぎる。SNSで有名になった力士の取り組み前のようだ。
「よーーし!!」
大きく握りこぶしを作った中川さんの声が響く。
気合の入り方が凄い。もう、空回りは避けられないほどだ。
「始動!」
職員の声とともに、モーターを始動させる。