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「お疲れ様でーす」
仕事のあいさつのように高原ちゃんに挨拶をする。
「いつもありがとう!さぁ、何にサインする?」
笑顔にドキドキしながら、手袋を差し出す。
「手袋?なんか硬いね」
「仕事用の手袋でさ。気合入れてよ」
「仕事用なら、丁寧に書かないとね…」
ゆっくりとサインを書いているところに話しかける。
「ボートレースって知ってる?」
「なんかSNSとかで映像は見た事はあるよ」
「僕は選手なんだよね。いつも高原ちゃんのダンスにパワー貰ってるよ」
そういうとサインを書きながらこちらを見てくる。
「スポーツ選手すごいじゃん。絵も書いちゃお」
そう言いながらピンクの手袋に書いてくれたサインには、高原ちゃんの得意なカエルの絵と「無事にカエル!」の文字が踊っている。
危険が伴うレーサーとしての仕事ではあるが、一番大事なのは無事故であること。それをアイドルに再認識させられるとは…
「ほぉ…ストフラパワーで優勝と…」
記者のペンが走るメモを止める。
「これもオフレコで頼みますよ。ヘタにSNSが炎上しても困るんで」
今は何が炎上するのか分からない。
なんなら今レース場に居て、通信機器が触れない今、過去の何かが炎上している可能性だってある。
「わかりました。ありがとうございました。またアイツもよろしくおねがいします」
そう言いながら記者は記者室を指差していた。
「こちらこそよろしくです」
少しふざけたような深い礼をしてレースに気持ちを切り替える。
そろそろ自分のレースに向けて温める機械に入れて準備していたプロペラが完成する頃だ。